【名作】アンナ・カレーニナあるある7選! 読めば絶対ハマる不倫文学の最高峰

世の中には、読んだことはないけれど名前だけは知っている小説というものがあります。三島由紀夫の金閣寺。ドストエフスキーの罪と罰。そして、トルストイのアンナ・カレーニナ。これら三作品は、名前は知っているけど読んだことない文学作品世界選手権の永世メダリストたちです。

特にアンナ・カレーニナは強敵中の強敵。なにせ、19世紀のロシア文学ですから。文庫本で上・中・下の三巻構成。作者は髭もじゃのいかつい顔をしたお爺さん。手に取る前から修行の気配がすごい。

ところが読んでみると、びっくりするほど面白い。一度読み始めたら止まらなくなります。面白すぎて夜更かし確定。ひとたび勢いがついたが最後、どこで読むのを止めようか迷うほどの圧倒的な没入感があります。と同時に、困惑するポイントも盛りだくさん。癖が強く、挫折する人が続出してしまう作品でもあります。

今回は、そんな愛すべきアンナ・カレーニナのあるあるを、読んだことがない方にも分かりやすくご紹介します。

かめ

それでは早速始めましょう!

目次

中身はほぼ恋愛不倫ドキュメンタリー

皆さんは『アンナ・カレーニナ』と聞いて、どのような内容を想像するでしょうか。壮大な歴史叙事詩とか、哲学的な問答とか、延々と続く風景描写を想起するかもしれません。19世紀ロシア文学という肩書きから連想されるのは、だいたいそんなところだと思います。

残念ですが、全部ハズレです。おめでとうございます。

本作品のあらすじを端的に説明すると、人妻が若いイケメン将校に恋をして、不倫の泥沼を突っ切っていく話。もう少し丁寧に言うと、アンナ・カレーニナという上流階級の既婚女性が、ヴロンスキーという青年将校と出会って恋に落ち、夫を裏切り、社交界から白い目で見られ、それでも引き返せなくなって破滅していく物語。

要するに、昼ドラなんですね。150年前のロシアを舞台にした、超本格派の連続テレビ不倫小説。文豪トルストイが持てる筆力のすべてを注ぎ込んで完成させた、世界屈指の不倫文学作品。海外文学の最高峰がこれでいいのかという気もしますが、特に問題は無いのではないでしょうか。むしろ、人間のどうしようもなさをどうしようもないほど本気で描くからこそ面白いわけで。

トルストイは人物造形の名手。作品を何気なく読んでいくだけで、作中の人々の姿が鮮やかに頭に浮かんできます。情景があまりにもリアルなんですよね。浮気がバレそうになったときの言い訳の仕方とか、嫉妬しているのに平静を装おうとする姿とか、自分が悪いと分かっているのに相手のせいにしたくなる心理とか、人間らしい部分を人間らしくサラッと描き切ってしまいます。150年前のロシアの貴族が考えていることなのに、読んでいると「いや、それ昨日の自分じゃん💦」と焦る瞬間が何度も訪れるのです。

アンナ・カレーニナは古典文学ではありますが、決して硬派ではありません。肩の力を抜いて、Netflixの恋愛リアリティショーを観るくらいのテンションで開くぐらいでちょうど良いかもしれませんね。

いつまで経ってもアンナが出てこない

さあ、アンナの不倫ドキュメンタリーを読むぞ! と意気込んで1ページ目を開いたとしましょう。タイトルがアンナ・カレーニナなのだから、当然アンナがいきなり登場するものと期待しますよね。出てきません。

1ページ目に登場するのはオブロンスキーという男。彼はアンナのお兄さん。開幕早々に浮気が奥さんにバレて激詰めされています。

オブロンスキーの夫婦喧嘩がひとしきり描かれたあと、今度はリョーヴィンという田舎の地主が出てきます。リョーヴィンはオブロンスキーの義妹キティに恋をしていて、プロポーズしようかどうしようかと悩んでいる。いや、あなたの恋愛事情も大事だとは思いますが、アンナはどこにいったのでしょうか。

この物語でアンナが登場するのは、上巻の170ページあたりから。何ということでしょう。170ページも読まなければヒロインと出会えないんですよ、この作品は。いったいどれだけ出し惜しみするのでしょう。焦らすにもほどがあるでしょう。ただ、待たされた分だけアンナの登場シーンはインパクトが凄まじい。焦らされた甲斐はちゃんとあります。焦らされてよかった~と思うこと請け負いです。

ちなみに、浮気して妻から激詰めされたオブロンスキーは、反省しているようで、実は全く反省していません。叱られて落ち込んでいるかと思えば、美味しいレストランに行ってすぐ機嫌を直します。この姿が妻をイラっとさせるわけです。最高のクズ男をありがとうございます。

