なぜ旅行記を記すのか
旅行は信頼の消費である。先人たちが築いてきた日本人としての大きな信頼を食み(はみ)、旅先でたびたび良い思いを味わい「あぁ、楽しかった」と満足して帰って来る営みだ。お金を使って帰って来る。消費者として旅行地に向かい、消費者として振る舞い、且つゆったりと時を過ごす。見ての通り、私はブロガー。普段から文章を書いて生きている。何かを生産せずにはいられない。消費行動一辺倒では精神に狂いが生じてしまう。旅行記の執筆は、私の心の痛みを緩和するために必要な一種のカンフル剤。日々の消費的な営みを文章にしたため、自らの中の消費-生産バランスを辛うじて保つために不可欠な行為だ。
12/29 全体の行程
- 0846-0952 オックスフォード→ロンドン・パディントン (ユ0)
- ~徒歩で移動~
- 11:35-12:08 ロンドン・ヴィクトリア→ロンドン・ガトウィック空港 (ユ0)
- 16:50-23:45 ガトウィック空港→イスタンブール空港
- 空港で野宿
発端
2023年10月2日から滞在していた学術の街、イギリス・オックスフォード。そのシンボル『オックスフォード大学』へこれまで私費留学していた。当初、留学予定期間は翌年3月29日までの半年間。滞在中は存分に研究へと励み、帰国後の飛躍につなげるはずだった。世界No.1の大学は果たしてどのような雰囲気なのだろうか?(やっぱすげぇな…)と圧倒されるか、(なんだ。こんなものか…)と安心させられるのだろうか。オックスフォード大学への在籍料は月々£767 (14.5万円)。お金を払って籍を置く分、学びを最大限得て帰るつもりだった。
渡英翌日に足を運んだラボの惨状を目の当たりにして絶句。「聞いていた話と違うじゃないか…」と、呆れを遥かに通り越して何も感情が湧き上がらなかった。ラボのホームページに映っている10人以上の学生&研究員は今や2人しか居なかった。その人たちもラボへ週に一度来るか/来ないかといった所。実験装置は軒並み壊れ、すぐに使用できる状態ではなかった。おまけにラボの主宰者はラボへ滅多に顔を出さぬらしいから意思の疎通が極めて困難。
崩壊した研究環境のもと、実験を始められるよう最善を尽くした。…無理なモノは無理。実験試料の調合さえ行えないまま三ヶ月が経過。残り三ヶ月も何ら進捗を得られないまま経過しそうな嫌な予感が。半年間を無為に過ごし、「何をやっているのだろうか…」と失意に打ちひしがれて帰国しそうな気がした。オックスフォードのラボのメンバーにとっては自分の存在など気に掛からないのだろう。だったらココを抜け出してやる。このまま座してくたばってたまるかってんだ。
ラボの主催者に連絡し、『実験装置が使えるようになるのを待つ』という体で旅行へと繰り出すことに。正直、あと3か月待っても装置の状況は変わらぬだろうから、事実上の別れの挨拶を済ませて失意のもと、オックスフォードを発った。
さらば、オックスフォード…!
