ボーディングブリッジを通ると肌寒かった。北ヨーロッパは9月中旬には秋に差し掛かっていて、この時期はもう長袖シャツに一枚ジャケットが必要なぐらい。用意していたジャケットを羽織って温度調節した。

アムステルダム・スキポール空港は、オランダ最大の空港。朝から晩までひっきりなしに飛行機が離発着している。人口2000万人の国にしては破格のサイズで、端から端までほふく前進で何時間かかるのかというほど広い。
広いのは結構、コケコッコーなんだけれども、ロングフライト直後の身には堪える。身動きを取れずエコノミークラス症候群になっていた私は、小鹿のように足を震わせ、イミグレ目指して前進した。どんだけ歩かせれば気が済むんや、いくら歩いても先が見えない。
フィニッシュが見えないならまだしも、イミグレまで何分とか、イミグレはこっちみたいな看板も見当たらなかった。一本道を、他の人の後ろについて歩く形である。合理的といえば合理的だが、日本の過度に親切な表示に慣れている身としては不安になる。

やがて、イミグレに到着した。EU組と非EU組に分けられ、ジャパニーズの私はEUじゃない方に並んだ。EU組がスイスイ進んでいくのに、こっちの列はピクリとも動かない。順番待ちのレベルを超えて、大型連休初日の東名高速大月ジャンクション周辺の大渋滞みたいな感じだった。
30分待って、列が進んだ。10m進んで、また止まった。もう20分待って、10m進み、また止まった。どうなっているのかと背伸びして向こうを眺めてみると、人数制限しているらしい。入管審査場混雑回避のため、少しずつ人を入れているのだそう。ワタシ、アヤシイモノじゃナイノデ、ハヤクアムスにイレテモラエマセンカ。もう疲れたんです、座って休ませてください。
かれこれ1時間は待っただろうか。ついに私の順番が来て、入館審査場に案内された。そっちはそっちで混雑していて、30分待って私の番が来た。
「何しに来たんだ」
「クスリ…じゃなくてフェルメールの絵を見に来たんだ」
「何の絵だ」
「ほらあの、牛乳を注ぐ女の絵だよ。あと耳に真珠をつけた少女の絵だよ」
「ふ~ん、そうかい。で、何泊するんだ」
「二泊かな。アムスの次はバルサに行くよ」
「分かった。ようこそ、オランダへ!」
難なく突破した。

アムスの空港は武骨である。柱がたくさん立っていて、天井を見上げればタイルの隙間がよく見えた。ヨーロッパの空港は機能面に振り切っていて、見た目に気を払わない空港が多いように思う。その点、日本の空港はどこに行っても華やかである。羽田なんか、用がなくても行きたくなる。
ただし、出国審査後のお店コーナーは欧州の方が充実している。ヨーロッパの空港は、旅行者のお金を全部むしり取ってやるぜ! といわんばかりにキラキラしている。どこに注力するかが地域によってこんなにも違うなんて、実に興味深い。

機内食が量質ともにイマイチだったので、空港内で何か飲み食いすることに。見渡すと近くにカフェがあって、ハムサンドと水を購入した。クレカ決済で何気なく買うと、2店で€11.5(2100円)もして驚いた。オランダの物価はどうなってんだ。東京でも1000円がいいとこなのに。旅の先行きが危ぶまれる。
パンはカッチコチに固かった。水と一緒に食べ、口の中でふやかしながら、少しずつ食べた。これでマズかったら気落ちするところだが、幸い美味しかった。
それから空港内を徘徊していると、オランダの大手スーパー「アルバート・ハイン」を見つけた。試しに店内を歩くと、パンが一個100円で売られていた。何なんや、さっきのカフェが高かっただけか。しかもめっちゃ美味しそうだし。チーズ入りもあればレーズン入りもあって、口直しに買いたい所だった。

今回の旅は出費を抑えるため、一日目は空港泊となる。宿に泊まると高くつくので、空港のベンチで寝る計画である。博士課程でイギリス留学した時も、羽田やヒースローでよく寝ていたし、今回も同じようにすればいいやと軽く考えていた。
アムスの空港は、寝床が乏しかった。ベンチの数は十分にあるのだが、肘置きの下にパイプが通っていて、椅子をまたいで横になるのが難しい。肘置きの下に身体を通すのも困難である。横になれないのは誤算だったな。椅子に座って寝るしかないか。
13時間半のロングフライトを経て着いた日の夜だし、さすがにすこし横になりたかった。どこか良い場所はないかなと探し、結局見当たらず、リュックを枕に床へ寝転んだ。アムスの夜は寒く、着替えを全部着込んで暖をとった。3時ごろ、巡回の警備員さんに「チケットを見せて」と起こされ、アムス行きのチケットを見せた。寒いのと起こされたのとで、正味1時間しか寝られなかった。これなら一泊分多めにお金を出してホステルに泊まった方が良かったわ。


翌日の旅程を調べるためにスマホを開いた。充電が残り3%になっていた。消費税より低いのは問題だ、すぐさまエナジーチャージしなければ。空港内を徘徊するが、コンセントが見当たらない。先ほどぼったくられた(失礼)カフェに戻っても、充電できそうなコンセントはなかった。
1時間は捜し歩いただろうか、ふと、消火器の下に穴を見つけた。神さま、ありがとうございますとお慈悲に感謝して挿入した。なんと、コンセントに電気が通っていなかった。神はなんと無慈悲なのか。
再び空港をほっつき歩いていたら、また穴を見つけた。今度の穴は緩く、充電器を挿してもポロっと抜けてしまう。手で支えていれば充電できるのだが、手を離せばもうダメである。近くに居たおっちゃんに「いい穴、ない?」と尋ねたら、「アムスに行けよ、きれいな子を抱けるぜ」とニヤニヤ返された。そっちの穴じゃねぇんだよ。オレのスマホを助けてくれ。
どうやらコンセントは消火器の裏にあるらしく、消火器を見つけては裏に回って差し込んだ。緩い穴が大半ななか、ピタリと入る穴を見つけ、はぁ~~~っと大きく息をついた。ここで満充電すれば、とりあえず明日は大丈夫そう。充電し終えるまで、消火器のすぐ隣で横になり、目をつむって休んだ。


コメント