【飛び級】博士課程を早期修了するのが難しい理由

北大と国研で研究していた化学系のかめです。博士課程を一年短縮で早期修了し、今はメーカーの開発部門で会社員をやっています。

早期修了って、響きはカッコいいですよね。ただ、目指してみると分かるんですが、カッコよさに見合うだけの困難が用意されています。何をどれだけやれば修了できるのかが分からないし、参考にできる先輩も見当たらないし、進路を考える時間まで削られる。

私自身、早期修了を決意してから修了するまで、ずっと手探りで走り続けていました。だからこそ、当時の経験をもとに早期修了の何が難しいのかを整理しておきたいと思い、この記事を書いています。

  • 博士(修士)課程の早期修了を目指している方
  • 早期修了に何となく興味がある方

敵の正体が分かれば、対策の立てようもあるでしょう。

目次

早期修了を認める規定の記載が曖昧

まず何が厄介かって、どうすれば早期修了できるのか、どこにも書いていないんですよね

私の専攻では、博士課程を修了してPh.D.を得る条件のひとつに、博士課程在籍中に筆頭英誌二報、共著を含めて三報以上の発表が求められています。ここまではいい。論文を出せばいいんだな、よし頑張ろう、とやる気が湧いてくるわけです。

では、早期修了の条件はどうか。便覧を引っ張り出して読んでみると、早期修了しても良いと教授会で認められる必要があると書いてあるだけ。何ですか、この解像度の低さは。コンサルでそんな曖昧な文章を出したら、朝まで詰められますよ。

認められるには何をすればいいのか、肝心のところが抜けています。論文は何報書いたらOKなのか。学会発表は何回必要なのか。受賞の有無は関係するのか。賄賂は幾ら積めばいいのか。疑問が次から次へと出てきて、疑問が解決しません。

一度、早期修了の条件について、指導教員に聞いてみたことがあります。先生自身もイマイチ把握していなかったらしく、「いっぱい論文を書くしかないよねぇ……」とモゴモゴお茶を濁されて終わりました。まぁ、そうですよね、だって決まっていないんですから。

教授会で頑張りを認めてもらうには、規定本数以上の論文を規定期間よりも早く出すくらいしか道がなさそうです。Nature本誌に載るような研究ができれば一発で通るんでしょうけど、私にそんな芸当は無理なので、コツコツ本数を稼ぐ方針でいきました。

前例が少なく、経験者の声を聞きにくい

ネットで「博士課程 早期修了」と検索しても、経験者の体験談はほとんど見つかりません。たまにヒットしても特殊な事例ばかりで、参考にしようにもしようがない。

何が大変だったのか、どう乗り越えたのか、修了後のキャリアパスはどう決めたのか。通常年限で修了した方の体験記は山ほど出てくるのに、早期修了はレアケースすぎて情報が枯渇しています

私自身が博士進学を決めたときの状況とよく似ています。私がM1のころ、D進を考えていたとき、所属する研究室で過去十年間、博士課程修了者がゼロでした。D進して大丈夫なのかと不安で仕方なかったのに、進路の悩みを相談できる人もいませんでした。

早期修了も同じ構図で、暗中模索のまま走るしかなかった。早期修了するためのアドバイスが欲しかったのに、周りに誰も飛び級経験者がいないから、自分で自分の道を切り拓くのみでした。

私の指導教員も博士課程を三年かけて修了しています。私の知る限り、身の回りにいらっしゃった大学教員も、全員が三年で修了されていました。きっと中には二年で出られるほどの実績を上げてきた方もいるでしょうが、それでも三年かけている。

近い年代のD進者はもちろん、教員レベルまで年齢層を上げても、早期修了の経験者がいない。前例がない、あるいは少ない組織の中で早期修了を目指すのは、地図なしで山に登るようなものです。本当に大変でした。

早期修了後の進路について悩める時間がごく僅か

博士課程を一年短縮して修了すると、進路を考える時間も一年短くなります。企業かポスドクか、あるいは起業か。決断するまでの猶予が、一年少なくなってしまうんです。

私はそれまで、進路の決定を先送りにしてきました。ボンヤリと「民間企業かなぁ…」くらいの温度感だったものの、どの業種でどんな仕事をしたいかなんて、詰めて考えたことがなかったんですよね。

早期修了を志す以上、腹をくくらなければならない。将来を左右する選択を、研究と並行しながら急いで決めなくちゃいけない。データ解析の傍ら、就活サイトを覗いて情報収集していました。

もう少し大学院で研究を続けてから決めたい気持ちもありました。自分の手で育てた研究がどこへ向かうのか見届けたかったし、後輩と一緒に研究をしたこともなかったから、面倒を見た後輩が育っていく過程を見たかった。

でも、民間企業に入って、社会に対して目に見えるインパクトを出したい気持ちも強かった。基礎研究で学術のタネを蒔くのは尊いけれど、自分には物足りない。あと、純粋にもっとお金を稼ぎたい。ポスドクになったら今みたいな薄給が続くかもしれない。そんなの、おぞましい。

あーだこーだと悩んでいるうちに、進路を決める時期がやって来ました。とりあえず専攻の推薦枠を使えるようにフォームは出しておいたものの、来春に就職するかどうかは決めかねたまま。ポスドクはイヤだと散々言っているくせに、気づいたらポスドクになっている可能性すらありました。

論文を書く時間と進路を考える時間は、同じ24時間から捻出しなければなりません。早期修了を目指すと論文執筆に注ぐ時間が増える分、進路に充てられる時間は削られてしまいます。隙間時間をかき集めて、走りながら考えるしかないのが現実でした。

早期修了を振り返って

規定が曖昧で何をすればいいか分からない。前例がないから誰にも聞けない。進路を考える余裕もない。振り返ってみると、分からないまま走り続けるのが早期修了の正体だったように思います。

正解を確認してから動きたい人には、かなりしんどい道です。私も走っている最中は不安だらけで、これで本当に修了できるのか毎日疑っていました。論文を書いている間も、学会発表の準備をしている間も、頭の片隅にはずっと「足りなかったらどうしよう」がこびりついていたんですよね。

それでも、やれることを一つずつ積み上げていったら修了できました。もう一回やれと言われたら、全速力で逃げますけどね。

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