ミュンヘン空港へ
3日後、ロンドンから日本に帰り、3か月半の留学生活に終止符が打たれることになる。滞在終了日時はあくまで自分で定めたものなのだが、 (あと3日しか海外に居られないのか…)と少々名残惜しいものもある。海外では日本に居ては感じられない”異国感”を日々味わえた。日本と違うマナーや文化、価値観に戸惑いつつも新鮮味を覚えていた。それら非日常的な感覚を3日後から全く感じられなくなる。取り戻した落ち着いた毎日は心身の回復に役立であろう反面、身体の湧き上がるほどの高揚感を味わえない一抹の寂しさを抱える。
ホテルをチェックアウトし、ミュンヘン国際空港に向かった。飛行機出発は15:35。今回はSAS (スカンジナビア航空)に登場する。空港までのルートは江戸時代の北前船の如く、東回りルートと西回りルートの二択。別にどちらでも良かったのだが、先に列車がホームにやってきた方の東側のルートをとることに。空港まで一本で行ける便のはず。しかし、ミュンヘン東駅で完全に停止。ドイツ語のアナウンスがなされた後、乗客がみな降りてしまった。どうやらこおkまでの営業のようだ。
今後のルートを脳内で模索する。ネットに繋がっていないスマホには頼れぬ以上、己のアタマ一つだけしかアテにできるものは存在しない。思考回路を急速回転させた。とりあえず改札を出てみようと決断。改札までの階段を降りると、これまで乗ってきた地下鉄S8のマークと矢印が至る所に張り紙で示されていた。”Replacement bus service”とあるからバスでの代行運転のようだ。
矢印を辿って進むと、なんだかそれらしいバス停に到達した。時刻表も待機客もいるからおそらく空港行きのバス乗り場で正解だろう。バスが来た。乗り合いバスのよう。にしても皆、荷物が軽装だ。このバスは果たして本当に空港まで私を運んでくれるのだろうか?
答えはYes!何の問題もなかった。地下鉄駅で乗客を拾ったり降ろしたりしながらの進行。地下鉄で空港に向かうよりも1時間近く多めにかかってしまったが、もともと離陸まで少々時間を持て余し気味だったのでちょうど良かった形。ミュンヘン空港はガラス張りの開放的なデザイン。JR金沢駅と雰囲気がどことなく似ているような感じ。
ロンドンまではコペンハーゲン空港での乗り継ぎを経て向かうため7時間もの長旅となる。昨日スーパーで買っておいたパンと鮭缶をつついて軽めに腹ごしらえ。ベンチに座ってもぐもぐタイム。周囲を見渡しながらの食事。ドイツはチャイナ系の移民よりも中東系の移民が多いようだ。空港内の案内標識もトルコ語やアラビア語で記されているのが興味深い。増えすぎた移民がもともとドイツに住んでいた人たちとの軋轢を生んでいるらしい。”グローバル化”と称して移民を受け入れすぎると酷いことになる。日本もイギリスやドイツのような惨状を招かなければ良いのだが…
保安検査場を飛行機出発の2時間前に通過。ガラガラな搭乗ゲート前でパソコンを開いてオフィスワーク。空港内の照明は少なめ。落ち着いた雰囲気が醸し出されている。おかげでかなり作業が捗った。旅行体験記をようやく前日分まで書き上げ、このたびの旅行にキャッチアップできた。
機材の到着が遅れたらしく、出発は予定時刻の20分後となるよう。大丈夫。コペンハーゲン空港でのトランジットタイムは3時間半もあるのだから。当初の出発予定時刻から乗客の搭乗が開始。今回は通路側席のため急いで乗り込まずとも構わなかった。私は今まで窓側座席が好みだった。15時間もの羽田→ヒースロー便でも窓側座席を指定し搭乗した。中央席の人間がたまにスペースを侵食してくるケースがある。この傾向は大柄の白人男性が隣に座った時に顕著にみられる。すると窓側座席の人間は、代わりのスペースを見つけようにも見つけられない。羽田→ヒースロー便では非常に窮屈な思いをして辛かった。以来、もしも席を指定できるときは必ず通路側の席を選ぶ。外の景色を見るより体の健康を優先させねばならない。
