広島生活春夏秋冬vol.7 一年目・9月前編|五か月ぶりに札幌へ。北海道マラソン未出走も、献血と空港アイスでわちゅごな

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北海道へ

弊社はスーパー・ハイパー・ウルトラ・超・どんだけ・エクセレントカンパニー(SHUCDEC)。新入社員はもちろん、猫でもワンコでも、好きなタイミングで有給を取れる。

8月29日、金曜にUQを取った。金曜が休みということは、金曜が休みということである。弊社は完全週休二日制。金曜の翌日も翌々日も休み。水と油を混ぜればスパゲッティーになるように、金曜と土日を混ぜれば三連休となる。UQひとつで三日も美味しい。これこそがUQの正しい使い方。

大阪では、串カツの二度漬けはご法度とされている。SHUCDECの弊社は、金曜UQの二度漬けをいくらでも許可してくれる。7月初旬も金曜UQとした。愛知県の佐久島まで伺い、潮騒に身をゆだね、息をリフレッシュした。さて、今回はどこへ行こうかしら。ちょっとジャカルタまで行ってみようか。

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本来は北海道マラソン(道マラ)参戦のためのUQだった。学生時代に八年過ごした札幌の街を「訪問者」として走るために。北大の学生だったとき、道マラに出場したことが無かった。暑いなか走るのは暑い。無理して走っても熱中症になるだろうし、冬ほどの好タイムは見込めない。道マラに出る意義をどうしても感じられなかったのだ。

会社員になって気付いた。別に本気で走らなくてもいいじゃないか。フルマラソンだからといって、ジョギングで楽しんではいけない決まりはない。道マラをジョギングで完走する。札幌の街を車道から眺めて、「やっぱり良い街だったなぁ」と悦に入ればいい。

残念ながら、7月中旬、右足首のじん帯を損傷した。原因は”練習のやりすぎ”である。

道マラに向けて、毎日20km走っていた。週末は一度に40km弱の走り込み。学生時代の私なら無理なくこなせていた。会社員になり、広島に移り住んで、気温の高さに身体が弱っていった。いつしか足首を支える筋肉まで蝕まれていた。知らず知らずのうちに靭帯へダメージが蓄積されていき、とうとう練習中に足首を痛めてしまった。一度に40km走っても平気だった足が、今ではわずか10kmで激痛が走る。

靭帯が痛くても道マラには出られる。ただ、道マラが人生最後のレースになる可能性がある。おまけに、靭帯が切れたら、二足歩行できなくなるかもしれない。そこまでして道マラに懸ける思いはあるか。博士課程の学位審査会とは違う。マラソンレースは、来年もまた行われる。それに、道マラ以外にもレースはある。今はじっくりと足を治そう。涼しくなってから練習を重ね、また本格的に記録を狙いに行けばいい。

そんなわけで、道マラ出場を断念した。とはいえ、飛行機もホテルも予約済みである。今からキャンセルしたとして、払ったお金は三割も戻ってこない。であれば、札幌へ行った方がよくはないか。研究室訪問や北海道グルメを堪能する傷心旅行にしよう。

広島駅からリムジンバスで広島空港へ。JAL3403便で新千歳へ。

北海道へ行くのは五か月前にぶり。修了式で学位記を受け取り、ぽんぽこりんの学生生活を締めくくって以来になるか。夢の中では何度も北海道を訪れている。予備審査会で激詰めされて「博士課程退学」を宣告される悪夢を永遠にヘビーローテーションしてきた。現実世界で北海道へ行くのは久々だ。果たして札幌までたどり着けるだろうか。信号を守れるだろうか。どの道をどう進めば目的地に至るか、まだ身体は覚えてくれているかな。

研究室訪問

広島空港は30℃、新千歳空港は20℃。千歳のボーディングブリッジに歩みを進めた途端、寒さで鳥肌が立ち、翼が生えてオオワシになった。涼しいのは結構である。快適すぎて、コケコッコーか、コケキョッ、キョキョッキョーである。

涼しさにも”段取り”というものがある。SHUCDECで教わったぞ。何事にもネマワシが大事だと。30℃ときたら、次は25℃あたりが相場だろう。いきなり20℃にされたら風邪をひきかねない。寒すぎてアームウォーマーをつけた。一応、ちゃんとズボンを履いてきておいてよかった。ズボンなしでは寒すぎたかもしれない。

快速エアポートで札幌を目指そうとした。JR新千歳空港駅にて、倒木の影響で大幅遅延しているとのアナウンス。千歳線は上野幌-北広島間で山の中を走る。線路の脇には、樹齢何百年なんですかコレと言いたくなるほど立派な木が林立している。サルも木から落ちる。木もあっけなく倒れる。我々人間も改めて気を引き締め、次にどちらの足を出すかを入念に検討加速していかねばならない。

遅れてやってきた快速エアポートに乗り込む。私の後ろから乗客がなだれ込んでくる。北海道にやってきた訪日外国人。エスコンフィールドへ観戦に行く野球ファン。道マラへ出場するランナー。そして、広島からやってきた、SHUCDEC代表の私。四属性の人間が車内で渾然一体となる。身動きを取れぬほどの乗車率。ここは潜水艦か何かなのか。こんなに混むなら荷棚にでも乗った方がいい。いっそ、天井にくくりつけてもらいたい。