読者の多くが最初に好きになるキャラクターは、アンナでもヴロンスキーでもなく、オブロンスキーかもしれません。

登場人物の名前がなかなか覚えられない

アンナ・カレーニナに限らず、ロシア文学には避けて通れない関門があります。名前です。

ロシアの人名は、本名・父称・愛称の三層構造です。父称というのは、お父さんの名前をもとにしたミドルネームのようなもの。たとえばリョーヴィンのフルネームはコンスタンチン・ドミートリエヴィチ・リョーヴィンで、父称のドミートリエヴィチはお父さんがドミートリーだったことを意味しています。

ここまでならまだ付いていけるでしょう。問題は彼らの愛称(ニックネーム)です。

ロシアでは親しい間柄だと本名ではなく愛称で呼び合います。ただ、愛称が本名と似ても似つかないことが多々あり、本を読んでいて非常に紛らわしい。コンスタンチンの愛称はコスチャ。ダリアの愛称はドリー。エカテリーナの愛称はキティ(!?)。急に何人出てくるんだと思っていたら、少し読み進めてみたら全部同じ人を指していた…だなんてことも。

アンナ・カレーニナは登場人物が多いうえ、場面によって同じ人物が本名で呼ばれたり愛称で呼ばれたりします。だから、最初の数十ページは軽いパニック状態になるかもしれません。ただ不思議なもので、50ページも読めば、愛称呼びにだんだん慣れてくるのです。英文読解で未知の単語を文脈から類推するように、見慣れない人名も(たぶんあの人のことだな)と推定できるようになるでしょう。どうしても人名を覚えられない方は、ストーリーだけ追うのでも十分楽しめますからご安心を^ ^

上巻と下巻のあいだに中巻がある

アンナ・カレーニナに挑戦する方の多くは、本屋で上下巻の二冊を手に取ってレジに向かいます。長編小説は上と下に分かれているものと信じて疑わないからです。たった二冊だけでもかなりの重さ。

上巻を読み終え、さあいよいよ下巻だ! と手に取ります…… どうも様子がおかしいです。読めども読めども話がつながらない。知らない人の名が紹介もなくポンポン出てくる。おかしいなぁと思い、ページを何度か行ったり来たり。

やがて恐ろしい事実に気づきます。上巻と下巻のあいだに、中巻がある

上巻のページ数は600ページ弱。重厚な一冊目を読み終え、さて折り返しだと思っていたら、まだ1/3しか終わっていなかった。もうあと二冊もあるんですか、コレ。いいんですけど、別に面白いからいいんですけど。果てしない旅路を思うとため息が漏れ出ます。

本当の主人公は、実はアンナではないのかもしれない

中巻を無事に入手して読み進めていくと、今までとは別の困惑がやってきます。アンナの恋愛劇と同じぐらいのボリュームで、リョーヴィンの日常がやたらと丁寧に描かれ始めるのです。

リョーヴィンはキティに告白するも、キティは、既婚女性アンナに心奪われたヴロンスキーのことが好き。リョーヴィンの想いは報われません。彼は失意のもと田舎に帰り、農地経営に専念します。リョーヴィンは、田畑を耕しながら、人生の意味について悩み続けるのです。農民たちと一緒に汗を流し、農地のことで頭を抱えたりして、哲学的な問いに向き合うシーンが描かれます。

アンナとヴロンスキーの恋愛シーン中に、突然リョーヴィンの草刈りシーンが移ります。CM程度なら良いのだけれども、そのCMは何十分も続きます。違う違う違う、そうじゃない。トルストイさん、どうか後生だから、ふたりのアツアツ不倫恋愛シーンを続けてくれ。俺たちが見たいのはリョーヴィンじゃない。アンナたちがどうなったか知りたいんだ。

皆さん、深呼吸して冷静さを取り戻しましょう。世界屈指の文豪が何の意図もなくこのように設計するはずがないじゃありませんか。おやっ、取り乱していたのは私だけのようです。大変申し訳ありません。誠に遺憾であります。

落ち着いて読み進めていくと、皆さんは薄々気付くことになります。『アンナ・カレーニナ』というタイトルなのに、リョーヴィンの出番がやたら多い。もしかしてこの小説、本当の主人公はリョーヴィンなのでは?

実は、この直感、あながち間違いではありません。リョーヴィンにはトルストイ自身の経験や思想が色濃く反映されていると言われています。物語全体を通して見ると、リョーヴィンのパートはアンナのパートと同じぐらいのボリュームがあるのです。退屈に感じた農業パートが、最後まで読み終えれば作品の核心だったと気づきます。

歳を重ねて再読するたび、新しい面白さに気づく

アンナ・カレーニナの興味深いポイントは、読むたびに感想がまるで変わってしまう所

19歳で初めて読んだとき、私はひたすらアンナに感情移入していました。社会の束縛を振り切って恋に走るアンナの姿が眩しく見えたし、ヴロンスキーとの恋は情熱的でドラマチックに映ったのです。当時は自分にも彼女が居て、自身の恋愛と作中の人物とを重ね合わせて考えたものでした。一方で、アンナの夫カレーニンは、冷たくて退屈な官僚にしか見えません。感情を表に出さず、体面ばかり気にして、妻の気持ちに寄り添おうとしない冷酷な男。20代の私にとって、カレーニンはただの障害物でした。

