美術館を12時に出て、美術館横の広場に腰を下ろした。歩きっぱなしなのと、重たい荷物を背負っての移動で、全身が凝り固まっていた。マエケン体操で肩回りをほぐす。
それにしても、真珠の耳飾りの少女が居なかったのは誤算だった。そもそもアムス国立博物館ではなくマウリッツハイス美術館が所蔵する絵画なのに加え、マウリッツハイスの工事に伴い、絵画が日本に貸し出されているだなんて。これなら日本で耳飾りの少女を見てからオランダに行けばよかったかな。いや、耳飾りの少女展は大混雑だったというし、行かなくてよかったのかもしれない。いずれにせよ、ご縁がなかったということ。諦めるしかない。
昼ごはんに、朝買ったパンとチョコレートを食べた。パンは安定のチーズ味でおいしかったけれど、チョコは少し溶けてベトベトになっており、オレオとチョコが入り混じった見事なミルフィール構造になっていた。SEMとEDSで微粒子分析したいところである。

次のハイネケン工場ツアーは14時半開始。2時間半もの待ち時間を街歩きで消化した。
未明に運河を眺めたときは分からなかったが、川の横には街路樹が植えられていた。木の下を歩けるようになっていて、吹き抜ける風を浴びながらの散歩は心地よかった。穏やかな陽光が身体を照らしてくれるおかげで体が温かかった。
街中ではよくランナーとすれ違った。ひとりで走る方が多く、ジョギングペースで気持ちよさそうに体を動かしている。onやブルックスのような海外メーカーのシューズが目立つ。アシックスを履くランナーも複数見た。私も、もし右足首の靭帯さえ壊れていなければ走ったのにな…とため息をついた。

あてもなくブラブラ歩いていると、マーケットがあった。あとでネットで調べてみたら「アルバート・カイプ市場」というらしい。全長650mの通りを隙間なく屋台が埋めていた。
屋台では色々なものが売られていた。洋服にビール、お菓子に中華、ポストカードも置いてあった。食べ物は美味しそうだったのだが、ハエがたかっていて不衛生で、食べる気が失せて買わなかった。先進国のオランダといえど、ヴィトンの模造品も売られていた。アレを買ったら犯罪組織にお金が行くらしい。買わないでおいた。
屋台村の端にSUSHI屋があった。日本人としてクオリティーを確かめるべく、店の前に立ち、様子をうかがった。店主が出てきたので話をすると、SUSHIは寿司と別物らしい。オランダでは生魚を使っていれば何でもSUSHIと呼ぶのだそう。極論、マックのダブルチーズバーガーに鯛を載せて出してもSUSHIなのだそう。んなわけあるかい。日本人としてそれは寿司と認めないからな? とくぎを刺しておいた。

屋台見物を楽しんでいると、ハイネケンツアーの時間がきた。ちょうど屋台村の裏手に工場があって、10分歩くと着いた。
私はビールよりウィスキー派。イギリス留学時代にスコッチウィスキーで開眼し、帰国後はニッカウィスキーを嗜んできた。ウィスキーはゼロキロカロリーなのが良い。どれだけ飲んでも太らないだなんて素晴らしい。ビールを飲むとお腹にたまるし、ゼロキロカロリーじゃないらしく、ビール腹になるからこまる。
北大生時代は飲み会でハイボールを飲んでいた。一杯目だけは、お付き合いとして皆と一緒にビールを頼んだ。札幌のビールといえばクラシック。苦味が皆無でまろやかだし、鼻から抜ける爽やかな香りも好きである。ビールといったらクラシック。そんな私がハイネケンのツアーに行ってどうするのか。自分でもよく分からない。


ロッカーに荷物を預け、QRチケットを差し出すと、屋上に上がるよう案内された。まずはツアー前に一杯飲みなよと言われた。
言われるがままに階を上がった。ハイネケンのビールバーがあった。ハイネケンのことはさっぱり分からないので、スッキリ飲めるやつをくれとオーダーした。店員のお兄ちゃんが「わかった、じゃあストロングを注ぐぜ!」と返す。おい、スッキリ飲めるやつだと言っているじゃないか。強いヤツを持ってきてどうするんだよ。
…めちゃめちゃスッキリ飲める。おまけに甘い。なんじゃこりゃ、ビール味のキャンディーみたい。喉への引っ掛かりが一切なくて、グラスを傾ける手が止まらない。グビグビ30秒で飲み干した。うわぁ、これがハイネケンか。クラシックよりいいかもしれない。こんな美味いものを今まで知らずに生きてきたのか、もったいないことをしたな。



短時間で一気飲みしたのが良くなかったのか、急にフワーッと酔っぱらってきた。ニヤケが止まらなくなった。もう一杯、と行きたいところだけれども、ビールは一杯までらしいのと、ツアーに行かねばならぬので、おかわりを断念した。
しゃっくりを抑えて階下に降りた。気持ち良く酔っぱらっている間に14時半開始のツアーはもう行ってしまったようで、15時スタートのツアーに混ぜていただいた。
ツアーはツアーで面白かった。ガイド役のお兄ちゃんがジョークを飛ばしまくった。「ハイネケンにはAmsterdam substance(クスリ)が入っているから中毒になるんだぜ」と言ったのには、誰よりも大声で笑った。ハイネケンの歴史も詳しく語ってくれたらしいのだが、酔っぱらって聞いたせいで全部忘れてしまった。
ハイネケンツアーでは、ビールの作り方を学んだ。麦をどうやって加熱するかとか、ホップをどれぐらい入れるかとか、鍋の中はどうなっているのかとかいった知識を得た。こっちの方はなんかよく頭に残った。故郷の広島にもかつてキリンビール工場があった。小学生のとき(?)工場見学に行ったことがあり、予習が20年ごしに役立った形である。ありがとうございます。

ツアーの最後にまたビールをいただいた。今度は銘柄指定なしで、店員の方から注がれるがままグラス一杯いただいた。
店員のお兄ちゃんが何やらオランダ語で話しかけてきた。もちろん何も分からないので、「ちょっと何を言っているか分かんないよ」と言って首を振った。そうしたら、店員さんが急に「ワタシ、ニホンゴハナセマス」と話し始めて、肺の中の空気が全部出るほど驚愕した。
彼は週に一度、日本語教師に日本語を習っているらしい。日本のアニメが好きで、いつかアキバのアニメイトに行きたいのだとか。日本のソフトパワーってすごいんだな。こんなところにもファンがいるだなんて。「いつか日本に来てね、待ってるから」とがっちり握手した。相手の手はビールでベトベトだった。
ツアーを終えてすぐ、最寄りのスーパーでハイネケンの500mL缶を買った。


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