北大の博士課程を一年短縮で修了し、いまは地元の民間企業で技術開発職をしています。そんな私がD進を決意したのは、M1の9月のことでした。
正直に申し上げると、私の研究適性はお世辞にも高いとは言えません。頭を使って沈思黙考するよりも、手足を動かして実験しているほうが好きなタイプです。研究適性の無さを自覚しつつもD進したのは、博士課程でどうしてもやりたいことがあったから。そして博士課程では、予想通りめちゃめちゃ苦労しました。論文を一本書き終えるたびに「次どうしよう」と途方に暮れて頭を抱えていた記憶があります。
修士で就職していたら、きっともっと穏やかな人生だったでしょう。D進を選んだ過去の自分を一発ぶん殴りたいぐらいです。
私のように研究適性のない人間がD進すると、もれなく不幸になります。博士課程は長期戦ですから、ノリや勢いだけでは到底乗り越えられません。自分に研究適性があるかどうかを見定めたうえでD進の可否を決断すべきです。どれだけ遅くとも、就活が始まるM1の1月末までには研究適性をチェックしておきたいところ。
「でも、研究の向き不向きなんてどうやって調べるの?」と思いますよね。ご安心ください。私が考案した方法をお教えします。
この記事では、自分の研究適性の有無を見定める方法を伝えます。D進を考えているB4やM1の方にピッタリな内容なので、ぜひ最後までご覧下さい。
かめそれでは早速始めましょう!
研究適性には二種類ある


先ほどから何度も申し上げている「研究適性」について定義します。
記事で言う研究適性とは、研究にまつわる二種類の能力を指します。一つ目は「道を切り拓く力」。二つ目は「焦れずに待つ力」。まずは前者からご説明します。
道を切り拓く力
小学校から研究室配属までの間に私たちがやってきたのは”勉強”です。教科書に書かれた内容をインプットし、善良で優秀な一市民として社会を回すための知識を身につけてきました。その定着度合いを測るのが試験で、どれだけ良質で大量のインプットができているかで優劣がつけられてきたわけです。勉強能力の高さに応じて進学先のレベルが変わり、進学先が難関であればあるほど、学友や就職先、それに生涯年収といった果実に恵まれやすくなります。
研究室に配属されてからも、当然、勉強力は必要です。専門分野の基礎知識や実験手法をインプットしなければ、そもそも研究が始まりません。ただし、研究は勉強力だけでは成り立たないのです。研究とは教科書の続きを創る営みであり、教科書に書かれた知識をすべて網羅する力に加えて、まだ誰も書いたことのない続きを自分で書く力が求められます。研究とは、インプット能力もアウトプット能力もクリエイト能力も全部必要という、一種の総合格闘技なのです。
教科書の続きを書くには、未知の世界へ足を踏み入れなければなりません。スポーツカーで整備された道(教科書)を走ってきて、行き止まりの荒野に辿り着いたら車を降りる。そこから先は芝刈り機を担いで自分の手で道を切り拓いていく。
教科書の続きは誰も知らないのですから、何をどうすれば先に進めるのかも分かりません。これまで辿ってきた道のりを頼りに、適当に見当をつけて進むしかないわけです。袋小路に迷い込んだら引き返し、崖に出くわしたらよじ登る。進み続けた先に新たな知見が待っていることもあれば、何の収穫も得られないまま時間と労力だけ失っておしまいという可能性も。D進とは、こういう危うい世界へ自ら飛び込むことを意味するのです。だから、博士課程を修了するには、暗中模索で試行錯誤を繰り返せる「道を切り拓く力」が欠かせません。
ここで厄介なのが、勉強が得意だと研究も得意だと錯覚されやすいということです。残念ながら、勉強力と研究力は必ずしも正の相関を示しません。勉強が抜群にできる人でも研究はサッパリという人もいます。
勉強が得意なお利口さんは、整備された道を走るのは得意でしょう。しかし、道そのものを整備する作業は苦手かもしれません。そもそも研究室に配属されるまで、道を整備した経験なんてないわけで、自分で問いを立てたり新しい知見の創出に挑んだりするのは配属後が初めてのはずです。
B4とM1の前半、わずか半年やそこらで研究適性を正確に見定めるのは、正直なところかなり難しいでしょう。勉強力が高い方ほど周囲からチヤホヤされますし、それによって(もしかして自分は研究者に向いているかも…)と勘違いしやすいのが悩ましいところです。
焦れずに待つ力
研究は、手と頭を動かし続ける、きわめて過酷なスポーツです。研究対象について日夜考えをめぐらし、思いついたらすぐ試して、失敗したらまた考え直す。それを繰り返す。諦めたらそこで終了ですし、引き際を間違えれば地獄まで直滑降。押すべきか引くべきかを見極める大局観がなければ、息切れせずに学位取得まで辿り着くのは難しいでしょう。
博士課程を乗り越える大局観を支えるのが、前述した”勉強力”と”開拓力”。それらと同等か、あるいはそれ以上に重要な素養があります。それこそが『焦れずに待つ力』、言い換えるなら『辛抱する力』でしょうか。
成果がなかなか出なくても焦らず待てるか。すぐに方針転換するのではなく、エラーの原因を冷静に考察できるか。「ここは変えずに続けたほうがいい」と腹をくくれるか。論文がリジェクト続きでも、自分の研究に見出した価値を最後まで信じ抜き、アクセプトされるまで投稿し続けられるか。思い通りにいかなくても怒らず、絶望もせず、血の気を上らせることもなく、泰然自若として研究を続けられるか。
静かなること林の如く、動かざること山の如し。研究者にはそういうメンタリティが求められます。博士課程は研究者養成課程ですから、研究者に不可欠な能力は博士課程の間にも当然必要です。
皆さんには、未知の境地を切り拓いて進んでいける肉体的・精神的・知的体力があるでしょうか。うまくいかない時間が続いても、焦れずに待てるでしょうか。D進する前に、いま一度よく考えてみてください。
【テスト】ゼロから研究計画を作れるか試してみよう