凍てつく大気へ白い吐息を鼻からふーふー漏らして歩く。手にはスーツケースを、背にはリュックサックを持って/背負ってオックスフォード駅へ。気温は3℃。少々冷え込む。天気は晴れだ。冬のオックスフォードらしくないカラッとすっきり晴れた空模様。
オックスフォードは嫌いじゃない。むしろ大好きな街である。ハリーポッターの映画そのままな歴史溢れるミステリアスな都市。この3か月間で好きが”大”好きへと進化したほど思い入れが強くなった。イギリスは好き。オックスフォードも好き。オックスフォードの街並みやニコニコ笑顔な人々の醸し出す雰囲気が好き。一つ、オックスフォード大学のみが嫌いになっただけに過ぎない。
事前に有効化申請していた【ユーレイル グローバルパス】を起動。今日から3か月間、ヨーロッパの様々な列車が乗り放題に (註:座席指定料が必要な場合も)。アプリで生成されたQRコードを改札にかざす。おや?全く読み込まれない。駅員さんに聞いてみる。「ユーレイルパス?あぁ、改札ではなく係員に見せて通過するんだよ」と教えてくれた。係の方にコードを見せる。今度はちゃんと読み取っていただけた。「良い旅を!」と気持ち良く送り出して貰えた。「あなたも良い一日を (*≧∀≦*)」と笑顔で応じてホームへと向かう。
定刻通りに列車が到着。まず向かうのはロンドン・パディントン駅だ。途中停車駅は一駅のみ。パディントンまで一時間ほどで結ぶ特急列車に乗る。今回は一等車両にも乗ることのできるユーレイルパスを購入。意気揚々と一等車に入るも、全席満席で座る場所を見つけられず。二等車に移動。こちらはガラガラ。座席指定されていない席を探して”よいしょ”とどっかり腰を下ろす。
車窓から景色を眺めつつ、これから先の長い旅路に思いをはせる。旅行の好きな私といえども3か月連続の旅行などした経験が無い。果たして無事に帰って来られるのか?治安は大丈夫だろうか?戦争の影響は?キャッシュは引き出せるか…などと溢れんばかりの心配事が。まぁ、何とかなるだろう。最悪、途中で旅行を切り上げれば済む話だし、心配するより旅行を楽しむ方へ頭を切り替えようじゃないか♪
パディントン駅で乗り換え
駅から歩いて徒歩2分のお土産屋さんでスーツケースを預ける。『BOUNCE [リンク]』という荷物預けサービスを使い、3か月間£370 (6.6万円)で託した。20kgもの重たい荷物を引きずりながら欧州旅行などしたくない。疲労や不快感から6.6万円で離れられると思えば安い出費。無事に荷物を引き取られた暁にはこのお土産屋さんで何かお土産を買って帰ろう。ユニオンジャックのマグカップにパーカーなど、欲しいものが幾つか見つかった。
広くて開放感溢れるハイドパークを歩いて通過。騎馬警察がいた。小4から高3まで乗馬をやっていた頃の血が騒いだ。馬術少年時代、かつて(騎馬警察になりたい)と思ったことが。武術が弱すぎて諦めた。馬から降りたらあまりに弱いと警察の格好が付かないじゃないか…と。馬は暢気に大便をしていた。握りこぶしほどの大きな便が歩道の至る所に落ちていた。ちなみに馬の便は馬術業界で「ボロ」と呼ばれている。ボール [ball]が訛ってボロになった説、ボロボロ落ちるからボロと呼ばれるようになったなど諸説あるようだ。
移動手段を徒歩から列車へ移す。ビクトリア駅からガトウィック空港まで30分ほど電車に揺られた。空港直結の列車があるから移動が大変楽である^ ^ しかもユーレイルパスを使えば無料。旅行者にとってはまるで天国のよう。途中、駅に停車するたび乗客が次々と乗り込んできた。年末だし、ロンドン在住の方は故郷に里帰りするのかな。
ガトウィック空港での5時間弱
12時ごろ空港に到着。これから乗るイスタンブール空港行きの飛行機は16:50の出発予定。5時間弱もの暇な時間が。さてさて、一体どうしようか。
まずは腹ごしらえといこう。ショップでサンドイッチ&ドリンク&スナックを合計£5 (900円)で仕入れる。ひと口50回ほど噛む。噛まなきゃ時間は過ぎ去らない。飲み物でさえも30回は噛む。歯応え?んなもん無いけど、”ある”と想像すれば柔らかいものでも歯応えを得られる。
