マチアプは生き地獄だった
博士課程を修了し、地元の民間企業に就職した。故郷で専門性を活かして働けるとあって意気揚々と入社したものの、業務内容や業務環境の厳しさなどから早々に閉塞感を覚えた。サラリーマンとして過ごす毎日が、息苦しくてたまらなかった。
会社員一年目の冬、マッチングアプリを始めた。彼女でもできれば人生が良い方向に転がるかなと考えた。
高校・大学時代に彼女がいて、一緒に過ごした時間は本当にウルトラハッピーだった。特に大学時代は充実していた。一緒にご飯を食べに行ったり旅行したりとやりたい放題だった。ありがとうございます。隣にパートナーが居て、とりとめもなく話せる状態って素晴らしいなと思う。
彼女を作るにも色々なやり方がある。二次元世界でかわいい子を見つけるとか、セリアで買った便利グッズを彼女と言い張るとか、他にも無数の方法論が提唱されている。検討に検討を重ね、検討をフル加速し、マッチングアプリで見つけることにした。マチアプなら人間とつながれる。最近はマチアプで出会うカップルも多いらしく、相手が見つかればいいなと期待して活動開始した。
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まずはWithで探したところ、半年でいいね数はたったの1だった。間違い電話の方がまだたくさん届くんじゃないだろうか。いいねしてくれた方と会って話したら、相手があまりに受け身で会話がキャッチボールにならず、疲れて早々に散会した。これなら一人でラーメンを食べに行った方が楽しいんよ。こんど二郎でも食べに行こうかな。
マチアプで彼女を作った会社の同期に事情を相談した。アプリに何を使っているか尋ねられ、Withだと答えた。そうしたら「ふざけんな」と罵倒された。マチアプの相場はPairsと決まっているらしい。Pairsの方が会員数が多く、アルゴリズム的に相手とつながりやすいのだとか。何だよ、それを最初に言ってくれよ。言ってくれたらしいが、私が無視したとのこと。申し訳ない。
仕切り直してPairsをインストールした。短期決戦に持ち込むべく3か月プランにした。同期お墨つきのPairsでは、確かにたくさんの方からいいねしていただいた。3か月で80以上ものいいねをもらったのだ。勝負の舞台を変えれば、これほどまでにアウトプットが違うのか。
しかし、PairsはPairsでしんどかった。マチアプにいる女性の属性がカフェめぐり・ディズニー・海外旅行の三択だった。みな消費系の趣味である。誰かが作ってくれたものを眺めて「わ~、素敵!」と言えば良くて、どこまでも受け身であることが許される。当然、会話でも相手は受け身で、やり取りをしながら(この人と一緒に居てもしんどいだろうな)と思った。
Pairsにせよ、Withにせよ、アプリに一万円以上課金している。どうしてお金を払って辛い思いをしているのか。女性は無料なのも腹が立つ。そりゃあね、無料なら受け身だよな。わざわざ男の方からお金まで払って近づいてきてくれるんだもん。なんか続けるのもバカらしくなって、Pairsのプラン更新時期にサブスクリプション解約した。
マチアプは、生き地獄だった。
マチアプに比べたら転職なんて楽勝
大学時代は趣味でランニングをしていた。ヒマで仕方なくて走り始めたら意外と楽しくて、続けていくうちに走力が伸び、マラソンを2時間42分で走れるようになった。会社員になっても続けたかったのだが、地元に戻って一か月で右足首の靭帯を痛めて走れなくなった。
会社の所属部署は年中繁忙期である。最繁忙期と最繁忙期の間に息継ぎで繁忙期が入っており、残業続きで身体がボロボロになった。筋肉の方はスポーツで鍛えているからまだ良い。デスクワークで目を酷使し、視力が2.0から1.0まで落ち、おかげで趣味の読書を楽しめなくなった。何を言っても滑らないタイミングで滑ったお笑い芸人ぐらい惨めだった。
仕事が楽しければ我慢できた。ちっとも楽しくなかったのだ。やりたい仕事に携われず、身体は壊れ、プライベートも面白くない。おまけにマチアプで失敗した。株まで大きな含み損を抱えた。自分の人生って、何なんだろうか。
さすがに今のままではいけないと思った。だからこそ、今のままではいけないと危機感を募らせ、何ができるか再検討した。こうなったら仕事を変えてやろう。この会社で、故郷で辛い思いをし続けるぐらいなら、環境を変えてやり直したい。そんなことを考えるぐらい大きな閉塞感に悩まされていた。
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転職活動は転職活動で大変だった。まず六社に応募したところ、ぜんぶ書類不採用だった。仕方なく転職エージェントに頼って応募したら、また二社、書類不採用を食らった。もうどこにも通らないのではないかと思った。人生の先行きはブラックホールよりも暗かった。
だが、それから書類が三社通った。三社とも最終面接まで進み、三社とも内定した。仕事内容や待遇・福利厚生と照らし合わせ、素材メーカーX社への転職を決めた。X社が提示してきたオファーは、現職より年収200万円も上だった。200万円って何百万円よ、おっかしいんじゃねぇのと腹を抱えて笑った。
マチアプでは、課金して何の成果もなく、むしろ辛い思いをさせられまくった。転職は最後まで課金ゼロだったし、やりたい仕事に携われるどころか、待遇まで大幅改善した。どうしてマチアプなんかやっていたのだろう、と改めて不思議に思った。こんなものを始めたヤツはバカだ。私はバカだ、猛反省しなさい。
マチアプ女子と違い、カフェめぐりする企業などない。海外旅行でお金を使わせられるどころか、海外出張費や駐在手当を出してくれる。ディズニーなど行かずとも、会社自体が夢の国である。
マチアプで彼女作るより、転職で年収200万円上げる方が簡単だった。年収を上げたら女性が近付いてくるかもしれないが、一番苦しいときに支えてくれなかったのだから、もう知らんわ。下手に機嫌を損ねたら不同意性交罪をなすりつけられるかもしれんし。
さようなら、マチアプ女性さん。


















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