学生時代に卒業旅行を三度企画したが、一度も行けずじまいに終わった。学部時代の卒業旅行はちょうどコロナ騒動勃発に巻き込まれ、修士では研究の都合で出発できず、博士のときは旅行資金を確保できなかった。ツキが、実に悪かったのだ。
せめて旅行気分を味わいたいと思い、修士二年の夏に国内旅行業務取扱管理者試験を受験した。すんなり受かれば気分が晴れたのに、2点足りず不合格となった。あまりに悔しくて夜しか眠れなくなった。悔しすぎて一年間しっかり勉強して、翌年再チャレンジして合格。その翌年には、海外旅行も取り扱える総合管理者試験に合格した。
めでたく旅行業界の国家資格を取れたは良いが、リアルな旅行にも行きたくなった。現地でその土地の空気を吸って、詐欺師にぼったくられて悪態をつきながら、街をフラフラ徘徊したかった。紙面の上でヨーロッパまでの航空券代を計算しても、行った気にならない。Google Mapsで現地をストリートビュー散歩しても、現地の空気感までは分からない。録画よりライブ観戦の方が面白いように、旅行も現地に行った方が面白い。
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2026年8月6日、一社目を退職した。10月1日の二社目初出勤まで二ヶ月間もの夏休みとなった。旅行はお金・体力・時間の三本の矢が揃った時に行ける。学生時代にはそのいずれかが無かったけれども、今なら3つとも揃っている。今こそ行かなければいけないと思っている。だからこそ、今こそ行かなければならないと思っている。
旅行には何か目的があった方がいい。折角高いお金を払っていくのだから、何か意味のある旅にしたい。
学部一年生のとき、第二外国語でスペイン語を履修していた。二外選択時に色々調べてみて、聞いていて一番ワクワクし、かつ簡単そうなスペイン語がいいだろうと思ったのだ。それに、サグラダ・ファミリアが美しすぎた。どうしてあんなものを作ろうという発想になるのか。スペイン人って凄いな。生のスペイン語を聞いてみたかったのと、サグラダ・ファミリアに行きたかったのとで、スペイン行きを決めた。
また、博士一年の秋にイギリス留学した。オックスフォード大学に私費留学し、博士論文の核となる電気化学理論を学ぼうと思って。しかし、訪問先の研究室には誰もおらず、受け入れ先研究者からは放置プレーを食らい、留学を切り上げて帰国した。
オックスフォードから帰ってくるとき、「研究者になったら戻ってくる」と心に誓った。研究で夢破れ、アカデミア就職を諦めて民間就職した。一社目では量産開発部門配属となり、研究者になることは叶わなかった。転職を経てようやく研究職にありつけたので、オックスフォードに凱旋(?)しようと決めた。
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目的地をスペインとイギリスに定め、日本とスペインまたはイギリスを結ぶ交通手段を調べた。直行便や経由便やほふく前進など様々な可能性の検討を加速した。
昨今の中東情勢の影響で、燃料代が跳ね上がっている。おまけに中東の空港はイランからの攻撃リスクがあり、乗り換えに成功するかは未知数である。ほふく前進だと時間がかかりすぎる。日本海をどう渡り切るかという問題もある。そこで、やむに已まれぬ大和魂を発揮して欧州直行便に決めた。
調べた当時の最安値は、成田―ワルシャワ便の18万円。ポーランドに行くのもアリかもしれない。東欧の街並みは、いつまで経ってもかわいいガッキーぐらい美しいという。また、クラクフから足をのばしてアウシュビッツ収容所で夜と霧の世界を体験できる。とはいえ、本来の目的地はスペインとイギリスだし、欧州までわざわざ行って暗い世界を見るのはちょっとなぁ。
その次に安かったのが、成田―アムステルダム便の20万円。アムスは運河とクスリの街で、自転車がビュンビュン走っている。それに、私の好きな画家・フェルメールもオランダ出身だ。オランダ人は身長が高く、彼らに囲まれて過ごせば私も背が少し伸びるかもしれない。アムス経由でバルサやオックスフォードに行くのも一興である。
そのほか、成田―マドリード便や留学時に使った羽田―ロンドン便を調べたが、両方とも35万円以上で即却下となった。
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まずは日本からオランダに飛ぶ。さて、その次はどうしようか、スペインに向かうか、イギリスに行くか。アムスでクスリ漬けになる前提で考えると、スペインの方が良い気がした。
オックスフォードには神妙な気持ちで向かいたい。留学時代の悔しさを思い出しながら、「オレは研究者になったからな」とドヤ顔で立っていたい。ラリっていたらフラフラでドヤ顔どころじゃないだろう。立っているので精一杯である。また、イギリス警察に尋問され、牢屋にぶち込まれて帰れなくなるおそれがある。
その点、スペインならまだマシである。スペイン人はみな陽気なので、ちょっとフラフラ歩いていようが大丈夫。むしろ、肩を組んで「ヘイ、アミーゴ、バルに行くか!」と誘ってもらえるかもしれない。となると、スペイン語の勉強をしておかなきゃな。¡Hola! ¡Gracias! もう完璧だわ、さぁ行こう。
今回は時間と体力こそゆとりがあるけれども、お金にはさほど余裕がない。転職に伴う引っ越しで、貯金がずいぶん削られた。二社目の初任給が一か月ぶん丸々出るとは限らないし、悠々自適な欧州旅行とはなるまい。せいぜい10泊が限界だろう。何日間かは野宿で宿代を浮かさなければ……
ま、そんなことはどうでもいいんだけれども、これでようやく海外旅行に飛び立てる。学部・修士・博士で行けなかった卒業旅行のぶんまで存分に楽しみたい。




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