幸い、電車が動き出して以降、遅延も倒木もなくスムーズに進んだ。北広島で乗客が大勢降り、ようやくリュックサックから出ることができた。

札幌は、我が青春の街。街の随所に思い出が詰まっている。

北大には、ランニングと足音の残響が。北十八条のパフェには、むかし付き合っていた彼女からビンタされた記憶が。アパートには、ヒマでヒマで仕方が無くてゴロゴロを極めたときの思い出が。なんせ、ここで八年も過ごしたのだ。二十代の八年間は「永遠」と言ってもいい。広島が身体の故郷であるなら、札幌は魂のふるさとだろうか。札幌に代わる場所は他にはない。

札幌が、好きだ。世界で一番好きな街に帰ってきた。

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札幌駅北口から我が母校へ。まずは研究室に顔を出す。

そういえば、今から六年前、父が道マラに出場した。残念ながら途中で時間制限に引っ掛かり、バスに回収された。札幌訪問を通じて、父は終始、北大がどこにあるか分からなかったらしい。札幌駅の北口には、北大とセイコーマートしかない。札幌市北区の何分の一かは北大札幌キャンパスである。あんなにデカいものが見当たらなかったそう。札幌ではなく稚内にでもへ行ったのではないか。

さて、正門から北大へ侵入した。OBとして眺めた北大は、自然豊かで清々しい緑地だった。今までずっと、こんなに気持ちの良い所で過ごしてきたのか。キャンパス内を歩いていると、胸が軽くなっていく。中央図書館前の芝生に横たわった。目をつむると、サクシュコトニ川のせせらぎが耳を洗い、旅の疲れをまどろみが癒す。

広島の自宅や弊社の周りには、これほどまでに豊かなフレッシュグリーンが無い。沈黙を守る瀬戸内の海と、手入れの行き届いていないボーボーの山しかない。北大ほど上品な自然が、広島には存在しない。キャンパスのあまりの美しさに唇を噛む。なぜ、北大を一年短縮修了したのか。我が学生時代に、キャンパスの美しさを堪能できる ひとかけら の余裕があれば。一年前の自分には焦りしかなかった。早くここを出ることしか考えていなかった。

メインストリートを北上し、大野池へ。世界最凶の毒草・バイカルハナウドを探すも、どこにも見当たらなかった。私がバイカルを見かけた記憶のある場所は、草が根こそぎ刈り取られていた。

寄り道もほどほどに、工学部棟へ。研究室のボスに、手土産のビスケットを渡し、ご挨拶。学生時代はあまり話さなかった。研究のことでは、ほとんどと言って良いほど接点がなかった。しかし、ボスは私のことをよく見ていてくれたらしい。「めちゃくちゃ頑張っていて、すごいなぁと思っていたよ」と、お褒めの言葉シャワーを一時間も浴びせられた。

指導教員にもご挨拶を。一週間前に送ったメールでは在室とのことだった。先生はいなかった。急遽出張が入ったらしい。北海道で一番会いたかった人だったのに。「学生時代はお世話になりました」と、弊社で錬磨された肩もみ匠マッサージで十歳若返らせて差し上げたかった。

ラボの学生とも歓談した。みな、相変わらず元気だった。近々、国際学会や海外留学へ旅立つ人も居るらしい。どうか、後輩全員の時間が実りあるものになってほしい。私のようにハナクソフォードを引き当てないようにしていただきたい。当地で素晴らしい思い出を作れるよう、心から祈っている。

こうりん亭

夜は、北十六条の海鮮丼屋さんで学生らと飯を食った。前はマグロ丼、後ろは壁、左右をB4に挟まれ、四面楚歌で博士課程について尋問された。

先輩としてちゃんと言っておかねばなるまい。博士課程に進むということは、博士課程に進むということである

博士課程には甘えも馴れ合いもない。当然ながら ぽにょ もいない。トンカツをいつでも食べられる…… ような経済的余裕すらない。苦しい中でも活路を切り拓けるか。嫌な出来事を咀嚼し、受け流せるか。恥も外聞もかなぐり捨てて、学位記を勢いよくヘッドスライディングでホームスチールできるか。

右側のB4は「俺には厳しいかもしれません」と言っていた。それが普通だ。まともな神経の持ち主で安心したよ。

左側のB4は逆に「博士課程、行きてえっす!」と目をギラギラ輝かせていた。いったい指導教員からどのような英才教育を授けられたのか。ねぇ、君、まだB4でしょ? B4でD進希望って、相当イカれているよ。まぁね、こういうヤツがD進に向いているんだけどね。「行きたいなら行け」と背中を押しておいた。若者の未来に幸あらんことを。

大通のホテルまで歩いて向かう。公園前の温度計は21℃を指していた。道マラの日曜も涼しいらしい。走りたかったなぁ。ケガさえしなければ、と悔やんだ。

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