【悲惨】大学院博士課程はなぜあんなにも辛いのか?

札幌と筑波で電池材料を研究している北大化学系大学院生かめ (D2)です。日本学術振興会特別研究員DC1として国からお給料を頂いています。

皆さんは博士課程に対してどのような印象をお持ちでしょうか?地獄?魔境?それとも、、、夢の国?博士進学 (D進) した私自身でさえD進前は博士課程の実態を知りませんでした。なんせ、所属研究室から過去10年以上も博士号取得者が誕生していなかったのだもの。D進してようやく実態を掴めました。正直、D進しなけりゃ良かったと思いましたよ (半分ウソ笑) 。

この記事では、博士課程が辛い理由7つご紹介します。

  • 修士就職するか/D進するか迷っていらっしゃる方
  • 進学前に博士課程の負の側面も見ておきたい方

こうした方々にピッタリな内容なのでぜひ最後までご覧ください。

かめ

それでは早速始めていきます

目次

この期に及んでまだ講義を受けねばならないから

もしかしたらウソでしょとお思いになるかもしれませんが、博士課程へ入学後もなお講義を受けねばなりません。私の属する北海道大学では8単位を取得するのが義務。

修士課程に講義を受けるのはまだ時間があるから大丈夫。就活や研究で忙しいなか講義を受けるのはしんどいけれども、研究で成果を出さなきゃ卒業できないというワケでもないのでまだ余裕がある。しかし、博士課程は違います。査読付き学術論文を何報か出さねば何年経っても修了できません。研究に対して己の持つ資源を全て懸けねばならないのです。正直、講義になんて一秒たりとも時間を割きたくないんですよ。講義に時間と労力を奪われるのはハッキリ言ってすごく嫌。講義を受ける時間で論文や専門書を読んでいたい。

受けたくもない講義を受けねばならぬ上に授業料をも支払う必要がある。国立大なら年間50万円、私立大ならその倍はかかるでしょう。博士課程の学生に授業料を要求する国など世界にはほとんどありません。博士課程は研究者養成課程。各国の学術界を支える希少な高度人材からお金を搾り取ろうという発想には至らないからです。幸いなことに、私は博士在籍中の授業料納入が全額免除になりました。私みたいに全額免除にならなければ悲惨な貧乏生活が待っているでしょう。

博士進学しても研究「だけ」に集中できるワケではないから

私が博士課程へ進学した最大の理由は『研究に専念したかったから』。2~3年間、研究へ一意専心し、自分の力が世界でどこまで通用するのか、どこまで力を伸ばせるかを確かめてみたかった。自らに研究者としての才能を感じれば、博士号取得後、研究者を目指すつもりでした。もしも研究者適性がなければ路線変更して企業へ就職する予定だった。このように、私は博士課程を【己の研究適性を見定める最後の期間】と位置付けていたのです。修士課程の二年間だけでは研究適性を見定めるには不足気味だったし。

いざD進し、よし、研究頑張るぞ!と思ったのも束の間、講義や学振DC1の手続きなど、研究以外の仕事が流星群の如く降り注いできました。一日の大半が研究以外の諸々の業務で終わる日も珍しくありません。一刻も早く研究をするためテキパキ仕事を片付けます。仕事を片付け終わったと思ったらまた仕事が来て、ソレを片付けてもまた仕事が積み重ねられた。いったい自分はいつ研究をさせてもらえるのでしょう?どうせ誰も読まない数多の書類を作るためにD進したわけじゃないのだけれども。

研究って、諸々の仕事の隙間時間にできるほど単純で簡単ではないんですよ。まとまった時間を作らなければ思考を深化させるのは難しいです。研究に割くべき集中力を研究以外のタスクに削がれてしまうのが本当に嫌。院生の本分たる研究活動に専念させて欲しいのだけれども無理そう。私の本業が書類作成なのか、それとも研究なのかが分からなくなってしまうことも。研究者になってからも書類作成で忙殺されるなら研究者になりたいとは思いません。ちなみにアカデミアでは、未だにハンコ文化が根強く残っています。大学関連書類はハンコが必須。文明の最先端を切り拓いていくはずのアカデミアがこんな体たらくで大丈夫なのかな…

別にお金持ちでも何でもないのに後輩からたかられるようになるから

私は日本学術振興会特別研究員DC1。月に20万円の給料と年間140万円の研究費を受け取っています。こう書かれたら一見するとお金持ちに見えてしまいますね。しかし、各月の収支にはそこまでの余裕はありません。悠々自適とは程遠い世界。赤字にならないかどうかを気にして切り詰める生活が続いています。自分一人だけで生きるには辛うじて足りている。恋人と付き合ったり一緒に暮らしたりするほどの十分なお金はありません。月々13万円程度もらえる生活保護の方がマシなんじゃないですか?学振DCの手取りは17万円。必死に働いて17万円貰うより、働かずに13万円貰える方が楽だなと感じちゃうんですけれども。。。

このように、私はリッチではありません。な・の・に、博士学生は宴会や外食の場で後輩たちの飲食代を奢らねばならないのです。学士・修士課程の学生からすれば月20万円「も」貰っている私はとんでもない高給取りに見えるのでしょう。私だってマスターの頃に今の自分を観たら (あの先輩、お金持ちやなぁ…) と思っていたはず。D進し、特別研究員になってみると、月20万円ではカツカツの生活しかできない事がよ~~~~~く分かりました。少なくとも博士課程在籍中は彼女や結婚など見込めません。お金に悩まされたくないならD進しない方が良い。大企業で福利厚生を享受した方が何倍良いか分かりません。

