【世界道草紀行#5】なぜ、人は空に憧れるのか

小学生のころの夢は飛行機だった。厳しくて束縛の強い家庭で育ったことから、空を自由に飛べる飛行機に漠然とした憧れを抱いていた。ベッドからジャンプして飛ぶ訓練を重ねたが、ボーイングからもエアバスからも声が掛からず、さらに理科の授業を通じて人間は飛行機にはなれないと分かり、夢を諦めた。

飛行機の次は、パイロットを志した。飛行機になれないなら、飛行機を操って世界を飛び回ろうと思ったのだ。しかし、どこかへ家族旅行に行った際、高所で親に背中をドンと押されて高所恐怖症を患い、パイロットなど夢のまた夢となった。

その後、飛行機用の材料を作りたいと思って材料科学専攻に進んだ。ふと気が付いたら電池材料の研究をしていて、いつの間にか博士号まで取っていた。進路を考えたとき、何らかの乗りものに携わりたくて、自動車メーカーに就職した。就職直後、自動車に全く関心がないことが分かり、頭を抱えた。一年半勤務して、このたび材料メーカーに転職した。

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成田発アムステルダム行きのKLM便は、13時間半のロングフライト。離陸すると銚子沖から太平洋に出て、千島列島を横目にベーリング海へ。アラスカを横断すると、グリーンランド。徐々に行動を下げながらイギリス横を通過し、北からオランダ領空に入るルートだ。ロシアが戦争していなければロシア上空を通るのだろうが、こうした国際情勢のため、遠回りでフライトすることになっている。

13時間半のフライト中には、機内食や軽食が提供された。一度目は、離陸から1.5時間後。チキンかパスタの二択問題を出され、「チキン!」「正解!」と阿吽の呼吸であった。チキンの他にも野菜とパンとスポンジケーキが渡された。

正直言って、チキンはまずかった。塩みも苦みも何もなかった。脂で表面がギトギトになっただけで、照り焼きでも唐揚げでもない、育毛でも植毛でもない、得体のしれないチキンだった。これならコンビニのサラダチキンの方がまだ美味しいんじゃないかと思う。飲み物のコーラか、パンの添え物のバターが一番美味だった。

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昼食から2時間後、お口直しの軽食タイム。紅茶とクッキーが提供された。

紅茶は、グリーンティーかブリティッシュティーの二択。何が違うのかよく分からんなぁと思いながら、イギリス留学経験者として英国式紅茶を注いでいただいた。紅茶はさすがに美味しかった。バッキンガム宮殿を想わせるアールグレイの味がした。イギリス留学前は紅茶なんて飲まなかったけれど、留学中に浴びるほど紅茶を飲み、紅茶の大ファンになった。

ちなみに留学中にはスコッチを通じてウィスキーにも開眼した。留学のストレスをウィスキーで溶かして英国滞在を乗り越えた。ウィスキーの飲みすぎか、留学後に体重を計ったら3キロ落ちていた。

クッキーはチョコチップ入りで甘かった。紅茶とよく合う味付けで、昼食のチキンと調和して胃袋の機嫌が収まった。クッキーを紅茶に少し漬けてみたところ、ボロボロになって収拾がつかなくなった。クッキー表面のバターを溶かせば紅茶がより美味くなると思ったのに、思わぬ形で足元をすくわれた。クッキー入りのブリティッシュティーを、何食わぬ顔で完飲した。

しばらくして、機内の明かりが消え、おねんねタイムになった。旅の興奮が手伝って、全く眠気がこずしっかり起きていた。隣に座ったおばちゃんが、ペンを片手に文藝春秋に線を引きながら一生懸命読んでいた。週刊誌の何がそんなに面白いのか。他人の人生に土足で押し入る週刊誌って、あんまり好きになれないんだよなぁ。

暇すぎて暇すぎて西野カナのように震え、ディスプレイで映画や音楽を探した。ん~、面白くないなぁ。目をつむっていた方がマシかな。アムス到着後に備えて寝ようとしたら、隣の文藝春秋おばちゃんが読書灯をつけて熱心に読み始めた。おばちゃんの手元だけ明るくなるなら良いのだけれども、左右席までしっかり照るものだから困る。明るすぎて、ちっとも眠れない。

仕方がなく私も起きて、ノートに研究のメモを作った。転職先でどんな研究がしたいかとか、どんな材料を作りたいか、ぼんやり構想を組み立ててみた。普段なら出ないような角度から着想が湧いてきて、有意義に過ごせた。おばちゃん、ありがと。もう眠いから、明かりを消して。

眠すぎて眠すぎて西野カナのように震えていたら、再び軽食タイムが来た。サンドイッチマンと飲み物が渡され、音速以上で食べたらゼロキロカロリーだよな~、でもパンに対する相対速度は0km/hだから地表と一緒だよな~、などと妄想をたくましくしていた。

眠くてなんかよく分からなくなっていたので、口を大きく開けてパンにかじりついた。麻薬が入ってんじゃねぇかというほどジューシーで美味しかった。手前のバターサンドと奥のケチャップ入り何とかサンドが絶妙に調和してファンタスティックだった。

もうあとふた口で食べ終えるところで、2つのパンを一気食いしているのに気付き、戸惑った。別々に食べれば別々の味を楽しめたのに、両方同時に食べるからミルフィーユみたいな味になったのだ。ま、美味しければ何でもOKです、幸せならそれで構いません。

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アムス着陸2時間前に機内の明かりが灯った。時を同じくして給食タイム。今度は一択で焼きそばが配られた。

焼きそばの上には卵が載っている。焼きそばと一緒に食べたが、そばにも卵にも味といった味がしなかった。オランダって薄味の文化なのか。そんなことないよな、機内食がおかしいんだよな。これならペヤングやUFOの方が美味いと思うわ。KLMの機内食はハズレかもしれない。

焼きそばの他には、スポンジチョコケーキとカットフルーツが配られた。鮮度がイマイチで美味しくなかった。飲み物で貰ったオレンジジュースが一番美味しかった。

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着陸1時間前に機長から挨拶があり、定刻通りにアムスに着く旨が伝えられた。30分前から降下が始まり、アムスの海岸線が迫ってきた。高度が下がるにつれ地表がハッキリしてきて、のどかな田園地帯が見えてきた。

なんか見たことある風景だなと思った。本州側から新千歳空港に着陸するときの景色に似ている。苫小牧の海岸線から北海道に入り、道央の畑と千歳の街を見降ろしながら高度を下げていくのとソックリだった。そうか、オランダって北海道だったのか。ずいぶん遠い北海道だなぁ。

ガツンと強い衝撃とともに、アムステルダム・スキポール空港に着陸した。機体は空港内を15分も走って駐機場に入った。買っておいた海外用SIMをスマホに挿して起動すると、SMSで”Welcome to Netherland!”と通知が来た。

オランダに、着いたのだ。

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