【With】半年で1いいね。英語の前置詞まで嫌いになった

会社に入って半年ほど経つと、業務にもそこそこ慣れ、すこし余裕が出てきた。
休憩時間にふと周りを見渡すと、同期が鼻息荒くスマホをいじっている。どうやらマッチングアプリをしているらしい。皆、彼女が欲しくなったのだろう。退屈な毎日から抜け出して、ラブラブでハートフルな日々を送りたいらしい。
ただ、私は大学院生時代にもマッチングアプリをやっていて、一年やっていいねがひとつも来なかった。あれがトラウマになっていたので、アプリなんかに期待しても仕方ないと思い、同期の様子を遠巻きに眺めていた。
ところが、同期たちは次々と相手を見つけていく。三ヶ月もすれば、同じ部署に配属された同期のうち、私以外の全員に相手ができていた。全員に、だ。
もしかして、会社員ってモテるのか。定職について、そこそこの収入を得ていれば、恋愛偏差値は勝手に上がるものなのか。いくらモテない私でも、何かの間違いで彼女ができるかもしれない。
当時の私は、会社員生活にうんざりしていた。同じ場所に行って、同じような業務を進め、明後日の方向から理不尽に詰められる毎日に嫌気がさしていた。もし、自分に彼女ができれば、この退屈な毎日も楽になるかもしれない。わずかな期待にすがって、マッチングアプリをインストールした。というか、日々の閉塞感を払拭してくれそうなものがマチアプしかなかったのだ。
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アプリにはWithを選んだ。価値観が合う相手と出会える機能に惹かれたのだ。最大手のPairsと比べて会員数は少ないようだが、そのぶん狭く深いやり取りができるんじゃないかと思った。顔写真やプロフィールを登録し、なぜか男性にだけ課される利用料を1.5万円払い、半年間の活動を開始した。
気になる方に次々といいねを押していったのだが、誰からもリアクションが返ってこない。価値観の一致で異性を選べるといっても、結局はプロフィールのビジュアル勝負なのだろう。私はそんなにカッコよくない。人生で一度も容姿を褒められたことがないぐらいに。イケメンでもない私が顔写真で勝負するアプリなど、そもそも無理だったのだろう。彼女ができた同期たちは、私より顔が整っていた。会社員だからモテたわけではなく、カッコよかったからモテたわけだ。極彩色の未来に少しでも期待した自分が馬鹿だった。
とはいえ、半年分の利用料はもう払ってしまっている。元は取れなくても、払った分は使い倒さないと気が済まない。大阪の串カツは二度漬け禁止だが、もったいない精神は全国共通だ。ちょっと何を言っているのか分からないと思う。私にもよく分からないので、サラッと流して続けよう。
来る日も来る日もいいねをスルーされ続け、とうとう最終月に突入した。スマホを開くたびお前に市場価値はないと言われている気がし、もうウンザリして、スマホを叩き壊してやろうかと思った。
マチアプが嫌いになるのは仕方ないとして、困ったことに英語の前置詞のwithまで嫌いになった。withを目にするたびマチアプで味わった不快感が蘇り、とてもじゃないけど英文の内容が頭に入らない。そのせいでTOEICの点数まで下がった。
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Withの利用期限が切れる一週間前、初めてWithから通知が届いた。契約更新の催促かと思って開いてみると、なんと、異性が私にいいねしてくれたらしい。契約満了間際だったし、あまり気乗りはしなかったが、相手の方からいいねしてもらえたのは嬉しくて、チャットでやり取りを始めた。
ただ、お相手はかなり奥手な方だったようで、こちらが何か尋ねても、聞かれたことに答えるのみ。会話を広げる努力は全部こっち持ちで、それはそれは、なかなかしんどかった。飛行機の両翼についているエンジンの気持ちがよく分かる。浮力ぐらい、自分で産んでくれよと。少しは浮こうと試みてくれよと。それでも一度ぐらいは会って話してみたかったから、週末に街中のカフェで待ち合わせした。
挨拶こそ向こう側からしてくれたが、以降はチャットと同じだった。対面のコミュニケーションも、チャットと同様に一問一答だった。相手が食いつきそうな話題を振っても、気のない返事が返ってくるのみ。何とか90分粘ったが、ついに気力が尽き、こちら側から切り上げた。もちろん、その後のやり取りはない。
こうしてWithでの半年間は、1.5万円とともに閉幕した。

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