こんにちは!札幌と筑波で蓄電池材料研究をしている北大工学系大学院生のかめ (M2)です。
最近の電気自動車ブームに伴いリチウムイオン電池など『電池』が注目を集めていますが、リチウム電池にも様々な種類があることを皆さんはご存じでしょうか?
この記事では、次世代型蓄電池の材料研究に携わる現役大学院生が5種類のリチウム電池について、最近(2023年2月現在)の情勢を踏まえつつ解説していきます。
- 電池に何となく興味がある方
- もっと電池について詳しく知りたいという方
こうした方々にピッタリな内容なので、ぜひ最後までご覧頂きたいと思っています。
それでは早速始めましょう!
リチウム電池には5種類ある
ひとことに『リチウム電池』と申しましても、実は5種類のリチウム電池がございます。
- リチウム一次電池:実用段階
- リチウムイオン電池:実用段階
- リチウム硫黄電池:応用研究段階
- 全固体電池:基礎~応用研究段階
- リチウム空気電池:基礎研究段階
それぞれの電池について、特徴や強み、また弱みを説明していきます。
実用段階
リチウム一次電池:使い切りタイプのリチウム電池
リチウム一次電池とは、充電が出来ないタイプのリチウム電池のこと。
工場などで一度組み立てられた後は放電する方向にしか反応が進まず、元に戻れない不可逆反応を進めるから”一次”電池というわけです[参考文献]。
リチウム一次電池は使い切り型。家電製品やワイヤレスマウスなどに用いられるアルカリ乾電池と同じタイプの電池です。
強みは高出力と大容量。リチウムを用いているおかげで高い起電力が高くパワーを発揮できますし、加えて容量も大きいから使い始めた後は当分の間、電池を交換せずに済みます。
リチウム一次電池は一次電池の中で際立って優れた電池特性を有しているため、これまでのアルカリ乾電池や酸化銀電池などに取って代わる形で活躍のフィールドを拡げています。
身の回りには時計や車のワイヤレスキーにボタン電池として用いられているほか、見えない所では水道やガスのメーター内で年中休まず腕を振るってくれています。
そんな凄いリチウム一次電池ですが、電極に”リチウム”という高価な金属を使用するため値段が高いという短所があります。
高いゆえにその他の一次電池を完全に代替するまでには至っておらず、多少値段が高くても問題ない機器へ主に搭載されている印象を受けます。
リチウムイオン電池:使い切ってもまた充電できる二次電池
リチウムイオン電池とは、使い切ってもまた充電して使えるタイプのリチウム電池です。
先ほどのリチウム一次電池とは違って電池の電極にリチウムが使用されている訳ではなく、正極と負極の間をリチウムイオンの状態で動き回るからリチウム”イオン”電池と呼ばれるのです。
リチウムイオン電池は実社会で大活躍中。1991年にソニーと旭化成が商品化に成功して以来、身の回りでは携帯機器やノートパソコン、産業界では人工衛星といった宇宙空間にも活躍の場を拡げています。
最近ではリチウムイオン電池を電気自動車(EV)に載せようという流れが進み、これまでEVに載せられてきたニッケル水素電池や鉛蓄電池を飲み込む勢いで社会へ急速に浸透しています。
リチウムイオン電池のすごい所は、高い電圧や長い寿命、大容量や自己放電の少なさといった、電池に必要な様々な特性を高次元で兼ね備えている所です。
電池産業を”産業のコメ”と言われるまでの地位に押し上げたのは、このリチウムイオン電池の持つ優れた特性のおかげなのです[参考文献]。
そんな大活躍中のリチウムイオン電池ですが、研究されすぎてもうこれ以上容量を拡張できない所まで達してしまっている現状。
今後EVの航続距離を伸ばしたり、再生可能エネルギーを蓄える蓄電池としては少々役不足であります。
加えて、EVがガソリン車を上回るために必要となる充放電速度の遅さについても次なる課題となっています。
リチウムイオン電池の性能を上回る”ポスト・リチウムイオン電池”の登場が待望されているのです。
基礎~応用研究段階
リチウム硫黄電池 (応用研究段階):正極に硫黄を用いる二次電池
リチウム硫黄電池とは、正極に硫黄を用いる”現在構想中”の二次電池です。
まだ実用化されている訳ではなく、国内外の研究動静を見ても応用研究段階だと考えられます。
リチウム硫黄電池の強みは低コストと容量の大きさ。
電極に用いる硫黄は火山大国・日本で豊富に採取できるため安く入手できますし、その硫黄の理論容量はリチウムイオン電池の正極より10倍近くも大きいのです。
