寝台列車に乗車!
20時発・ソフィア行きの列車に乗る。予定到着時刻は9時ごろ。半日以上もの長旅が幕を開ける。日本に居てさえ未だ一度も乗った経験の無い寝台列車。定期運航するサンライズ瀬戸/出雲号にいつか乗ってみようとは思っていたものの、寝台列車を使う機会になかなか恵まれず乗れずじまいでいた。まさか海外で初めての寝台列車を経験するとは思わなかった。寝ながらゴトゴト揺られて進むって一体どんな感覚なのか?フェリーとどう違うのかな?色々気になって仕方がなくなってきた。
駅の待合室で待つ。外は低温。吐息が白くなるほど。暖房のきいた暖かい部屋の居心地が良くってたまらない。改札の開くギリギリまで部屋で体を温めて過ごそうかな。
出発30分前に改札開始。X線と金属探知機による手荷物と危険物の検査。私は問題なかったようだ。胸を撫で下ろしてホームへと向かう。後ろから駅員と激しく言い争う旅客者の声が。持ち込めない危険物かドラッグか何かが鞄に入っているのがバレたのだろうか…?
今回の寝台列車は気動車。電気ではなくガソリンで走るタイプ。うねりを上げて懸命に進む様子が何とも愛らしく思われるのが気動車。電車は決して人間ではないが、どこか人間味を感じてしまうのは私だけだろうか。JR北海道ではほとんど全ての特急が気動車タイプ。電気よりもガソリンで走らせる方が運用コストを低く抑えられるため。トルコ国鉄の経営事情や果たして如何?繁盛していればいいのだが… まぁ、1,300万人都市の大動脈を担っているうちは大丈夫だよな。
部屋の様子は?
車掌さんに私の部屋の場所を質問した。一部屋に2ベッドあるタイプの部屋は最後尾の車両に行けばあるよう。車両の中の通路は狭め。大人一人が歩けるほどの幅。その分、部屋の広さがあるのかな?指定された部屋の扉を開ける。
予想通り、部屋は思っていたより広かった。三畳ぐらいはあるだろうか。普段乗り慣れているフェリーの二等寝台より随分と広くて快適に過ごせそう。二人で使う分にもスペースには困らないだろう。肘置きが二人で合計4個あるのが地味に嬉しいポイント。
部屋には洗面台がある。上には人数分のタオルがたたんで置いてあった。
服をかけるフックがあった。ハンドバッグとダウンジャケットを吊るす。
引き出し型のテーブル、およびキンキンに冷えた冷蔵庫を発見。冷蔵庫の中にはスナックと小さなジュースが入っていた。後でありがたく頂こう。
試しに椅子を倒してみた。あっという間にベッドの出来上がり。コンパクトながらも広めのベッド。横になるだけではみ出そうになるフェリーのベッドより幾らか広め。縦幅は少し小さかった。175cmの私が足を伸ばすと窓に足が付いて窮屈だ。
相部屋になったブルガリア人との会話
部屋の装備で遊んでいたら相部屋の方が入ってきた。今夜のお相手 (と書いたらイヤらしいが…笑)はブルガリア人のメイジー。30歳独身。職業は写真家。見た目はドストエフスキーそのまま。最初部屋に入ってきたとき、小声で「ドストだ…」と口を開けて驚かされた。
開口一番、『最近、自分の魂のレベルが上がった気がするんだよね~」と何やら話し始めた。互いの自己紹介を済ます前に突然スピリチュアルモードに突入なさった。(何だかヤバい人と相部屋になってしまったのかもしれない…) と気落ちしつつも相槌。どうやらまともなお方だった。SNSを断ち切ったおかげで自由な時間が増え、心が軽くなり気が楽になったようだ。「それならワシもや。あんなのさっさと止めてしまった方が幸せだよな^ ^」と意気投合。妙に気が合い、言葉を絶やさず2時間以上延々と喋り続けた。
美しさを追求する写真家にとって『魂』は軽んじられない武器らしい。魂が汚れてしまうと美しい写真を撮れなくなってしまうからだそう。我々研究者にとっても魂の汚れは利他の精神に影を落としかねない。未来社会の暮らしを良くするために研究に携わっているはずが、いつの間にか自らの私欲を満たすための道具になり果ててしまうから。写真家は写真の研究者。研究者は未知の現象やその仕組みを顕わにする写真家ともいえる。両者は実は同じなのである。打ち込む対象が異なるだけで行為の本質は一致しているのだ。
日付が変わる頃に明かりを消した。メイジーと相談し、私は下段の、彼は上段のベッドを使うことになった。
真夜中の越境&パスポートチェック
時刻は午前二時。トルコ側の国境駅で停車。車掌の「パスポートコントロール!!」という大きな声でガバッと目を覚ます。勢い余って上段のベッドに“ガツン”と頭をぶつけていたかった。パスポートとチケットを持って外に出る。駅の出入国管理事務所でパスポートに出国スタンプを押して貰わねばならぬ。寒い。霧が出ていて幻想的だ。駅名がアルファベットだからまだトルコ側。ブルガリアに入った瞬間、キリル文字のオンパレードで駅名を読むのですら叶わなくなる。
事務所の外で10分ほど待たされた。寒いわ。はよ中に入らせてくれ…
何も聞かれずスタンプを押して貰った。安心と信頼のジャパンブランドには感謝してもしきれない思いだ。張り紙曰く、ブルガリアからトルコに入るのと、トルコからブルガリアに出るのとでは出入国の仕方が異なるらしい。トルコから出る際にはスタンプを押してもらうだけで済むが、トルコに入ってくる際は全ての手荷物のX線検査が行われるよう。トルコはこういう所は結構厳重なんだよな。地下鉄に乗るだけでも金属探知機で検査されるぐらいだし。
トルコ側のパスポートコントロールは全員が終わるまでにのべ1.5時間ほど要した。全員が列車に乗ったのを確認して再びブルガリア方面へと進む。安心して再び睡眠モードへ。その1時間後、車掌の「パスポートコントロール!!」というけたたましい怒鳴り声で叩き起こされた。今度は車外へ出なくても良いよう。ベッドの中から管理官にパスポートを渡すだけで無事解決した。
パスポートを受け取り、寝るとどこかのタイミングで再度「パスポートコントロール!!」が聞こえた。今度は何をするつもりなのだろう?ベッドの中から管理官にパスポートを渡す。サラッと目視での点検が行われ、「はいよ」とパスポートを投げ渡された。ちゃんと全員が出入国手続きを行っているかを念のため確かめに来たのだろう。
ソフィアが近付いてくるにつれて
目的地が近付いてくるにつれ、少しずつ嫌な胸騒ぎがし始めた。“もしかしてソフィア、何もないんじゃないの…?”といった直観。国の首都へ近付いていっているにも関わらず、廃墟と草原ばかりだったのだ。発展の様子がどこにも見当たらず、(この国に行って大丈夫だろうか…?)と今更ながら不安になってきた。遠くにビル群や工場が見えてきた。メイジーに「あれがソフィア?」と聞くと『そうだよ』との返事。まぁ、流石に首都ぐらいは栄えているよな。筑波より何もないはずはない。何もない都市は筑波だけでもう十分である。一度は楽観的になったものの、ソフィア到着後、私の勘が正しかったとすぐに明らかになる。
結局、ソフィアには定刻から2時間遅れた11時ごろの到着となりました
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