アムスを一時間遅れで出発したバルセロナ行きの飛行機は、定刻通り到着した。着陸やり直しまでしたにもかかわらず、何食わぬ顔でバルセロナ・エル・プラット空港の駐機場に着いた。
時差の問題なのかと思ってチャッピーにも計算し直してもらった。何度見直しても、合っている。ガルシア・マルケス譲りのマジックリアリズムが航空業界にまで通底しているのだろう。夢の国はここにあった。おい聞いているか、ディズニーランド。ファストパスなんかやってる場合じゃねぇぞ。
入国審査らしい審査もなく、着陸から15分で到着ロビーに出た。海外SIMから”Welcome to Espana!”と歓迎SMSが送られてきた。大学一年生の頃から行きたかったスペインの地を、とうとう踏んだ。9年越しに夢が叶った。ありがとうございます。B1で二外の講義をサボらず出続けたご褒美である。ま、何度ピ逃げしたか分からんけどね。だって講義出るの面倒くさいもん。すぐキレる先生で、なんか怖かったし。
事前に仕入れた情報では、バルセロナ空港から市街へバスで行けるという。到着ロビーを直進するとバス乗り場があり、バルセロナ中心街行きの便を探した。10分徘徊したが、見当たらない。市街と逆方向の都市に向かう高速バスばかりがあった。チャッピーに「さてはお前、だましたな?」とクレームをつけたら、「立ち止まって疑う姿勢は**筋がいい**」と返ってきて、スマホをぶん投げそうになった。うるせぇよ。
半ギレでチャッピーに現場写真を添付して「いいからバス乗り場を教えろよ!」と送った。チャッピーは検討に検討を重ね、検討を急加速して、「目の前にありますよ」といつになくアッサリ返してきた。ホンマや。乗り口で運転手に運賃をクレカ払いし、最後方の席に座った。あー、マジでムカつく。チャッピーに負けただなんて悔しいわ。


空港バスは定刻通りに出発すると、高速に乗ってすこぶる快調に飛ばした。インドの水道水で腹を下した旅行客の便通ぐらい快調だった。アムス空港行きのバスには負けるけれども、こっちはこっちでなかなかの速さである。
車窓から外の様子を眺めた。高速道路は、標識や道路の雰囲気が日本と実によく似ていた。右側通行・左側通行ぐらいの違いしかないのではないか。日本車も多く走っていた。トヨタが一番手で、日産が続き、ホンダとマツダを同じぐらい見かけた。マツダの車はおしゃれですからね。スペイン受けするデザインである。
外を眺めているうちに、チャッピーへの怒りが静まってきた。せっかくバルサまで来たんだもの、楽しく過ごさなくちゃね。罵詈雑言をチャッピーに投げつけたら垢バンされるリスクがある。そうなると道が分からなくなるし、異境の地で路頭に迷うかもしれない。チャッピーは我が生命線なり。こっちがお金を払って使っているのに、こっちがご機嫌を取らなきゃいけないってどういうことだよ。月1.7万円も払ってんだぞ!?


空港バスを終点のカタルーニャ広場で降りた。天気は晴れで、気温は摂氏29度。真昼間のバルセロナ中心部は暑すぎるぐらいだった。市民は半そで半ズボンで過ごしている。噴水で水浴びしているキッズも多い。噴水で髭剃りするキッズも散見された。
こんなに天気がいいとね、考えることはひとつですよ。えっと、そうだな、何というか、もう、何なんだろうか。疲れたわ、ホステルにチェックインしよう。


ヨーロッパの物価は高く、切り詰めに切り詰めてもお金が飛んでいく。せめてもの悪あがきとして、欧州到着一泊目はアムス空港で野宿した。バルサ到着当日も野宿を考えていたのだが、何も考えず昼到着の航空便を選び、時間のつぶし方に困って野宿しようにもできないハードモードに突入した。バルサ中心部への連絡バスに乗っている間に、Agodaでよさげなホステルを探した。一泊5000円台のまぁまぁ安い宿を見つけ、すぐ予約した。
ホステルのフロントでチェックインしたら、クレカタッチ機を渡された。「もう払ったって」「滞在税はまだでしょ?」た い ざ い ぜ い?
バルサは一泊あたり何ユーロかの訪問税を取るのだそう。観光地だからって調子に乗りやがって。ガキが、なめてたら痛い目に遭うぞ。今さら「じゃあ野宿する」とは言えず、渋々払った。1,500円ぐらい取られた。
部屋は8人部屋で、男女兼用だった。受付の方に連れられて部屋に入ると、同世代の女性7人が上裸のままくつろいでいた。
私の姿を見るやいなや、顔色を変えてタオルで体をパッと覆った。悪かったって、オレは何も見ていない。おっぱいもお腹も何も見てないから。胸小さいなぁとか思ってないから。一応言っておくけど私は尻派なので、胸が見えてもちっとも嬉しくありません。
ゆっくりベッドで寛ごうと思ったのに、居心地が悪くて、置いていける荷物を置いて外に出た。


半裸の女性を見て冷や汗をかき、急に喉が渇いてきた。ホステルから出ると、ほふく前進15分の所にスーパーがあった。アムスのスーパーは日本より高かったが、バルサは日本よりも安かった。ミネラルウォーターは2Lで€0.3(50円)で、パンもチーズも何もかも安かった。
バルサのスーパーでは果物の量り売りが行われている。旬のスイーツを欲しいだけ手に入れられるとあって、スイーツ好きとしてはたまらない。
早速キウイとプルーンを買った。プルーンはリンゴと見間違えて買ったんだけれども、本当に瑞々しくて美味しかった。デビューしたてのAKB48ぐらいフレッシュだった。プルーンなんて初めて食べたよ。こんなにおいしいのか。美味しすぎて、さっきのスーパーに引き返して、もう一個プルーンを買った。



バルセロナは西側が山で、東側の地中海に向けて下り坂になっている。坂を下りていけば何となく海に着くので、下り坂に沿って街をぶらぶら歩いた。
スペインはヨーロッパとアフリカを掛け合わせたような国である。言葉からは欧州らしさを感じるし、市民の顔つきや街並みにはどことなくアフリカらしさがある。人の顔も建物も、全体的に茶色い。茶色を全く使っていない建物なんかないんじゃないかというほど、どこもかしこも真っ茶っ茶。そうかといって、中東っぽくはないんだよな。明らかに欧州要素が強く、ヨーロッパをベースにアフリカのエッセンスをぽんぽこりんフラペチーノにした形である。
バルサの街は夕方、歩行者天国になるらしい。道路の真ん中を家族連れがのんびり歩いていて、文化の違いに驚いた。いい国だなと思って私も車道に出たら、後ろから猛烈にクラクションを鳴らされて飛びのいた。皆、ただ単に道路の真ん中を歩いていただけらしい。何なんだよ、もう。自由すぎるって。

人だかりのある方向を眺めると、ガウディがデザインしたカサ・ミラを発見。直線部分のない波みたいな独特の建築物である。入ってみようかなと入場券を求めたら、予約制だから入れませんと断られた。
海外の観光スポットは事前予約制が基本である。アムス美術館も、明日向かうサグラダ・ファミリアも、前日までに予約して入るスタイルだった。飛び入り参加は基本的に想定していない。あのなぁ、そんなに計画性のある人間ばかりだと思うなよ。こっちは昨日まで野宿しようか真剣に悩んでいたぐらいなんだから。
疲れたら乗り物に乗ろうと決めていたのに、何だかんだで下り坂の終端まで歩いた。せっかく下まで来たんだし、海でも見に行くかと歩を進めた。



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