• 【71日目・リア幸-70】12/11 (月)：どうしても放浪に行きたい！
• 【72日目・リア幸-40】12/12 (火)：出目金、出目金、出目金、出目金…
• 【73日目・リア幸0】12/13 (水)：アンタが触るモノ全部壊れていくやん笑
• 【74日目・リア幸20】12/14 (木)：寝たふり死んだふり聞こえないふり大々々々々作戦
• 【75日目・リア幸20】12/15 (金)：続・寝たふり死んだふり聞こえないふり大々々々々作戦
• 【76日目・リア幸40】12/16 (土)：オックスフォード・ユナイテッド
• 【77日目・リア幸50】12/17 (日)：オックスフォードのラボで迎える最後の日曜

【72日目・リア幸-40】12/12 (火)：出目金、出目金、出目金、出目金…

ラボでチャイナ人ポスドク女性に何気ない顔で「ちょっと10週間放浪してくるわ」と宣言した。すると出目金のような顔で『Wow!! 羨ましいわっ！』と驚かれた。『どこへ行くの？』『次はどこ？』『それからそれから…？』と、ペルセウス座流星群の如き怒涛の質問攻め。吾輩は猫である。いくら隕石が降ってこようともヒラリとかわして平然たる様子。正味30分程度も質問され続けたか。コレは何かの尋問なのか？そのうち後ろから怖い顔をした人民解放軍が出てくるんじゃないかと少し怖かった。

彼女も気が済んだのか、『色々教えてくれてありがとう♪』と笑顔で切り上げてくれた。「楽しんで来るよ」と背を向けた瞬間、彼女、『てことはしばらく実験を手伝ってくれる人がいないってワケね…』と意味深なご発言。ちょっと待ってくれ。私はアンタのお手伝いじゃない。毎月14万円も払ってアンタのお手伝いをするヤツが居るかってんだ。いや、まずいぞ。このままだと彼女から『この先2か月分も手伝ってくれない？』と言われてしまう。どれだけえげつない手伝わさせられ方となるやら想像もつかぬから怖い。逃げるが勝ちだ。命あっての物種である。

居室から立ち去ろうとした。物音ひとつ立てずに扉を開き、外に出ようと試みた。よし、ここまでは順調だ。あとは外に足を踏み出すだけ。その瞬間、『待って！』と彼女が大声で叫んだ。どうやら捕獲されてしまったようだ。聞こえなかったフリをしようか。うん。そうしよう。逃げるが勝ちだ、サッサと逃げよう。

……失敗した。みるみるうちに距離を縮められ、『今から実験を手伝ってくれない？』とおねだりされた。なんで妙に上目遣いなんだ笑！さては、困り顔でチャイナ人お得意のハニートラップに引っ掛けようって魂胆か？その手には乗らないぞ。我は武士 (もののふ)。同じ研究室の女性には何があっても心を微動だにしない。上目遣いの彼女を見、心の中で「出目金、出目金、出目金、出目金…」とつぶやき精神統一を図る。ホラ、大丈夫。あぁ、本当に彼女が出目金に見えてきて笑っちゃいそうだ。

シャツの襟を噛み、こみ上げてくる笑いをどうにかグッと辛抱する。吾輩は紳士である。女性の顔を見て (まるで出目金のようだ)と笑っては名が廃れてしまう。日頃自宅で取り組んでいる体幹トレーニングの効果を遺憾なく発揮。北大の研究室で行われている全人教育の賜物かもしれない。私の内心の揺れ動きなど知らずに彼女は『どうしたの？』とキョトンとした顔。ちょっと！このタイミングで喋らないでくれよ笑！ ”出目金が喋った！” と笑いのボルテージが限界まで上がって遂に噴き出した。テキトーな言い訳を拵える。「昨日の夜見たYouTubeの番組を思い出して笑っちゃったんだ…」と申し訳なさそうな様子に見えるよう注意して丁寧に謝罪。

『…で？手伝ってくれない？』と未だに食い下がってくる。食らいつく激しさはピラニアの如く、そのしつこさはスッポンの如し。…ダメだ、今度は彼女がピラニアに見えてきてしまった笑！人間に見えない。どうしよう笑！腹筋がよじれそうなほど笑いがこみ上げてくる。深呼吸して冷静になる。吾輩は模範的北大生。こんなことで気持ちを乱されては模範生失格である。にしても、だ。実験ぐらい一人で出来ないのか？アンタは博士研究員だろう。私に先駆けPh.D.を取ってイギリスに来たんじゃないのか？博士課程の私”が”実験を手伝ってもらうならまだしも、その逆っていったいどういう事なんだ。けしからん。さてはチャイナでは他の学生をこき使ってデータを集めてきたんだな…？

『いま、暇でしょ？』とトドメの一撃。…うん、暇だ。それを言っちゃおしめぇだべ。オックスフォードに着いて以来、暇じゃなかった日は一日もない。(何か実験をやりたいなぁ) と鼻息を荒くしているぐらいだから。「もう、分かったよ！」としぶしぶ応じる。温かい居室を出、寒空の下を歩いて2人で実験棟まで向かった。ラボで再び事件が起こった。ソレについては次のページで。