
出国ゲートの向こうは外国である。日本に居ながらにして日本に居ない、友達以上恋人未満の微妙な三角関係といった所である。
さて、何をやらかしてやろうか。チャイナ人観光客に負けじと爆買いでもしてやろうか。出国ゲートの先では無税だし、買えば買うほど儲かるのだ。そういえば中国語が全然聞こえない。彼らは祖国で静養中なのかな。それでは私が代わりに買い占めてあげましょう。
…と、何か買おうとしたけれども、旅行前に荷物を増やすのは良くない。軽量に向けてお菓子をむさぼり食うプロボクサーと同じぐらいの悪行である。これは旅行なんだ、真面目にやれ。

商品購入を諦め、土産品エリアを徘徊した。すると、見覚えのある石屋製菓のお土産が登場した。おいおい、ここは東京ですよ。東京に北海道の土産を置いてどうすんの。東京人にプライドはないんか。東京ばななとか、東京ばななとか、東京ばななとかあるじゃないか。せめてもんじゃとか置きなさいよ。
そりゃあね、白い恋人は美味しいですよ。北大出身者として太鼓判を押しますよ。道外への土産は白い恋人で決まりなんだから。白い恋人以外にも、マルセイバターサンドとか北菓楼のシュークリームとかあって、おかげで我々北海道民は大助かりでしたよ。美味しすぎてね、土産を機内で食べてしまって、手ぶらで人に会いに行ったこともあるんですから。
でも東京は違うじゃん。東京に白い恋人を置いたら、ダメでしょう。白い恋人だけかと思いきや、ルタオとかトウモロコシも売られている。白い東京ばななとか売ったらいいのに。ワッフルにバナナを挟み、バナナに白い恋人を挟めば美味しいと思うけどな。


土産屋をひと通り見て、アムス行きのKLMが待つ14番ゲートに向かった。成田空港は実に広い。白い恋人何個分の敷地面積なのかと計算しかけて諦めるほどの大きさである。東京ドームなら100個は入るのではないか。エスコンフィールドでも同じぐらい入る。
成田はあまりに広いので、動く歩道が張り巡らされている。人間が数十メートル楽をするためだけの電動式回転ケーブルが何本もある。いっそ、全部ベルトコンベアにしてしまえばいいのに。飛行機への預入荷物と同様、搭乗券を読み込めば搭乗ゲートまで運んでくれるようになれば楽になる。AI技術が発達すれば、そのうち現実になるかもしれない。
そういう小細工も面倒くさいので、いっそ、家から直接アムスまで運んでくれたら嬉しい。どこでもドアとか、できないのかね。
14番ゲートに到着した。乗客は日本人1割・外国人9割といったところ。留学時代に乗った羽田発ロンドン行きでも日本人は2割ほどいたが、アムス行きは前回以上に日本人にとってアウェーである。数少ない日本人は、スーツに身を固めてカッチリとしていた。おそらく商社マンだろう。


KLMオランダ航空の機材は、青を基調としたモダンなデザイン。LCCに堕ちたANAより明るめのブルーで、高揚感と落ち着きを与えてくれる素晴らしい色合いである。この青色、好きだなぁ。チャッピーに調べさせたら、デルフトブルーと呼ぶらしい。オランダが誇る画家・フェルメールの出生地にちなんだネーミングなのだとか。
出発30分前から搭乗が始まった。手伝いが必要な方から順に、ビジネス・プレエコ・エコノミーと案内された。いつも思うのだが、上級席ほど先に案内されるのはなぜだろうか。私がファーストクラスの乗客なら一番最後に悠々と乗りたい。いくら席が豪華といえど、飛行機って狭くて窮屈だし、なるべく搭乗ロビーで寛いでいたい。上級ステータスの乗客は違うことを考えているのかもしれない。
自動チェックイン機で発券したチケットを読み込み、ボーイング777へ。レッドカーペットの敷かれたボーディングブリッジを歩きながら、これから海外に行くのだという高揚感からテンションがハイになってきた。海外って海の向こうにあるんですよね、これ意外と知られていないんですけど(知ってるわ)と進次郎が言っていた。

3-4-3シートの右列窓側席に座った。チェックイン機で隣席の空きを確かめていたので、両肘置きに腕を置き「ふーっ」と息を吐いた。アパートを出てから今まで6時間経っていた。関東は便利なのか不便なのか分からない。何でもあるけど微妙に遠く、広島時代より疲れさせられる。
空席だと思っていた左側の席にハンドバッグが投げ込まれた。乱暴だなぁと思っていたら、日本人のおばちゃんが座ってきた。この人は席を間違えているのではないか。何度も確認して座った様子から察するに、合っているらしい。マジかよ、隣に人がいるのか。しかも微妙に加齢臭がして、しんどい。エアコンの風向を調節して対処するも、ほとんど効果は見られなかった。
ま、エコノミーで移動する以上、隣席トラブルもやむを得ない。よい思いをしたければ、もっとお金を出して良い席を取りなさいという話である。オランダは株式会社を生み出した国なのだから、資本主義を見せつけられても甘受しなければなるまい。


飛行機は乗客を乗せ、定刻通りに出発した。トーイングカーに押されて駐機場を離れ、タキシングで滑走路へ。いつまで地上を走るんや、とウンザリするほど長く移動した。
突然スピードが緩み、右に曲がると、エンジンが轟音をあげた。30秒ほど助走をつけて、大空へ飛び立った。曇天のため揺れに揺れた。そこかしこで赤ちゃんがビービー泣いていた。デカい音がしたかと思ったら席に押しつけられて、ガタガタ揺れて、怖いよね。私も一緒に泣きたかったもん。
10分で巡航高度に上がった。離陸直後の大揺れはおさまり、シートベルト着用サインが消灯した。
さぁ、空旅の始まりだ。


コメント