- 博士一年・3月 まだ誤差の範囲
- 博士二年・6月 賽は投げられた
- 博士二年・2月 天は人の上に年収を作る
- 会社員一年目・4月 置かれた場所で、咲けるのか
- 会社員一年目・6月 パワー・ポッター
- 会社員一年目・7月 失われた研究生活を求めて
- 会社員一年目・10月 活字をくれと、叫ぶ秋
- 会社員一年目・12月 もうあと一年、踏ん張ろう
- 会社員二年目・5月 初夏にして希望は潰え
- 会社員二年目・6月 今のままではいけないと思っているが
- 会社員二年目・6月 行動開始
- 会社員二年目・6月 会社員二面相
- 会社員二年目・6月 奥の手は、人の手
- 会社員二年目・7月 最終面接ウィーク
- 会社員二年目・7月 送信は、揺られるままに
- 会社員二年目・7月 お時間、よろしいでしょうか?
- 会社員二年目・7月 去り際の芝は蒼い
- 会社員二年目・8月 有意差あり
~前作~
転職活動を行う人は2パターンに分けられる。現職をやめてから活動する人と、現職に勤めながら行き先を探す人である。
前者の場合は落ち着いて行き先を選べる。平日の昼間にも面接を受けたり職務経歴書を記したりできる。しかし、戻る場所が無いため精神的に不安定となりがちで、収入もなく、職場が決まらなければ貯金残高が減る一方で不安になるだろう。
後者の場合は、とにかく忙しい。会社に勤めながら転職活動するのは誠に骨が折れる。最悪、転職先が決まらずとも失職せず、生活ライフラインが保たれているのは素晴らしい。素晴らしいが、転職を考えているぐらいだから、現職を心地よいとは思っていない。よって、進むも地獄・戻るも地獄なファンタスティックビーストとなっている。
自分は当初、現職を辞めてから転職活動するつもりだった。量産開発に追われながら次の行き先を探すのは難しいと思った。なんだかんだ言って行き先が決まる可能性はあるけれども、精神的に疲れた挙句、行き先を妥協する可能性がある。そうなると、求めているものと次の職場とのミスマッチが生じるかもしれない。苦しみをやわらげたくて転職活動を始めたのに、現職より苦しい思いを味わう懸念があり、大変遺憾である。
検討に検討を重ねた結果、現職と同時並行での転職活動を選んだ。
日本では同時並行が一般的である。退職してから面接に挑めば、企業側から「なんか変わったお兄さんやなぁ…」と採用してもらえなくなるかもしれない。それに、内定獲得後の給与交渉で足元を見られるリスクがある。辞めた後は勤め先がなく、弱い立場なわけで、少しでも人件費を抑えたい相手方の方が有利である。
ただでさえ忙しい量産開発職に勤めながら転職活動するのは大変である。大きな負荷がかかるのは承知のうえで、やりたいことができ、かつより良い待遇を提示してくれる場所を求めて動いた。
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日本で電池材料を研究したいとなったら、行き先は以下の三択に絞られる。
- 最大手自動車メーカー
- 大学や国研などのアカデミア
- 素材メーカー
完成車メーカーは完成車だけ作っていると思われがちだが、実は材料も手掛けている。特にT社は日本で一・二を争う電池関連特許数を誇り、H社も負けじとユニークな技術を錬成している。T社もH社も待遇面が素晴らしく、平均年収は現職より数百万円も高い。
研究に特化したければ、アカデミア。大学や国研に行けば、知的好奇心ベースで気の赴くまま自由に働ける。特に国研は世界有数の解析機器を揃えており、研究者としては楽園みたいな場所だ。しかし、いかんせん給与が安い。最近は研究費も少なくなってきているというし、待遇面では厳しい環境だといえる。
素材メーカーは、地味ながら安定している。世界で数社しか作れない特殊製造技術を持つ会社もあり、総じて高利益率な企業である。利益率が高いと研究開発投資も盛んで、恵まれた環境のもと研究ができる。素材メーカーは、コア事業でキャッシュを稼ぎつつ、余剰資金で次世代事業を育てる好循環ができている。研究面でも待遇面でもバランスの取れた選択肢といえる。
転職活動初期に行った自己分析で、私の希望を叶えられそうなのは素材メーカーだと分かった。素材メーカーにだけ出す選択肢もあるが、せっかく転職活動を行うのだから様々な企業と接してみたいと考え、素材以外の企業にも応募した。
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まずは某国研に応募した。大量の女性採用枠をかきわけ、男でも応募できそうな枠を見つけてエントリーした。応募から一週間でリジェクト。不採用理由は明かされなかった。おそらく業績不足だろう。
国研からはポスドク枠応募に切り替えるか打診された。ポスドクとは博士研究員のことで、数年間非正規で働く職員である。非正規から正規に昇格できる人もいるが、多くは任期終了時に雇い止めとなる。正規職からわざわざ非正規に移るのも違う気がして、ポスドク採用は遠慮させていただいた。
続いて、自動車メーカーT社と自動車部品メーカーD社にエントリー。ついでに、電池関連事業もやっている総合商社T社にも出した。商社のT社は2日で、自動車のT社は3日で蹴られた。大谷翔平を超えたと話題の180キロ広末涼子も驚くスピード不採用である。D社からはお祈りメールすら来なかった。梅雨空は連日、墨色の雲に覆われていた。
四戦全敗したあたりから、ため息をつくようになった。自分がやってきた仕事は無価値だったんじゃないかとか、社格が理由で選考に進めていないのでは、などと邪推し始めた。本当は社歴が浅いだけなのだけれども、仕事と同時並行で転職活動を進めている身では敗因を冷静に分析するのが困難で、不採用が新たな不採用を呼ぶ引き寄せの法則を発動させてしまったようだ。
しまいには、「高年収をもらえるならどこでもいいや!」とやけくそになり、半導体装置企業に目を付けた。最大手のT社と洗浄大手のS社に化学の素養を活かせそうな仕事を見つけて応募した。両社とも書類選考で落ちた。S社からは「採用ターゲットを経験者に切り替えたので」と言われた。求人票には未経験OKと書いてあったんだけどな。未経験と書いてケイケンシャと読むのか。
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一社や二社に落ちたのならまだしも、六戦全敗には頭を抱えた。自分に転職など早かったのか。まぁ、新卒入社から一年半で移るのは、客観的に見ても早いよな。普通はもう少し経験を重ねてから次の会社に移るものだ。実際、『まずは三年』と言うではないか。三年働いてからでないと移る/移らないの判断はできないのではないだろうか。
とはいえ、私は博士である。博士課程を一年飛び級して修了できる力を備えている。学振DC1に内定し、論文を六報記して、オックスフォード大学留学もした。博士課程を実務経験に入れれば、四年弱働いてきた計算になる。能力や専門性はそれなりにあるはずだ。どこかしらの企業が評価してくれたっていいのにな。
やはり転職市場は社会人経験とやらが全てなのか。現実はなんと厳しいのか。お先真っ暗じゃないか。
第十二章の学び
・転職活動は在職中にやるべし
・未経験OKの求人票を信じるべからず
・中途採用は前途多難
・広島のお好み焼きはうまい
~次作~
Coming soon…


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