⑦⑧化学メーカーI社・電機メーカーH社:経験不足
一社や二社ならまだしも、六社も落とされたら萎える。実力不足で順当に落ちたのは国研と商社ぐらいで、あとは何かしら理不尽な理由でリジェクトされている。
これは”現職に留まれ”という神様からのお告げなのだろうか。あるいは、”試練を乗り越えてこそホンモノだから頑張れ”とエールを送ってもらっているのか。エールにしては厳しすぎる気がするし、いずれにせよ、同じやり方を続けても活路は拓けない。
我流でやるからいけないのだろう。こういう時はプロに頼るに限る。猫の手を借りて企業をネコパンチしていただくべく、転職エージェントに相談した。
エージェントに不採用遍歴を伝えたところ、「それは災難でしたね」と同情された。博士号を持つ技術系社員で六社連続リジェクトってなかなか無いでしょう。胸の内を吐露できて、ほんの少し気が楽になった。六社に送った書類を見ていただいたが、特に問題はないらしい。「転職ってタイミングの問題ですし、こういうこともよくありますから」と慰めていただいた。
エージェントさんと話し合いを重ね、転職活動の軸を整理した。私の転職に軸がなく、考えが取っ散らかっているから、受かるものも受からないのだとか。さすがに色々受けすぎたか。回転寿司じゃないんだから、つまみ食いも程々にしておかねばなるまい。エージェントさんとの密談を通じて、電池材料×研究の二軸へ原点回帰した。
翌日、エージェントさんからメールが届いた。私に合いそうな企業を50社見繕い、求人票を送ってもらった。吟味に珍味を重ね、応募先を10社に絞った。いきなり全部エントリーするのもアレなので、まずは5社にエントリーした。一社ぐらいは通ってくれよと祈りながら。
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応募から一週間半後に化学メーカーI社から連絡があった。経験不足での書類不採用だった。経験不足と言っているけれども、要は社歴が短いと言いたいのだろう。
確かに一年半で移るのは早いかもしれない。しかし、私は博士課程を経験しており、社歴以外に三年分の実務経験がある。実質四年半の経験があるのだ。それでも落ちるのか。あるいは、日系市場では社歴しかカウントされないのか。
続けて電機メーカーのH社から書類不採用通知があった。本来は書類通過だけれども、先に応募していた方が内定して私のポジションが無くなったらしい。転職活動は椅子取りゲームなんだなと改めて実感した。
八社連続で落ちて意気消沈した私のもとに、三社から書類通過の通知が来た。ようやくだ、ついに道が開けたぞ。どこにも通らないのではないかと落ち込んでいただけに、嬉しくて涙腺が緩んだ。
⑨空港H社:セルフ不採用
順番的には三社の最終面接が先だが、先に不採用だった話を全部しておきたいので、順序変更してお送りする。最終面接直前、空港運営企業のH社にエントリーした。
小さいころは飛行機になりたかった。大空を高く自由に羽ばたく飛行機に憧れていたのである。人間は飛行機になれないと分かると、次にパイロットを志望した。パイロットになれば色々な国に行けるし、CAさんとイチャイチャできるのではないかと期待したのだ。しかし、絶景スポットで親に背中をドンと押され、高所恐怖症をこじらせて夢を諦めた。
パイロットが無理なら飛行機の材料を作ろうと考え、材料系専攻に進んだ。講義を受けているうちに電池の方が面白くなっちゃって、気付いたら電池を研究していた。博士課程まで進み、もう電池の道から引き返せなくなった。
そんなこんなで空の仕事から離れた私だが、航空業界への想いがなくなったわけではない。国家資格の総合旅行業務取扱管理者資格を取得し、いつでも航空業界を目指せる態勢だけは整えていた。あと、月刊エアラインを購読して飛行機関連の知識を収集していた。
せっかく転職活動するのだから、航空業界も受けてみてはどうか。この機会を逃せばもう受けられないだろうし、夢や憧れを昇華させられるラストチャンスなのではないか。空の仕事にも様々ある。パイロットやCA、グラウンドハンドリング、航空整備士に航空管制官など無数に存在する。理系転職となれば整備士あたりが有力だろうか。
色々調べていくなかで、空港運営に興味を持った。空港を拠点に、航空輸送と観光業を通じて地方を活性化させる仕事である。空港運営職に就けば、学生時代に取得した国家資格をフル活用できる。博士課程で培ったデータ分析力も、空港で利用者の行動追跡ビッグデータを取り扱う際に役立つだろう。空に携われ、人々の笑顔を見られるとなったら、もう最高の仕事ではなかろうか。
現職と並行して転職活動を進め、他の企業の最終面接を目前に控えながら応募先を増やすのは自殺行為ともいえる。そんなことは承知のうえで、最後に少し夢を見たくて空港運営会社H社にエントリーした。
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応募してからOpenworkでH社を調べると、ものすごい書かれようだった。口コミには退職者の怨念があふれており、読むにつれ鳥肌が立ってきた。
- 文科省の天下り先だから、生え抜きはなかなか昇進できない
- 人間関係が最悪で、人がどんどん辞めていっている
- 転職して後悔した。事なかれ主義で新しいことができない
etc.
自分はこんなところにエントリーしたのか。これなら現職の方がマシじゃないか。空への憧れって何だったのか、ただの空想だったのか、空だけに(黙れ)。
応募から二週間後、H社から書類選考通過と適性試験の案内が届いた。面接日の調整をするから、希望日時を教えてくれと求められた。あの口コミを見た後では、もう選考を受ける気にもならない。受ける前に見なけりゃよかった。H社には大変申し訳ないが、諸般の事情により辞退しますと返信した。セルフ不採用である。
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