博士課程進学に『覚悟』が欠かせない3つの理由|学位が取れないかもしれないけど、それでも大丈夫?

札幌と筑波で電池材料を研究している北大化学系大学院生かめ (D2) です。M1の9月に博士課程進学 (D進) を決意。進学の意志を指導教員に伝えた際、『覚悟を固めてね』と半ば本気で脅されました。M1の頃は無知ゆえに先生の言葉が何を意味しているのか分かりませんでした。 (どうしてそんな怖いことを言うんだろう?) と首を傾げていたぐらい。D進後、数多の困難を経て、先生の言葉の真意を解しました。「ヤバい所なんだな、博士課程って…」と覚悟の重要さを身に染みて実感した次第。

この記事では、私の体験をもとに、D進に【覚悟】が必要といわれる理由3つ解説します。

  • D進を予定している方
  • D進に何となく興味/関心がある方

こうした方々にピッタリな内容なので、ぜひ最後までご覧いただければ幸いです。

かめ

それでは早速始めていきます

目次

博士課程は長期戦。勢いだけでは乗り切られないから

学部での研究生活は1~2年間、修士課程なら2年で終わります。学部生のうちは実験のチュートリアルや基礎勉強が中心。専門的な研究を行う時間はほとんどなく、研究を進めるスキルもあまり備わっていません。大半の方は学士課程だけでは満足できないでしょう。研究をやりたくて大学に入ったにもかかわらず、まだ研究に取り掛かれていないのですからね。そこで、半数以上の方が修士課程へ進学します。修士進学後、勉強や実験を重ね、徐々に自身の専門性を深めていくのです。修士進学した人のうち、9割以上の方が非・進学の道を選択します。民間企業や役所、省庁、あるいは起業で生活費を稼いでいく道を歩んでいく。

博士課程へ進学する場合、修士課程プラス3年間の研究生活が待っています。学士+修士なら研究生活は3~4年、学士+修士+博士のフルコースなら6~7年も研究室へ所属することに。人間、何事も三年程度なら勢いでどうにかごまかし切られます。『石の上にも三年』と謂いますが、三年ぐらいの期間なら石の上にも辛抱して座っていられるのです。けれども、さすがに六年間は勢いだけでは無理。三年を過ぎたあたりで勢いに陰りが見え始め、四年目で失速、五年目で停滞、そして六年目にはもう我慢できなくなるでしょう。

私の場合、三年目のM2までは勢いで突っ走ってきました。学振DC1内定を目指して研究業績を余念なく集めてきたのです。そこで力を使い過ぎたせいか、四年目のD1でものの見事に息切れ。M2までにつけた勢いの惰性だけで足を運んでいたような感覚。五年目のD2には遂に気持ちが燃え尽きた。「研究室にこれ以上いても成果を出せそうにない、研究者になれそうにない」と判断して早期修了&就職の道を選びました。

長い長い研究室生活の最中、皆さんにはたくさんの困難が待っています。

  • 学術雑誌へ投稿した論文が何度もリジェクトになる
  • 自分に何の瑕疵もないのになぜか自分が怒られる理不尽を味わう
  • 留学中に言語が通じず散々な目に遭う

など、一つだけでも挫けてしまいそうな辛い出来事がたくさん身に降りかかるのです。D進する場合、全方位から降りかかる災難へ六年以上も耐え忍ばねばなりません。よほどの強い理由やモチベーションが無ければ博士課程にしがみついていられないですよ。博士課程はノリや勢いだけで気安く来て良い場所ではありません。軽い気持ちで進学したら、D進後、壮絶な苦しみを前にあっさりドロップアウトしてしまうでしょう。

確実に修了できる保証がないから

博士課程に覚悟が必要なのは、必ずしも三年で終わる保証がないからです。三年以内に修了できる人は7割。残り3割の人間は、修了までに三年半、ないし四年以上かかります。

学部や修士まではほとんど全員が標準年限で卒業・修了可能。いくら卒業要件があるはといっても、卒論を出せとか、学会で一度発表すればOKとかその程度のものです。真面目に研究室で研究していれば卒論を書けるデータぐらい集まるでしょう。学会だって、修士で二年間も研究すれば、せめて一度ぐらいは学会で発表できる分のデータを得られるはず。学士号は参加賞。修士号は努力賞。研究室に行き、日々コツコツ研究しておけば修士課程までなら乗り越えられる。

博士課程はそうもいきません。修士課程までと比べ、修了要件が段違いにレベルアップしているからです。私の所属専攻の場合、英誌にて筆頭論文を二報以上出版する義務があります。学会発表を二回、ではありませんよ。『論文』を二報以上出さねばなりません。もしも博士課程の三年間に論文を二報以上書けなかったら?修了要件を満たせず、三年では学位を得られないのです。先生方にいくら土下座してもダメ。二報書くまで永遠に終われない恐怖のシステムがここ博士課程。

