大宮献血

献血と出会ったのは、高一の文化祭でクラスを代表して献血委員をやらされたときだった。担任対クラスメート全員でじゃんけんし、圧倒的かつ無慈悲で完全無欠な鹿島神宮譲りの鬼強勝負運を発揮して負け残った。おめでとうございます。ひとりでやらされるのも悔しいので、隣に座っていた知人Fも巻き添えにして差し上げた。
委員をやるまでは良くないけれどもまだ良かったが、文化祭訪問客に散々「献血お願いします!」と呼び掛けておいて、当の本人らは献血できなかった。私は年齢制限でリジェクトされ、Fは体重下限値に届かなかったのだ。それがあまりに悔しくて、北大へ進学してから定期的に献血へ行くようになった。
今年の4月に献血70回目を迎え、日本赤十字社から銀色有功章を贈呈された。もうあと30回で金色有功章が贈られる。ついでによく頑張ったなこんちく賞が追加贈呈されるとか、されないとか、されないとか言われている。やはりね、二位じゃダメなんですよ。一位を目指すしかないんです。赤本に次席合格者の点数が記されないのと同じく、記録に残したければ、一番眩しい色を目指す必要がある。
献血は社会奉仕活動である。自らの血を医療に捧げて、地域の安寧を下支えする。献血はボランティア活動であり、金品を目的としない営みだからこそ、きんぴらごぼうのごとき高潔さが保たれている。小さい頃はきんぴらごぼうの美味しさが分からなかったものの、アラサーになって美味さが分かった。歳を重ねるって、案外楽しいかもしれない。
我々献血者は、わざわざ献血ルームまで足を運び、鼻くそぐらいぶっとい針を腕に突き刺され、その場で何十分も拘束される。献血イスに座るたび、私は何をやっているのか、果たしてどこまでMなのかと思う。ま、世の役に立てば何でもいいんですけどね。余裕のある人が困っている人を助けることで、社会は今日も円滑に回っている。
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さて、広島からこっちの広島に引っ越してから、取り巻く環境が大きく変わった。通勤は電車からほふく前進になり、住居も、オーシャンフロントの1ルームタワマンから、竹林フロントの1LDKアパートになった。広島時代が賑やか生活だったなら、こっちの広島は、ポリポリぷくぷくぽんぽこりんフラペチーノ・ファンタスティックワンダフルライフである。
こっちの広島に定住するとなったら、行きつけの献血ルームも変えねばならない。献血のたび広島に帰るのは流石に面倒くさく、臭い臭いも好きのうちといえど、さすがに臭すぎて論外である。
広島時代は、原爆ドームからほふく10分の所にある献血ルームに通っていた。毎月行っていたものだから、受付の方に顔を覚えられ、献血前の血流増進運動として四股を踏んでも見逃していただけた。こっちの広島でも献血をするならば、また行きつけの献血ルームを見つけねばならない。いつ四股を踏んでも許してもらえるぐらい強固な信頼関係を目指したい。まずは定期的に献血に訪れ、誠実性と清潔感をアピールすることである。
問題は、どこのルームに行くかである。広島市には献血ルームが2か所しかないから行きつけをすぐ決められたが、こっちの広島には100以上、さすがに盛りすぎたが20候補はある。人には人の乳酸菌だし、どの献血ルームも一長一短である。それなら全部見て回って決めるか。いや~、現実的に難しいな。腕が何本あっても足りませんわ。
こっちの広島に引っ越した次の日に、日本橋の丸善で地球儀を買った。困ったときはメタ思考である。現象を外側から俯瞰したとき、今まで見えなかったものが見えてくる可能性がある。
地球儀を反時計回りにぶんぶん回転させ、最高速度まで加速した。コリオリ力が猛烈な偏西風を呼び起こし、地軸が小刻みにガタガタ揺れだした。いいぞいいぞ、回れ、もっと回れ!
遠心力の影響により、北海道は成層圏の彼方まで吹き飛び、九州は南極点に衝突した。これ以上回せば我が国が滅びる。小松左京以来二度目の日本沈没である。あわてて地球儀を止め、辛うじてポールシフトを回避した。その瞬間、心の中のリトルシンジローが再び呟いた。「困ったら、近場に行けばいいんですよね」そうだよな、近い所から順に巡っていけばいいんだ。
目元まで地球儀を近づけ、こっちの広島近辺を凝視した。家から一番近そうなのは池袋だった。池袋は、ちょっと嫌だなぁ。人が多すぎてしんどいんだわ。池袋に行くぐらいなら、ちょっと遠出して広島に帰った方がいい。池袋の次は新宿だが、新宿は新宿で混雑している。ミナモアがオープンした当初ぐらいのハイレベルな混雑をオールウェイズ展開している。
人が少なく、そこそこ近い場所はないかと探し、大宮のルームへ行くことに決めた。
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献血ルームでは、血流増進のため、ドリンクサーバーにてホットドリンクを飲むよう促される。私は大変誠実なので、いつも97℃の激熱ココアをカップ二杯飲んでいる。
我が舌は熱さに大変弱く、灼熱流体に耐えられず大火傷する。ネコより猫舌な自信がある。ネコなんかに負けてたまるかと思っている。実際、献血へ行くたびに火傷する。ときどき喉まで痛めて帰ってくる。筋肉のごとき超回復と耐熱性強化を期待して10年目になるが、熱に対する強さを獲得する気配は垣間見えない。
大宮の献血ルームは素晴らしい。なんと、ぬるめのココアがあった。97℃の激熱ココアの隣に、50℃のほかほかココアがあったのだ。わざわざ私なんかのために… 本当にありがとうございます。これで、献血ルームで舌を痛めることも無くなるのだ。
ほかほかココアをグイッと飲み、ウエッと中身を全部戻した。激熱じゃないか。ボタン押し間違えたじゃねぇか。油断して一気に飲んで、あやうく喉から猫が出るところだった。ほんと、大宮はロクでもない所だな。やさしさも慈悲の欠片もない、とんでもない街である。ネコパンチを100連打するぞ。おい、ネコチャン、やってやれ。
火傷のせいで頭がボーっとして、かえって血の巡りが悪くなった。普段なら50分程度で終わる成分献血に75分も要した。冷え性を疑われ、服の上から何枚も毛布をかけられ、ボーッとして採血速度が余計遅くなった。通勤時間帯の上野東京ライン高崎線直通・普通 前橋行きぐらい遅れた。踏み切りの信号確認は、もう終わりましたか。
献血を終え、ご褒美にアッッッツアツの缶コーヒーをいただいた。昨日入籍した新婚カップルぐらい熱くて、もうイライラして見ていられなくてリュックに放り込んだ。家に帰ってリュックごと冷凍庫にぶち込み、3時間キンキンに冷やしてから飲んだ。そうしたらカフェインが効きすぎて、脳が超覚醒して眠れなくなった。勘弁してくれよ。
大宮の献血ルームはナシか。じゃあ次はどこだ。広島に帰ってやるしかないのか。
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