焦れずに待つ力の有無は、ご自身でもおおよそ判断がつくかと思います。自分がせっかちかどうか、せっかちでも辛抱強いかどうかで大体の見当はつくでしょう。仮にせっかちでも、辛抱強さがあれば大丈夫。せっかちなうえ、我慢もできない私みたいな性格だと、博士課程で相当苦労します。実際、D1後期には論文が四回連続でリジェクトされ、発狂しかけました。
博士課程は苦難の連続です。多少のストレスなら乗り越えられるか、今後、更なる負荷がかかっても大丈夫そうか、一度自分の胸に手を当てて考えてみてください。
さて、厄介なのは「開拓力」の有無の判定です。これまで勉強しかしてこなかった方が、自分に創造性の芽があるかどうか、また、その芽が数年以内に花開くかどうかを見極めるのは至難の業でしょう。まずは勉強と研究の違いを明確にするところから始めたいですね。教科書の知識を網羅するのが勉強、教科書の続きを記すのが研究です。勉強が得意でも研究ができるとは限りません。勉強能力の高さは研究者になるための必要条件ではあっても、十分条件ではないのです。
では、開拓力の有無をどうやって確かめるか。試しにゼロから研究計画を作ってみてください。 博士課程の三年間にどのような研究を行いたいか、自分の言葉で書いてみるのです。研究計画は、学振DC1やフェローシップの申請時、あるいは大学院試験の際に書くことになります。どうせいずれ書かなければならないのですから、予行演習として今のうちに一度やってみるのがおすすめです。文量の多寡や内容の巧拙は気にしなくて構いません。書けるか・書けないかだけが重要です。
研究計画を作るにあたって一つだけルールがあります。何も資料を見ずに記してみてください。いきなりネットや先行文献にアイディアを求めないようにしましょう。自分がこれから進んでいく方向を決めるのですから、自分の頭で考えなければ意味がありません。これまで得てきた知見をベースに、(こんなことが分かったら面白そうだな)と知的好奇心をふくらませながら書いてみてください。
アイディアが止めどなく溢れ出てくるようなら、あなたには開拓力があります。大丈夫です、安心してD進してください。一方、白紙を前に手が止まってしまうようなら、D進を再考したほうがいいかもしれません。ただ勉強が得意なだけでは研究計画は作れません。十分な学力に裏打ちされた創造性があって初めて書けるものなのです。
研究適性の有無は、自分で、なるべく早く見定めたい所


ここまで読んで(でも、周りの人に聞けばいいんじゃない?)と思った方がいるかもしれません。残念ながら、あなたに研究適性があるかないかは、周囲の人はまず教えてくれないでしょう。
もし、指導教員や先輩が「君は研究に向いていないかもね」なんて口にしようものなら、パワハラで訴えられかねない時代です。先輩ならまだしも、先生たちがわざわざリスクを背負ってまで助言してくれると期待しない方がいい。つまり、自分の研究適性は自分で見極めるしかないのです。
①研究計画が作れるかどうか。②人類未踏の荒野を切り拓く覚悟があるかどうか。この二つを自分自身に問いかけてみてください。
研究適性がある方は心配無用です。気をつけなければならないのは、適性が”無い”方の場合で、これは自分で気づかなければなりません。適性のない方がD進すると、自分自身はもちろん、周りの人も不幸にしてしまいます。すでにD進を決意されている方も、もう一度だけ、ご自身の研究適性について考えてみてください。まだ間に合います。
先述のように、正直なところ、研究適性を見極めるにはB4とM1の前半だけでは時間が足りません。悲しいことに、就活早期化の影響で、修士学生はどんどん早く進路を決めなければならなくなっています。のんびり適性を見極めていたら就活戦線に乗り遅れてしまいますし、M2になってから適性の無さに気づいたとしても、優良企業の内定枠はとっくに埋まっているかもしれません。
研究適性の見極めはM1の1月末までに行ってください。 適性ありと判断された方はお好きな進路へ進んでいただければ結構です。適性なしと判断した方は、企業や公務員などの非研究職への就職をおすすめします。D進して不幸になるよりも、自分の強みが活きるフィールドで戦うほうがずっと幸せなはずですから。世の中、研究だけが全てではありません。






















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