ところが、20代後半で読み返すと、カレーニンの見え方がまるで変わります。妻に裏切られても激昂せず、周囲の目を気にしながらも内側では激しく苦しんでいるカレーニンの姿が、急に立体的に浮かび上がってくるのです。アンナに怒りたいのに怒れない。アンナを赦したいのに赦せない。葛藤の峡谷で揺れ続ける。文章を読みながら、人間の弱さが伝わってきて、こちらまで胸が痛くなってくるほどです。

リョーヴィンの農業パートも同じ。19のときには退屈でしかなかったプロットも、自分自身が仕事や生き方に迷う年齢になると、リアリティを持って迫ってきます。人生の意味ってなんなのだろうか。自分はなんのために働いているのか。このままの生き方で良いのだろうか。リョーヴィンの抱えた苦悩とは無縁でいられなくなり、読めば読むほど「そうだよね~」「分かるわぁー」「人生って辛いね…」と口からうめき声が漏れてきます。

10代のときに見えなかったものが、人生でいくつかの失恋や挫折を経験したあと、クリアに見えるようになっていました。これが”老いる”ということなのかもしれませんね。

つまり、アンナ・カレーニナは、読むたびに異なる味を楽しめる小説です。一冊で何度もおいしい思いができる、不思議な作品になります。人生のどのタイミングで読んでも、そのときの自分に刺さる何かが必ずありますよ。

超有名な序文、実はめちゃくちゃ深い

アンナ・カレーニナを読んだことがなくても、次の一節だけは聞いたことがあるかもしれません。

幸福な家庭はすべて互いに似かよったものであり、不幸な家庭はどこもその不幸のおもむきが異なっているものである。

名言集やビジネス書にもよく引用されるこの一文は、アンナ・カレーニナの序文。なんとなく深そうだな、という印象を誰もがお受けになるでしょう。しかし、作品を読む前と読んだあとでは、序文の響き方が全く違ってくるんですよ。

まず、『幸福な家庭はすべて似かよっている』という部分。これは考えてみると実感として納得がいきます。家庭が幸福であるためには、夫婦のあいだに愛情があり、互いを尊重し、信頼が成り立っていて、経済的にもある程度安定しているといった条件がほぼ全部そろっていなければなりません。ひとつでも大きく欠ければ、幸福は成立しなくなりますよね。必要な条件が全て揃った状態というのは、結果的にどの家庭でも似たような姿になるわけです。

一方で後半、『不幸な家庭はどこもそのおもむきが異なる』という部分。幸福に必要な条件のうち、どれが欠けるかは家庭ごとにまったく違います。愛情が枯れた家庭と、信頼が壊れた家庭と、経済的に追い詰められた家庭では、不幸のかたちがそれぞれまるで異なるでしょう。だから不幸にはひとつとして同じパターンがないのだ、とトルストイは言っているわけです。

アンナ・カレーニナがすごいのは、トルストイがこの命題をただ格言として冒頭に置いただけでなく、千ページ以上にわたって実際に証明してみせるところです。

アンナの家庭は、愛情の不在によって崩壊していきます。彼らは社会的地位も経済力も申し分ありません。しかし夫婦のあいだに恋愛感情はとうに消えていて、アンナはヴロンスキーとの情熱に呑まれ、不倫の沼にハマっていってしまいます。

オブロンスキーの家庭は、まったく違う壊れ方をします。オブロンスキーは妻を嫌っているわけではないし、家族への愛情がないわけでもなく、ただ、誠実さが決定的に足りない。”浮気を繰り返す夫と、夫に傷つけられながらも家庭を維持しようと奮闘する妻”という、アンナの家庭とはまったく別の不幸が描かれています。

そしてリョーヴィンの家庭は、作中でもっとも幸福に近い場所にいます。互いを深く愛し、誠実に向き合い、田舎で穏やかな生活を築いていくのです。けれども、リョーヴィンは人生の意味を問い続けて苦しみ、妻とのあいだにもすれ違いや衝突が起きてしまう。幸福の条件がほぼそろっていても、人間は簡単には満たされないのです。人生って、難しいですね。

三つの家庭を読み比べると、冒頭のあの一文がただの格言ではなく、作品全体の設計図だったことに気づくでしょう。名言としてなんとなく消費していた言葉が、三巻分の物語を通過したあとには、圧倒的な実感を伴って胸に迫ってくるのです。

おわりに

ここまで読んで少しでもアンナ・カレーニナが気になったなら、ぜひ本屋さんに足を運んでみてください。くれぐれも上巻と下巻だけ買って帰らないように。

名前は覚えられませんし、草刈りシーンで眠くなりますし、カバンは確実に重くなります。でも150年以上読み継がれてきた作品には、それだけの引力があるのです。一度読めば絶対に忘れられない海外文学を、皆さんもぜひお楽しみください。

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