研究は魔物。実験量と実験成果が比例するとは限りません。どれだけ実験をやりまくってもゴミのようなデータしか得られない可能性があるのです。想定していた結果とは異なる傾向の実験データが出て、今まで積み重ねてきた仮説が根底からひっくり返ることもしばしば。二報以上の論文執筆のために膨大な実験量をこなす必要があるのは事実。しかし、実験量が成果に正比例しない以上、博士課程の間に必ずしも二報分の研究成果を得られるとは限りません。運が良ければ三報分、四報分の成果が出る。風の吹き回しが悪ければ一報分の成果すら得られないのです。

おまけに、頑張って記した論文が雑誌からリジェクトされてしまうケースが。博士課程の修了要件は二報以上の『出版』。論文原稿のままでは意味がありません。原稿が公に出版されて初めて実績の一つにカウントされます。どれほど多くの原稿を記したとしても、リジェクトが連発してしまっては一向に修了要件を満たせません。リジェクトされるか/されないかも運の世界。論文の査読が良心的な査読者に回されるか/否かに左右されるのです。論文の査読者は我々ではなく雑誌会社が選びます。よって、投稿した瞬間から運を天に委ね、アクセプトを祈るしかありません。何か月も査読が続いた末にあえなくリジェクトとなる場合があります。時間と気力だけが削り取られて精神的に大ダメージを被るわけです。

博士課程は修士までと違い、確実に修了できる保証がありません。指導教員が覚悟を問うてきたとき、彼らは『学位を取れないかもしれないけど、それでもいい?』という質問を暗に投げかけてきているのです。そんな厳しいことを学生へ直接的な表現でアドバイスすればパワハラになります。パワハラにならぬよう、言外に博士課程の厳しさを伝えようと試みる指導教員の優しさをどうかご理解ください。

中退後、心理的ダメージが大きすぎて再起不能に陥る可能性があるから

博士号をめぐる学術界との長期に渡る攻防戦は精神をすり減らします。めちゃくちゃ疲れます。ゲッソリやつれ果ててしまう。D進前後の自分の写真を見比べても、明確に違いが分かるぐらい状態が悪くなっています。顔色が本当に悪い。まるで死人かミイラになったよう。D1の2月に更新した運転免許証の写真を見たときは思わず仰天しましたね。えっ、コレ、自分?!嘘だろ。こんなに老けて見えるの…って。

博士課程在籍中、体重が減り、髪の毛が少し薄くなり、胸や腕に湿疹が顕れました。D2の7月には右耳の聴力がほぼゼロに。日常生活やTOEICのリスニングテストに支障をきたして困りました。最繁忙期は左目の瞼がプルプル痙攣して止まらなかった。瞼の微振動が気になって気になって仕方がなく、デスクワークへ集中するのも難しい。ストレスに耐えかね、二回、口から血を吐いてしまったこともあります。動悸や息切れ、胸の痛みで夜中に飛び起き、冷や汗をかいたのも一度や二度ではありません。

メンタルを削り取られる博士課程を仮に中退してしまったらどうなるか?おそらく、その後は再起不能に陥るかと存じます。2~3年は働けないでしょうね。頑張る気力が起こらず、ちょっとした精神的動揺にも耐えられず、部屋の中に引きこもって心の傷を癒そうと試みるでしょう。その後、社会復帰できればまだマシな方。社会復帰できなかった場合、ズルズルと引きこもっているうちに第二新卒カードさえ使えなくなって就職が難しくなります。せっかく頑張って勉強して修士号まで取ったのに就職もままなりません。 私ならメンタルに加え、身体にも大ダメージを被っているので、きっとそのまま社会からドロップアウトしてしまうでしょう。

心身へ大きな負荷をかける博士課程へ進むには中退リスクをも考慮に入れねばなりません。中退して破滅するリスクと進学したい思いとを天秤にかける必要があります。あなたは中退しなくて済みますか?中退した後もやっていけますか?もし社会からドロップアウトしたら、その後、どうやって生きていきますか?全てを受け入れる覚悟はありますか?

博士課程とは、それでも行きたい人が進学すべき場所

博士課程とは、このような脅しにも決して屈さず、「頼むから進学させてくれ!」と懇願するクレイジーな人が行くべき場所。常人の進む所ではありません。頭のねじが何本も外れた、良い意味でちょっと狂っている人が集まる世界。普通の神経の持ち主なら、「修了できないかもよ?」と言われた際、進学を躊躇して別の道を探ります。修了できる確証がなく、中退したら人生が破滅するリスクまで背負って進学したくはありませんから。D進するような人は違います。「人生を研究に賭けてみたい。破滅?知ったこっちゃねぇわ!」と思い切った選択ができるのです。自分が特異な感覚の持ち主かもと思ったそこの貴方。ぜひ一度、指導教員にD進を相談してみてはいかがでしょうか?

以上です。

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