自分は果たして一体何をやっているのだろうか…
私が今ふらふらとヨーロッパを周遊しているのは、オックスフォードのラボで状況が好転するのを待つためである。旅行が目的なのではない。万全の態勢で勉学を再開できるようになるのを待つのが主目的だ。おそらく1~2か月は待たされることになるだろうと思う。その間、直ちにオックスフォードへ戻れるよう、イギリスから離れすぎない程度の場所で待機しておかなくちゃならない。『待つ』のが目的とは言うものの、傍から見ると私がやっている行為は完全なるお遊びだろう。研究をせず遊び回っていることに対して体の奥底から罪悪感が募る一方。働きたいのに働けない。もどかしいったらありゃしない。
自分は博士一年次という大切な時期に果たして何へうつつを抜かしてしまっているのだろう。何をやっているんだろう。なんでラボではなく、観光地でニコニコと写真を撮って喜んでいるのだろう。旅行をせざるを得ぬ現状だが、心置きなく旅行を楽しめない。どうしても虚無感や焦燥感が残る。”こんなことをやっていて卒業や就職は大丈夫なのだろうか?”と、尽きぬ不安が頭をもたげては消え、ゲリラ的に己を徹底的に苦しめてくる。
ウィーンへ
当初はあと一泊する予定だった。同居人ともう一日過ごすストレスを鑑み、宿をチェックアウトすることに。流石にアイツは耐えられない。お金を貰っても一緒に過ごすのはイヤ。
最寄りの駅で地下鉄乗車券を購入。一回分で450HUF [190円]。どこまで乗っても190円だから日本よりかなり安いのではないかと思う。チケットの裏にはバーコードが印刷されている。それを改札前の読み取り機へピッとかざしてブダペスト駅行きの地下鉄に乗車。
地下鉄駅はかなり深い所にあった。30秒ほどで1フロア移動できる高速エスカレーターへ2回乗ってようやくホームに着く。
車両は加速も減速も大変滑らかだ。立っていたらひっくり返りそうになるほど荒い運転をする札幌・地下鉄南北線にはどうか見習っていただきたい。
ウィーン行きの電車の出発時刻は予定より20分遅延するらしい。屋外でも屋内でも駅の中は極寒だから、一刻も早く来て私をウィーンへ連れて行ってもらいたい。09:15になっても列車は来ない。ブダペストの朝の気温は-5℃。足先から髪の毛の先まで冷えて凍ってしまいそうになるほど寒い。温泉の街・ブダペストには駅に足湯なんてものは無いのかい?そんなに都合の良い場所へ温泉が湧くわけはないのだけれども…
結局、待っていた列車は09:35ごろホームに現れた。いやもう、本当に寒かった。冷えすぎてあわや死んでしまうかと思った。列車の中は極暖(*^ ^*)。たちまち血液が勢いよく循環し始める。
2時間半でオーストリア・ウィーン駅に到着。雰囲気はJR京都駅と瓜二つではないかと思う。数多のホーム、暗めの照明、大理石の壁、たくさんのお洒落なお土産屋さんなど、両者が共通している項目を挙げだせばキリが無くなってしまほどだ。北口から駅を出、ウィーン市街に繰り出す。ブダペストよりも少しだけ気品を感じられる穏やかな街並み。刺激が少なくマイルドな風景。住民の顔もブダペストより僅かに和やかに映って見えた。中心部には美術史美術館や音楽の家など、ウィーンらしい観光地がある。明日のお楽しみとしよう。今日はホテルで休む。
一泊5,000円程度で個室に泊まれる宿を見つけた。二泊分予約。コレで同居人をめぐるトラブルが消えてなくなる。個室、最高じゃないか。誰にも気兼ねなく過ごせる個室がやはり至高。極上の過ごし心地。ベッドもフカフカ。ゆっくりと休めそうだ。ウィーン滞在中に熱が少しでも下がってくれたらいいんだけどな。下がってくれなきゃ流石に困る。苦しい思いはもう勘弁してくれ。
旅と留学の終わりを1/17に設定
今回は一泊5,000円で個室を抑えることができた。それは物価の安い東欧だからこそできた離れ業であって、日本よりも物価が遥かに高い西欧へ足を踏み入れたら叶わない。一泊8,000~10,000円は覚悟しなけりゃならないだろう。月に宿泊費だけで20万円を越えてしまいそうな見込みに。二か月半で最低でも50万円か。相当キツイな。帰国後の札幌での生活にもある程度差し障るかもしれない。
勉強や研究以外の部分にここまでお金を使って私は何を成し遂げたいのだろう?宿泊費を費やして得られるのは私の心の安寧のみ。使えば使うほど自己成長につながるというワケではない。むしろ、専門書や豊饒な文学作品に費やせるお金が減り、自己停滞、否、自己退化を引き起こしかねないのではないか。オックスフォードでのラボの状況の好転にはほとんど期待を持てない。なんせ、触ったものを全て壊してしまうあの出目金チャイナ人ポスドク女性が居るのだからな。
オックスフォードのラボに戻って実験を進めたい気持ちがほとんど無い。月14.5万円分の在籍料を払ってラボへ居たにもかかわらず、メールを送ってはボスに無視され、学生やポスドクは居ない/来ない、そもそも何の実験もできない惨憺たる実験環境だったから。イギリス留学を今後も続ける価値が私にはどうしても見いだせない。ストレス耐性が多少は上がって我慢強くなる程度じゃないかな。留学に前向きでない以上、欧州旅行を続ける正義が無くなってしまった。帰ろう。みんなのいる日本に引き揚げて休もう。
旅行、すなわち留学の終わりを1/17に設定した。あと7日間か。長いのだか短いのだかあまりよく分からないな。以前予約していた3月下旬の便をキャンセルした。1/17夕方、ヒースロー空港を発つカタール航空に乗って日本へ帰る。最終日、離陸直前に私は何を考え、何を思うのだろう。頭の中を虚無感が占め、思考を巡らせるどころじゃないかもしれない。
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