コペンハーゲン空港で乗り継ぎ
定刻の30分遅れで北欧デンマーク・コペンハーゲン空港に到着。空港の外に出る時間は無さそうだし、次の便の出発時間が迫るまで空港内で待機した。北欧にはセブンイレブンがある。昨年10月、スウェーデンの国際学会に参加した際もセブンイレブンがあった。セブンで軽く夕食を購入。見た目の怪しげなケバブ。それとバナナにココナッツオイル入りのチョコレート。全部で80DKKだった。しまった。デンマークの通貨の為替を確認せずに空港まで来ちゃった。とりあえずクレジットカードで支払い、後ほどJPY/DKKの相場を確認することに。
紫色のケバブの味は普通。紫の正体はお酢だった。お酢が中のキャベツやお肉にまで染みていて食べ物の味を分からなくさせていた。バナナは安定の美味しさだ。チョコも不味いわけがない。いや、少し甘すぎたかな。
最終目的地・ロンドンまで向かう。20:40と遅めの出発時刻のためか、乗客の数はかなり少なかった。搭乗率は3割程度。私の回りは前後左右誰も居なかった。外は雨。北欧の冬の雨は辛そうだ。そんな時でも空港運営に携わってくれる方には感謝せねばならない。
ロンドンの宿へ
定刻ちょうどにロンドン・ヒースロー空港に到着。本留学中三度目の訪問とあって、”帰ってきたなぁ”という地元に対して抱くような感情が湧き上がってきた。早速入国審査に向かう。イギリスの審査は超カンタン。日本人は機械化されたゲートにパスポートをかざすだけで入国できる。のはずが、今回に限って私のパスポートがゲートにかざしてもウンともスンとも言わぬ。三回チャレンジしても駄目だった。係員に促され、審査員による対面での審査を受けることに。
今日はどこから来たの?
コペンハーゲン空港から来ました
そうかそうか、お疲れさんやねぇ。
んで、イギリスには何をしに来たの?
小休暇っすね。ロンドンで3日滞在し、ロンドン市内をグルグル回って観光するつもりです
一人での観光?誰かと一緒に観光するの?
一人っすねぇ~
そうかい、分かった。入国していいよ!
おっちゃん、ありがとう!
”世界一厳しい”と聞いていた入国審査はあっけなく終了した。留学中に鍛えた英語力のおかげか、審査員との会話では特に何も困らなかった。
宿までは地下鉄で向かった。時間はかかるも、特急やバスを使うより安上がりだからだ。お金をケチったのが良くなかったのだろう。乗っていた地下鉄が途中駅で完全停止した。地下鉄内で電気的なトラブルが発生したらしい。運転再開がいつになるやら見通しが立たないとのこと。他の地下鉄はちゃんと動いている。私が空港から乗ってきたピカデリーラインだけがトラブルに見舞われているらしい。
「マジかよ…」と肩を落として列車から出る。ホームを徘徊して運転再開を待っていると、突然、列車の扉が閉じてどっかへ行ってしまった。どうやらトラブルは解消されたようだ。にしても、アナウンス一つなく私を置いていくなど酷い仕打ちじゃないか。まぁ、いい。宿に着けたらOKとしよう。一本あとの地下鉄に乗り、宿の最寄り駅で下車して事なきを得る。
留学最後の宿はフェニックスホテル。”絶望的な心境から不死鳥のように立ち直れますように”との願いを込めて予約。三泊四日、朝食込みで3.1万円程度。部屋の壁が分厚く、快適に過ごせるそうなのでココを選択した。部屋は東横インのシングルルームよりも少し狭めかな。三泊するだけだから十分だろう。バックパックを下ろし、寝間着に着替えてぐっすりと熟睡した。
コメント