北大と国研で研究している化学系大学院生かめ (D2) です。M1の9月に博士課程への進学 (D進) を決意。数多の試練を乗り越え、もうすぐ博士号取得を賭けた学位審査会へ挑戦します。
博士課程の存在を知ったのはB2の頃。講義中、とある先生が『研究って面白いですよ~、博士課程へ行きませんか?』と勧誘するのを耳にしたのがランデブー。研究室に配属後は指導教員から博士課程へと誘われました。「そんなに楽しい所ならいっちょ行ってみるか」とD進を決めたのです。正直、色々な意味で楽しかった。えぇ、大変素晴らしい、他では得難い貴重な経験ができたと思います (お察しください)。
この記事では、大学教員の側に立って考えてみて、大学教員が学生へ熱心にD進を勧める理由を考察します。
- 指導教員から博士課程へ誘われた人
- 大学教員の深層心理に関心がある方
こうした方々へピッタリな内容なので、ぜひ最後までご覧いただければ幸いです。
それでは早速始めましょう!
研究の楽しさを味わってもらいたいから
いま大学教員のポストに就いていらっしゃる方は、研究をするのが好きで好きでたまらない人間たち。時間があれば自身の研究対象についてずっと考えを巡らせていたいぐらいの研究マニア。あまりに研究が好きすぎて休日まで研究室へ行ってしまいます。論文を読んで研究のネタを探したり、未来の科学技術実現に自分の研究を活かせないかと考えたりする。彼らは心の底から研究を愛しています。三度の飯より研究が好き。もはや研究自体と結婚しているようなもの。
大学教員になられた方の大半は学生時代の頃から研究好き。考えるのが好き。新しい知見を生み出せるのが好き。論文を書く生みの苦しみを味わうのが好き。研究が好きだから研究を生業にしてきたのです。どれだけポスト獲得競争が熾烈でも、研究に対する愛のおかげで無事に乗り越えられました。
研究へどっぷりと浸かれるのは博士課程から。取得必須の単位数が減り、研究以外のノイズが少なくなる博士課程へ行ってようやく研究に集中できるのです。大学教員の皆さんは学生へ「研究の楽しさを味わってもらいたい!」と心の底から願っています。自分がこんなにも面白いと思っている研究の魅力や素晴らしさにどうか開眼して欲しいなぁ、と。楽しい活動に時間を捧げられれば人生の質が向上すること間違いなし。教員側からの学生に対するD進のラブコールは、我々学生へより良い人生をプレゼントしたいという前向きな願望がこめられているのです。
自分の後継者を育てるため
大学教員のポスト獲得レースは過酷。たった一つのイスをめぐって何十人もの応募者との競争に勝たねばなりません。助教に採用されてから准教授へ昇進するのも大変。まして、教授になろうと思えばどれほど大きな労力が必要になるやら分からない。本気でアカデミアのトップを目指そうとすれば、私生活を犠牲にしてでも研究へ時間を捧げて業績積み立てに勤しむ必要が。パートナーは人間ではなく研究。ひょっとすると、人間のパートナーと出会える時間や機会はほとんどないかもしれません。
大学教員の皆さんは大変な思いをして今のポジションを掴み取られました。自分オリジナルな研究を進めて一つの学術領域を開拓した業績は偉大。一方で、自分の研究をこのまま一人でやっていたら、自分が研究の手を止めた瞬間にこの分野の展開が終わってしまうのも事実。分野のパイオニアとしては悲しいですよね。せっかく頑張ってここまで研究してきたにもかかわらず、自分が居なくなった途端に学術領域が風化してしまうだなんて。自身が長年心血を注いできた領域には末永く発展してもらいたいと思うのが人情。「こんな研究分野なんかどうでもいいわ」と思っている教員なんて一人もいませんよ。
大学教員の定年は60~65歳。自分が定年退職するまでにどうにか【跡継ぎ】を作らねばなりません。大学教員になるには博士号が必要。博士号を得るにはD進するしかない。どうせ学生に博士号を取らせるならば自分の元で取って欲しい。自分の研究室でD進してくれれば、自分の思想や研究のDNAを継承してもらえるだろうし… こういうわけで教員の皆さんは学生へ熱心にD進を勧めます。自分の跡継ぎを作り、信頼できる人間へ後を任せるために皆さんを博士課程へと誘うのです。
大学からより多くの研究資金を受給するため
研究するには少なくないお金がかかります。実験試料で最低数千円。実験機器だと一千万円オーバー。研究室の中にある物資だけで研究が完結するなら苦労しません。よほど蓄えが豊富なラボでもない限り、必要物資の追加購入が求められるでしょう。
研究資金確保のため、大学教員の皆さんは研究費を申請します。申請一件あたりA4用紙5~10枚もの長大な書類を執筆して。科研費や国家プロジェクトの採用確率は2~3割。まるでプロ野球の打率みたいな数字ですね。採用されるか否かは運次第。応募した書類が一件も採用されない年度もたまにあるそう。時には企業へ技術を売り込んで共同研究を持ち掛けます。企業から研究資金を引っ張ってきて、そのお金を使ってご自身の研究を成り立たせる作戦。そう、大学教員はお金に困っているのです。研究をさらに深めていくために一円でも多くの研究費を欲しています。
研究室には大学側から学生一人当たり数万円の運営交付金が配られます。研究室内で学位論文用研究を進めるために必要な最低限の資金が支給される。研究を本気でやろうと思えば運営交付金だけでは全く足りません。学生を学会へ数回出張させただけで使い果たしてしまうほどの金額。しかし、たとえ雀の涙ほどの資金でも無いよりはマシ。資金のショートする可能性を僅かでも下げられるのならそれに越したことはありませんから。支給される金額は、研究室への配属学生数が多ければ多いほど増額される仕組み。博士課程の学生分に対しては、他課程の学生分よりも少し上乗せして支給されるそう。学生がD進してくれたら大喜び。研究資金繰りが少し楽になりますから。
まとめ
大学教員が学生へD進を熱心に勧める背景には3つの理由が。第一に、教員自身が研究に深い愛着を持ち、その魅力を学生にも体験してほしいという純粋な願いをこめて。第二に、自身が開拓した研究分野を継承し、発展させていく後継者を育てるために。第三の理由は、より現実的な研究室運営の観点から、博士課程の学生一人当たりに配分される運営交付金が他の課程より多いという財政的なメリットを鑑みて。これらの要因が組み合わさって、教員による熱心なD進勧誘へとつながっているのです。
大学教員の中には、学生を自分の手下として好き放題使っている人間もいます。性悪な人間の元でD進すると苦労するから、ご自身の先生がどのような人間なのか慎重に見極めたうえでD進のご決断をお願いします。
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