かめ

学振DCの給与が月々24万円にまで引き上げられるとの噂を聞きました。24万円も貰えたら生活がだいぶ楽になりますよ。羨ましいです。ひょっとしたら授業料支払いが免除ではなくなり、手取りが今の私と変わらなくなるかもしれませんが (苦笑)

衰えゆく体、溜まりゆくストレス

私が最初に体の衰えを感じ始めたのは20歳の頃。十代までは徹夜や飲み会などをやっても翌日はヘッチャラだったのに、20歳を越した途端に甚大なるダメージが残るようになったです。決して体力の衰えではありません。衰えていたのは『気力』ではないでしょうか。眠気が勝って重たい瞼を開け続けているのは難しい。周りでお酒をガンガン飲んで酔っぱっている仲間と一緒になって騒ぐのも厳しい。体力はあっても心のスタミナが保たないのです。20歳以降、急速に気力が衰えたため、学生が集まって騒ぐイベントに参加できなくなっちゃいました。

25歳になってD進すると、気力の衰えが猛然と加速していきました。その勢いは飛ぶ鳥をも落とすほどの凄まじさ。博士課程で蓄積されたストレスによって体が蝕まれて老化したのです。加えて内臓まで弱くなってきました。今までと同じ量の食事を摂るのがだいぶ辛くなってきたのです。ラーメン屋さんの前を通るだけで吐き気を催すぐらい。焼肉食べ放題でカルビやトントロを焼く臭いですら耐えられなくなりました。お酒を飲んでストレスを発散しようにも、お酒を飲むと吐きそうになるから飲めません。たまりゆくストレスをグッと堪えて粛々と研究するしかない状態。

必ずしもみな修了出来るわけではないから

アカデミアにはこのような格言があります。

学士号は参加賞、修士号は努力賞。でも博士号は一等賞

全くもう、その通りです。学士から博士まで経験してみてその通りだなぁと思います。私がB4でやっていた研究なんていま思えばお遊びみたいなもの。研究の体を成していないのに気が付いたら学位を貰っていました。修士課程では自分なりに考え、たくさん論文を出版しました。けれども、成果を出せたのは、あくまで指導教員らが研究環境を整えてくれたから。学士号と修士号は努力しすれば取得可能。進学し、健全なメンタルを保てれば、9割以上の方は取得できる学位。

学士&修士号と博士号の取得難易度は全く異なります。博士号は仮にいくら努力をしたとしても必ずしも取れるとは限りません

博士号を手に入れるには査読付き論文を書く必要が。今までまだ人類の誰もやったことのない研究を行い、成果をまとめて論文にし、専門家の査読を通り抜けて出版までこぎつけねばなりません。この査読、1日や2日で終わるものではありません。だいたい1~2か月、場合によっては半年以上もかかります。提出した論文が掲載拒否になる場合も。一流国際誌なら9割以上が、標準的な雑誌なら半分近くの論文がリジェクトされます。厳しい査読を乗り越えて論文を雑誌に掲載させられた人だけが博士号を貰えるのです。必ずしも全員が論文をアクセプトさせられるわけではなく、一定数、ドロップアウト者が現れます…

大半の同期が社会へ出ているのに自分だけ人生の階段を昇られていないから

日本の上位国立大理系学部では修士課程まで行くのが基本設定。学士課程だけで就職する方はほんの数%にとどまります。修士まではみんな仲良くエスカレーター式で進む。修士課程を修了する段階で進路が分かれます。大半の方は企業へ行きます。博士課程へ進学する人間は少数派。私の所属専攻の場合、同期約40名のうち4人しかD進しませんでした。コレでもD進者がだいぶ多い年らしいです。

D1になり、研究棟の同じフロアから同期の姿が見えなくなりました。知り合いが一斉に姿を消してしまって正直寂しかったですね。日々何気なく同期と交わしていた挨拶が精神の安定に一役買っていたのでしょうか?D進直後から精神がグラグラ揺れてきて落ち着かなってきました。加えて焦燥感も覚えます。みんな会社で頑張っているのに自分はまだ大学にいるのか、と。いくら日本学術振興会特別研究員として国のため働いているとはいえ、自分よりも社会で歯車を回している同期の方が偉いのではないかと思えてきたのです。自身が研究する意義を正当化するので精一杯。一刻も早く博士課程から脱出したくて仕方がありません。

苦労して得た博士号の価値を認知している方は日本には僅かだから

かめ

嗚呼、無常。
南無南無、南無南無

何とも言えない気持ちになります。これだけ頑張って博士号を取得したとしても、その価値が世間的に認知されていないだなんて。修士と博士の給与設定が一緒の会社だってまだまだ多い。博士号ホルダーが多数在籍しているはずの大手メーカーでさえこの状態。博士号を活かして高給を狙いたいなら海外へ出るしかないですね。そんな簡単に海外へ出られるわけではないのがまた難しい所…

最後に

大学院博士後期課程が辛い理由の紹介これで以上。D進を検討する皆さんにとって幾らか参考になれば幸いです。

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