
真っ青な海を見て心が洗われ、清々しい気持ちでビーチを後にした。バルセロナはもうじき18時。すこしお腹がすいてきた。スペインはご飯の美味しさで名高く、海鮮系料理が有名である。特にパエリア(フライパンに米と海鮮を載せて焼いたもの)が美味しいらしく、初日はパエリアを食べようと決めた。
ビーチの前に広がる目抜き通りには、レストランが軒を連ねている。日本だったら色々な料理屋が並んでいるところだが、バルセロナの場合は全てスペイン料理屋が並んでいた。パエリアとタパスとピザを食べられる店ばかりで、店ごとの違いが分からない。
困り果てて、チャッピーに「どこに入ればいいんや」と尋ねた。そうしたら「好きな所を選んだらいいよ」と返ってきた。そりゃそうなんだろうけれどもさ、どこに入ればいいんだよ。当たりの店とか、ハズレの店とか、なんか無いの? 「全部おいしいから」と返ってきた。
レストラン街を右往左往し、どこに入るか検討を加速した。特に差別化要素もなかったので、顔を上げたとき目の前にあったお店へ入店した。

バルサのレストランは複数名での入店が想定されている。二名以上で使うテーブル席ばかりだった。そうかといって一人じゃ入りにくいわけでもなく、みんなウェルカムしてくれる懐の深さが感じられた。
屋外の席に案内され、渡されたメニューを熟読する。カタルーニャ語で書いてあってちょっとよく分からず、店員さんを呼び「どれが美味しいんだ」と尋ねた。「やっぱパエリアが美味いよ」「じゃあパエリアにするわ。どのパエリアがオススメ?」「コレ」と€35(6.500円)の最上位グレードを指さしてきた。
6,500円って、日本だったら食費一週間分だぞ。一日二食×7=14食ぶんのメシ代が一食で飛ぶのか。相当美味しくなきゃ許さないからな。「分かった、じゃあそれをくれ」「グラシアス!」

ついでにオレンジジュースも頼んだ。猫舌の私が熱々パエリアを食べきるため、舌の冷却材としてオーダーした。
レギュラーサイズを頼んだところ、とんでもない量が出てきた。握りこぶしが3個は入るほどの巨大グラスに、なみなみとジュースが注がれてきた。軽く1Lは超えていた。飲んでも飲んでもちっとも減らない。どころか、氷が解けて水位が回復し、どうすんねんコレと頭を抱えた。
パエリアが主役なのか、オレンジジュースが主役なのか分からなくなってきた。まぁ、飲み物は最悪、残せばいいし、パエリアを楽しめたらソレでいいや。


レストランでは、DAZNでプレミアリーグの中継が映っていた。白ユニフォームのトッテナムが、どこかよく分からんチームと戦っていた。
スペインの次に訪れるイギリスでは、最終日にトッテナムのスタジアムでプレミアリーグを観戦する。旅程的に都合が合いそうな試合のうち、最もスタジアムへのアクセスが良いトッテナムを選んだ。ぱっと見、トッテナムが押しに押していて、現地観戦までに主要な選手を覚えておこうと画面を凝視した。レストランの電波がすこぶる悪く、中継がしょっちゅう途切れた。パラパラ漫画のパラパラ抜きみたいに断片的な情報しか得られなかった。
30分は待っただろうか、厨房の奥からウェイターさんが大皿とスプーンを持ってきた。「もう少しで出来上がるからね」「楽しみにしているわ」あ~、お腹空いた。

「お待ちどうさま!」と出されたのは、直径40cmのアツアツ巨大フライパン。中には、トマトソースで味付けされたお米と海鮮がギッシリ入っていた。ジュースもデカけりゃパエリアもデカい。セブンの弁当みたいにかさ上げしているわけでもなく、上から下まで具が詰め込まれていて、相当なボリュームである。
まずはお米をすくって食べた。熱すぎて熱すぎて西野カナみたいに震えた。こんなに熱いだなんて聞いてないって、トリセツ作っておいてくれなきゃ困るよ。オレンジジュースで口の中を冷やし、再度お米を食べた。美味い! なんじゃこりゃ、麻薬でも入ってんじゃねぇかというほどヨダレが出てくる。トマトソースと海鮮の出汁が米粒の奥まで染みていて、噛めば噛むほど美味しいエキスが出てきた。呑み込むのが、惜しい。
続いてムール貝をいただいた。普段は見た目が嫌で貝類全般を遠慮しているが、パエリアに乗っかった貝はスッキリ食べられた。正直、貝の味はほとんどしなかった。トマトソースの味が強すぎて。お米と一緒に貝を食べ、口の中で幸せのハッピーセットを堪能した。
パエリアの中にはエビが三匹とロブスターが一匹入っていた。バルセロナのエビは、ちょっと次元が違った。身が濃厚で実にプリプリしている。出荷したてのスーパーボール以上に弾力があって、嚙み切ると中から大量のエビエキスがにじみ出てきた。ありがとうございます。
それじゃあロブスターはさぞかしすごいだろう、なんせエビより倍ぐらい大きいし。嬉々としてロブスターにありついたが、こっちは期待が空回り。殻が分厚くて可食部が僅かで、食べられる部分がエビより少なかった。そんなことあるかよと解体調査したが、可食部は本当に少しだった。残念。

勘定を済ませて店を出たら、今にも日が沈もうとしていた。長い一日が終わった。パンパンになったお腹をさすりながら、ビーチの蒼とパエリアの赤を代わる代わる思い出してニンマリ笑った。



コメント