しかし、リチウム硫黄電池は
- 副反応により正極の硫黄自体が電解液へ溶け出てしまうこと
- 電極の硫黄自体が絶縁性であり導電性の確保が必要なこと
- リチウムの析出形態が凸凹となるため発火リスクを秘めていること
主にこの3つを課題としています[参考文献]。
①に関しては副生成物を溶かさない電解液を使うことによりほぼ解決し[参考文献]、②についても既に何らかの工夫により解決が図られているのですが[参考文献]、③のリチウム析出メカニズムについては未だ未解明で私も頭を悩ませている所です。
この【リチウム析出メカニズム】、もし全貌が明らかになれば構想段階の次世代蓄電池の実現が一気に近づくのです。
ただ、こう言われてきて何十年も未解明のままなので、ひょっとすると”分からない”というのが結論になってしまうかもしれません…
決して諦めるつもりはないのですが、電流密度を上げるとどうしても析出形態が凸凹してしまうため[参考文献←私が書いた論文です]、個人的には (もっと小さい電流密度で使えばええやん)と思わずにはいられません。電池の充電速度を上げてガソリン車に勝つだなんて厳しいと思うんですよね…
全固体電池 (基礎~応用研究段階):電解質が固体の二次電池
全固体電池とは、電解質を液体ではなく固体で設計した二次電池です。
これまで、そして次に述べるリチウム電池は電解質を液体としてデザインされていたのですが、全固体電池は電解質が固体なので電池全てが固体であり、そのため”全”固体電池と呼ばれております。
全固体電池の魅力は安全性と充放電速度の速さです。
通常のリチウム電池の電解質は”有機電解液”といって石油みたいなものを使っており、電池内でショートが起きた際の火花で引火し発火事故が起きてしまうのですが、全固体電池は電解質が難燃性のため、万が一ショートしたとしても燃えず大事には至りにくいという強みがあります。
加えて、全固体電池の電解質内ではリチウムイオン(Li+)のみが動き回ります。
これまでの液系リチウム電池ではLi+以外にもアニオン(マイナスの電荷を持つイオン)や溶媒が動き回るためソコでエネルギーロスが生じていたものの、全固体電池はLi+しか動かないので液系電池より素早く充放電を行えます。
しかし、全固体電池は電解質が固体のため、電極と電解質の接触を維持し続けるのが難しい点を課題とします。
仮に全固体電池がEVに搭載されたとして、絶え間なく電池を揺るがす衝撃により電極|電解液界面の接触面積が変わりはしないか?というのが懸念となっています。
また、電解質に硫黄分を用いるため、もし電解質と空気が触れ合えば硫化水素が発生してしまう可能性があります。
こうした大気安定性の低さが工場での電解質大量製造時のハードルとなっているのです。
なお、最近は”トヨタや村田製作所などが全固体電池の製造に成功した!”との報道をよく耳にします。
株主向けのパフォーマンスなのか本当の話なのか真偽のほどは不明ですが、少なくともラボスケールでの動作は確認されたみたいなので、今後、電池をさらに大型化して実用化にこぎつけて頂きたいですね。
リチウム空気電池 (基礎研究段階):正極に空気(酸素)を用いる二次電池
リチウム空気電池は、正極に金属ではなく空気を用いる二次電池です。
正極側の集電体を通して外部から酸素を取り込み、
- 負極:Li ⇄ Li+ + e–
- 正極:O2 + 2Li + 2e– ⇆ Li2O2
という反応によって電気を得る仕組みです[参考文献]。
リチウム空気電池の大きな強みはコンパクトさと圧倒的大容量の2つです。
正極活物質が不要な分だけ電池の体積を抑えられるため小さな電池を作れ、電池自体も軽量となるため単位重量当たりの貯蔵エネルギー[Wh/kg]がリチウムイオン電池の5倍以上となります。
ただ、リチウム空気電池はサイクル特性やクーロン効率の低さが実用化の壁として立ちはだかっています。
充放電を繰り返すとすぐ電池がダメになって貯めこめる容量が急速に低下してしまったり、充電しても放電時にエネルギーロスが大きかったりするなどまだまだ課題が山積みです。
リチウム空気電池は現在の所、基礎研究の段階だと考えられます。
産官学が総力を挙げて実用化に向け研究に取り組んでいる所です。
最後に
リチウムを使った5種類の電池についての解説はコレで以上となります。
皆さんの情報収集の参考になれば幸いです(*≧∀≦*)
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