週刊オックスフォード§8 安全講習は終わりの始まり。ネガティブな心境と状況の極地に至って下した決断とは?

目次
  • 【50日目・リア幸50】11/20 (月):安全講習は終わりの始まり
  • 【51日目・リア幸20】11/21 (火):実験サンプルは何処…
  • 【52日目・リア幸22】11/22 (水):マジックツリーハウスの洋書を読んだらイライラして主人公に罵声を浴びせ始めた
  • 【53日目・リア幸30】11/23 (木):悟りの境地。残りの期間は洋書の多読だ…
  • 【54日目・リア幸50】11/24 (金):指導教員のオンライン診療。「帰ってきてもいいんだよ」と
  • 【55日目・リア幸60】11/25 (土):昨日起こったラボでのボヤ騒ぎについて
  • 【56日目・リア幸70】11/26 (日):オックスフォード留学を12/29で切り上げることに

【55日目・リア幸60】11/25 (土):昨日起こったラボでのボヤ騒ぎについて

昨日金曜、ラボの居室で炎上騒ぎが発生した。誰かのゼミが燃えたわけじゃない。そもそも訪問先の研究室に”ゼミ”と呼べるものは存在しないから。部屋に煙が充満したのだ。モクモクと灰色の煙が立ち込め、火災を知らせる報知器の音がオックスフォードの蒼天へ高らかに鳴り響いた。私が通っている研究所ではどこかで毎日報知器が叫んでいる。誤作動のケースが大半なのだが、稀にホンマもんの火災が起きている。火災の現場に出くわしたのは生まれて初めての経験だったのではないか?いや~、良い経験をさせていただいた。わざわざ100万円以上払ってイギリスに留学した甲斐があったというものだ (嫌味)。

何が起こったか説明しよう。

午前11時半、誰も居ない研究室の居部屋で私は昼食を摂り始めた。TESCOで買った食パンにTESCOのハムとチーズを挟んで食べる。味付けにはトマトケチャップ、および日本から持ってきた塩を使用。たまにコショウをかけるときもあるが、今日は家へ忘れてきてしまったためにコショウをかけられなかった。ちなみにバターはもう付けていない。先週のバター戦争で惨敗を喫して以来、バターを見るのでさえも嫌になったからだ。むしゃむしゃパンを頬張っていく。ひと口ひと口何度も咀嚼し満腹中枢を刺激する作戦。ひと口でおよそ30回は噛む。水を飲むのでさえ20回は噛む。噛む勢いが強すぎ偶に舌を噛んでしまうケースがある。痛い。あまりに痛くて泣きながらご飯を平らげるまでが恒例行事。

今日も舌を噛んでしまった。「痛っ!」と口を抑えていると、「Hello~!!」とチャイナ人のポスドクが来た。来るや否や、彼女はレンジへ家から持ってきた弁当を入れた。出力MAXにして温めスタート。何やら怪しげな鼻歌を歌いながら自分の机の前の椅子に座った。

一体何の歌なんだ?と聞いてみたい衝動に駆られた。英語で質問を繰り出そうとした瞬間、例の火災報知器が鳴り始めたのだ。鳴るのはよくある事態である。ただ、あまりにうるさいと声がかき消されてしまう。報知器が鳴り終わるまで待とうと思った。ポスドクの方もそのつもりのようだ。

30秒経っても鳴りやまない。誤作動だったら10秒程度でぴたりと鳴り止むはずなのに。何かが変だ。いったいどうした?遂に報知器までぶっ壊れたのか?分かるよ、オックスフォードにずっと居たら頭がおかしくなってしまうものね。私はたった2か月間で”もう帰りたい”と嘆くようになった。対して、報知器の君は固定されちゃっているから幾ら嘆いても外にすら出してもらえないんだものね…

首を傾げて座っていると、何やら部屋が焦げ臭くなってきた。えっ、もしかしてウチの部屋が火元なのか?そう思った途端、ポスドクの方が血相を変えてダッシュでレンジの元へ駆け出した。どうやらレンジが火元らしいぞ。見ると、レンジが周囲を煙に包まれ、まるで雲海に浮かぶ竹田城址を想起させる様相を呈していた。チラチラと見えるオレンジ色の光がもしかしたら炎だったのかもしれない。いや、岡本太郎の情熱の炎だろうか?不覚にも私、笑ってしまった。「マジで何しよるん笑!」とシャツを噛みしめ笑い声を出さぬよう必死に笑いを堪えた。ストレスで心が変になっているとき、絶対に笑ってはいけない場面でふと笑いが飛び出してくるものである。それだけ私は袋小路へ限界スレスレまで追い込まれていたということ。

ポスドクの方が悲鳴交じりで「窓を開けて!」と叫び出した。「いや、自分で開けろや笑」と日本語で言ったものの、”さすがにちょっと可哀そうかな”と思い直して開けるのを手伝ってあげた。こういう時に恩を売っておけば何かの拍子に役立つかもしれない。日中戦争が勃発したとき彼女が私の味方になるだろう。彼女はすごく落ち込んでいた。そりゃそうだ、だって火事を起こしちゃったんだもの。……よくよく観察したら違った。加熱物が煙に晒され尋常じゃないほど不味くなったからだそう。火事より食べ物の心配が先とはさすが、チャイナ人は根性が違う!南シナ海を全て「自分のモノだ」と言い張れる逞しさを垣間見られた気がする。

鎮火してから数分後、研究所の安全管理係が来た。「一体何が起こったんだ?お前、説明しろ!」と私が怒鳴られてしまった。…怒る相手を間違っているんじゃないか?とんだとばっちりを受けて迷惑だ。チャイナ人は私と安全係を口を開けボーっと観察している。おいおい、アンタが説明しろよ。アンタが起こした火事なんだからさ!30秒ほど怒鳴られ続け、模範的北大生の私もさすがに我慢の限界に達した。「オレは犯人じゃない!火事を起こしたのは彼女だ!」とポスドクを指して係に怒鳴り返す。「そうなんか?!マジですまん」と驚いたような顔で深謝された。日本人だからって何でも言っていいわけじゃないぞ、言い返さないとでも思ったのかバカ野郎。安全係の怒りの矛先が私からポスドクへと移った。彼女が申し訳なさそうに状況を供述しているのをニンマリとした顔で眺めた…

ボヤ騒ぎのあらましはこのような形になる。もしも私がボヤ騒ぎを起こしていたら笑えないほど大変な事態に陥っていた。というのも、まだ安全講習を何ら受けられていないからである。安全講習の前に事故れば大学からつまみ出されてしまう。まぁ、あと1~2か月ほどでオックスフォードから居なくなるので追い出されようが私は構わない。しかし今後、北大生がオックスフォードへ留学したいと思った際、過去に私が犯した悪事のせいで留学できなくなったら可哀そうじゃないか。あぁ、良かった。私が火事を起こさずに済んで。コレも日頃の善行から培われた武士道の賜物じゃないかと思っている。それはさておき、冗談抜きで事故には細心の注意を払って行動せねばならない。

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