なぜ、倍率がここまで上がっているのか

学振DCの倍率は、長いこと6倍前後で安定していました。ところが、2023年度あたりを変曲点として、数字が跳ね上がっています。
原因は2つあります。生成AIの登場と、フェローシップ制度が生み出す応募者増です。まず生成AIの話をさせてください。
書いたことのある人ならわかると思いますが、学振DCの申請書はボリュームが膨大です。研究計画から業績リスト、将来展望まで、何ページにもわたる書類を仕上げる必要があります。しかも研究や論文執筆と同時並行で進めるのです。
私が申請書を出したのは、ChatGPTが世に出る直前のことでした。AIを一切使わずに申請書を仕上げた最後の世代でしょう。当時は申請書を書くこと自体が重労働で、業績が足りなくて諦める人よりも、期限までに申請書が完成せず出せなかった人のほうが多かったぐらいです。書ききれずに脱落していく人がそれなりにいたからこそ、倍率が6倍で済んでいた面がありました。自然の摂理で難易度調整されていたわけです。
ところが、生成AIの登場で、自然淘汰機能が失われました。AIに頼めば数分でそれなりの文章を出してくれますし、いまや質の高い模式図まで作ってくれる。提出する意志さえ備えていれば、誰でも申請書を完成させられる時代になりました。かつては申請書のボリュームが申請者の第一関門だったのに、AIがフィルターを取り払ってしまったわけです。そりゃあね、応募者のすそ野が広がるのも当たり前でしょう。
もうひとつ、フェローシップの問題があります。
近年は博士進学者への経済支援が充実してきつつあり、国や大学が博士学生に生活費を支給するフェローシップが増えてきました。ここまではいい話なのですが、問題は受給条件のほうで、毎年学振DCへ応募することを条件として掲げているフェローシップが存在するのです。
フェローシップ受給者の気持ちになってみてください。仮に学振に落ちても、フェローシップで生活は保障されていますよね。でも、受かったら受かったで、待遇がアップグレードされる。年に一度の無料ガチャみたいなものでしょうか。もう、出すしかありませんって笑。出して出して、出しまくりますよ。
私なら、もう出すな、やめてくれと言われたって、何枚でも出してやります。むしろフェローシップの受給条件ですから出さないと怒られるし、みんな次々と出していくわけです。かくして、フェローシップ受給者が毎年申請者になるスキームが出来上がりました。
全員に薄く・広くばら撒くべきとは思わない

倍率が9倍ともなると、突き抜けた業績を持っている一握りの人を除けば、合否に運の要素が絡んできます。
もちろん、箸にも棒にも掛からない層まで申請してくるので、実質倍率は見かけより低いかもしれません。当落線上にいる学生だけだと、倍率2~3倍になるでしょう。とはいえ10人に1人の勝負は厳しい。競馬でワイドを当てるより大変です。さすがに3連単ほどではないけれども、複勝以上、馬連未満の微妙な三角関係といった所でしょう。しかも、採用者数は据え置かれるどころか、近年は若干減っており、今後も倍率は右肩上がりでしょう。
学生にゃんじゃあ、学振DCなんてやめて、
博士学生全員に同じ金額を配ればいいんじゃない?



いや、学振DCは要ります!
もし全員横並びにしてしまったら、トップクラスの研究力を備えた人間にとっては頑張り損になるじゃないですか。頑張っても頑張らなくても同じ待遇なら、どれだけ熱心な働きアリでも、自ずと寝そべりアリになります。寝る間も惜しんで論文を書くこともなくなるだろうし、博士課程進学者も減るかもしれません。
突き抜けた実力の持ち主には、それ相応の報酬があってしかるべき。学振DCの採用者数も、今の規模感で問題ないと思っています。
ただし、待遇はもっと上げるべきです。
私がDC1だったころの月給は20万円でした。博士学生の上位700人に支払う金額が、月20万円なんですよ。修士で就職した同期がボーナスの使い道を考えているころ、博士課程の学生は来月のガス代を心配しているんですよ。現在は22.7万円まで上がったようですが、もっと必要ではないでしょうか。最低でも月30万円は出してほしいところです。
フェローシップはもっと深刻で、支給額が月18万円ぽっきりの大学もザラにあります。18万円って、18万円ですよ(何を言ってんの?)。家賃を払って光熱費を払って食費を出したら、月末には何も残りませんって。生活が苦しいと研究への集中力が削がれますし、そのままメンタルまで荒んでいきます。フェローシップ受給者にも、せめて月25万円程度は支給してあげてほしい。
全員に薄く・広くばら撒くのも構わないんですが、メリハリをつけながら支援全体を底上げするが最善手です。トップ層にはしっかり報い、それ以外の層にも最低限まともに暮らせる水準を保障してあげてもらいたいですね。
各々、可能な限りの準備を重ねて申請に臨むこと


応募者が増え続ける仕組みがある以上、倍率は今後も上がっていくでしょう。申請者がいくら文句を言ったところで、学振DC内定レースの加熱ぶりは当面続きます。制度設計に注文をつけたい気持ちはわかりますが、制度が変わるのを待っている間にも応募の締切はやってきます。
我々にできるのは、可能な限りの準備を重ねて申請に臨むことです。落ちたときの言い訳を並べるよりも、受かるために何ができるかを考えましょう。少しでも多くの時間を研究に充てる。学会発表や論文出版の機会があれば手を挙げる。業績を一つずつ積み上げながら、自分の研究構想を磨いていく。
倍率が6倍だろうと9倍だろうと、やるべきことは同じです。自分の研究を前に進め、申請書を磨き上げていくのみです。人事を尽くして天命を待ち、審判の結果がいかなるものになろうとも納得のいくよう、徹底的に準備してください。





















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