食事で1時間ほど時間を潰せた。次にkindle電子書籍を読む。角田光代さんの「いつも旅のなか」を開く。柔らかい文調で淡々と激しいハプニングを綴っている内容には衝撃を受けた。「旅を色濃くする調味料は出会いとハプニングだ」と世間で云われている。これから先、どんなアクシデントが起ころうとも楽しまなくちゃ損だな。
読書でさらに2時間ほど時間を前へと推し進められた。残り時間はパソコンと将棋に興じて潰す。私は三間 or 四間飛車党。王様を穴熊に囲って守りを万全に整えてから戦闘に入る。居飛車側が攻めてきた勢いを利用して強烈なカウンターをお見舞いするのが気持ち良い。また、駒をダイナミックに動かして捌く様がパズルみたいに捉えられて楽しい。一方、少しでも駒の動かし方を間違えれば居飛車側に一瞬で攻め潰される。相手の出方を伺いながら緊張感を持って2時間将棋に励んだ。
ターキッシュエアラインズでイスタンブールへ
セキュリティチェックと出国審査を済ませて意気揚々と搭乗ロビーへ。乗るのはターキッシュエアラインズ。人生初の搭乗だ。赤の背景に白いロゴがトルコの国旗を想起させる。日本航空の鶴丸マークの色を反転させたような感じ。定刻通りに飛行機に乗り込む。右の窓側席に座った。隣には誰も座らない。すごくラッキー。搭乗率9割オーバーの機内を有難く広々と使わせてもらおう。
離陸から2時間ほど経った頃からおもむろに機内食の提供が始まった。チキンとポテトの二者から選択。タンパク質を確保するため「チキンで」と迷わず選択した。出てきたチキンはつくねハンバーグ。チキン…?まぁ、文句は言うまい。味は文句なしに美味。少しだけ塩辛かったかな。その他、パン (右下)、ポテト?? (左上)、チョコムース (上中央)、そして水 (右上)を堪能。フォークやスプーンが使い捨てではなくしっかりとした食器が出てきたのが印象的。
空港野宿
トルコの首都最大都市・イスタンブールに着いた。それにしても広い空港だ。どうやら世界で一番大きな空港らしい。着陸から完全に停止するまで飛行機が30分も空港を走っていた。羽田ですら着陸から10分足らずでゲートに着くのだから驚きの規模。これほど空港が大きいと管制側が飛行機を捌くのが大変そう。いったいどうやって運用しているのか。案外サイコロでテキトーに振り分けているのかもしれない笑
入国審査はあっけなかった。前に並んでいたヨーロッパ系の方が審査員と何やら揉めていたが、私は顔を一瞥されただけで「どうぞ」とスタンプを教えてもらえた。コレが日本ブランドの強さだろうか。トルコと蜜月の関係にある日本から来た旅行者にはトルコ側も甘めに見てくれるのであろう。まぁ、わざわざ我々日本人がトルコで犯罪を犯すメリットが無いもの。逆にトルコ側こそ、埼玉・川口市で散々暴れまわっているクルド人を取り締まりに来てくれないだろうか。
空港内を散策すると、至る所に国旗が吊り下げてあるのが目に付いた。月の右側に一つの星。トルコが月で日本が星らしい。色味は日章旗の反転バージョン。国の旗でまで日本大好きアピールをしてくれているとは嬉しい話だ。日本人はヤクザのような近隣諸国と付き合うのではなく、トルコを始め、日本を好きでいてくれる国との交流に力を注ぐべきじゃないか?どれだけ謝っても謝罪を要求し続ける国や気を抜けば領土を奪いに来る国に誠意を尽くしても無駄だと思う。
1F到着ロビーに椅子を見つけた。膝を曲げれば横になって寝られるほどのちょうど良いベンチがあった。少々硬いが致し方ない。ホームレスの身分で空港の椅子にケチをつけるなど道理に合わない。頭にリュックを、腰にタオルを敷いて痛みを緩和する。耳に耳栓、目にはアイマスク、防寒用にダウンジャケットを羽織って万全の野宿態勢を築いて就寝。
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