大学院を早期修了すべきか迷う方に提示したい判断基準

博士課程の修了時期を巡る議論は尽きません。アカデミアの世界では「早期修了は研究者としての成長を阻害する」という声が根強く残っています。一方で、産業界からは「優秀な人材なら早く実社会で活躍してほしい」との期待も高まっています。

こうした賛否両論の中で、早期修了を選ぶべきか否かの判断に迷う学生は少なくありません。その背景には、修了時期の決断が将来のキャリアパスを大きく左右するという切実な現実があります。早期修了を目指せば、それだけ早く実社会でのキャリアをスタートできます。しかし、その分、研究者としての土台を固める時間は短くなってしまう。この二律背反の中で、私たちはどのような判断をすべきなのでしょうか。

本記事では、早期修了をするか・しないかという難しい選択について、私自身の経験を踏まえながら判断の目安を提示していきます。

かめ

それでは早速始めましょう!

目次

やりたいことが大学院の外でしかできぬなら早期修了しよう

博士課程の外に強く惹かれる何かがあるなら早期修了への挑戦をオススメします。それは企業での開発職かもしれません。あるいは行政機関での政策立案かもしれません。ひょっとしたら起業への夢かもしれませんね。アカデミアの外で実現したい目標がある場合、その一歩を早めに踏み出す価値があります。

博士課程は独特の価値観に支配された世界。研究室という狭い空間で、かつ限られた人間関係の中で過ごします。そこでは「研究の質」や「論文の本数」が至上命題とされます。時として社会の常識から大きくかけ離れた判断基準が幅を利かせているのです。日々、実験や論文執筆に追われる中、「本当にこれでいいのだろうか」と疑問を抱く人も少なくありません。

早期修了を目指すには並々ならぬ労力が必要です。私の所属する専攻を例に取ると、標準修了には筆頭著者として英語論文二報の出版が求められます。早期修了には五報以上が必要。この要件を二年以内でクリアするには、複数の研究を並行して進める必要が。データを取りながら論文を書き、査読対応をしながら次の実験をこなす。そんな綱渡りのような日々を送ることになります。

もしも外の世界で実現したい夢があれば、この困難な過程に耐えられるかもしれません。各々の目指す夢に向かって全力疾走できる。そんな情熱があれば、むしろ研究のペースは加速するでしょう。私自身、「地元企業での開発職」という具体的な目標があったからこそハードな研究生活を乗り越えられました。早期修了は、大学院の外にある夢を追いかけるための強力な手段となり得るのです

やりたいことが博士課程でできるなら早期修了を見送ろう

一方で、博士課程での研究に没頭できているなら急いで修了せずとも構いません。研究には時として「熟成」が必要。じっくりと腰を据えて考え抜く時間があってこそ、画期的な発見が生まれることもあるのです。特に基礎研究の分野では、真理の探究に王道はありません。”何をやったら成功する”という具体的な見込みも立たない。一つの実験から思いがけない発見が生まれ、その発見が新たな研究の方向性を示唆します。そのような予測不可能な展開こそが研究の醍醐味と言えるでしょう。

私の同期には、三年かけてじっくりと研究を進めている仲間がいます。彼らは私のように論文の本数を追い求めるのではなく、一つ一つの研究テーマを徹底的に掘り下げているのです。データの意味を深く考察する。その過程で見つかった新たな疑問に対して、また新しい実験を組み立てて検証していく。そうした科学者的な姿勢は、せっかちな私には到底真似できぬもの。研究について話していて、自分と相手とで研究者としての成熟度に差を感じました。

早期修了を目指すことで研究の質が落ちてしまうのであれば本末転倒でしょう。博士課程で過ごす時間は、研究者としての土台を築く貴重な期間です。その時間を意図的に短縮する必要があるのでしょうか?早期修了を決断する前によくよく考えておかねばなりません。研究に打ち込む喜びを感じているなら、その感覚を末永く大切にしましょう。研究者としてのキャリアを歩むつもりなら猶更大切に。

私が早期修了したのは、大学院の外にやりたいことがあったから

私の場合、早期修了の決断には二つの強い動機がありました。

  • 基礎研究から応用開発へ転身したい
  • 故郷・広島での生活を取り戻したい

この二つの想いは、徐々に、しかし確実に私の中で大きくなっていったのです。

研究室での基礎研究は、確かに知的好奇心を満たしてくれました。新しい現象の発見やそのメカニズムの解明は純粋に面白かった。しかし次第に、この研究がいつ・どのように役立つのか分からぬもどかしさを感じ始めたのです。今の研究は何年後に日の目を見るのだろう。そもそも実用化される可能性はあるのだろうか。この研究は役に立つのだろうか。そんな疑問が日に日に大きくなってきたのです。

基礎研究の重要性は十分に理解しています。しかし、私には目の前で社会を変えていけるやり甲斐が欲しかった。地球上には、基礎研究よりも直接的に人々の暮らしへと貢献できる仕事があるはず。そう考えていた矢先、地元の某自動車メーカーから電池開発職での採用打診がありました。

この企業では、電池材料の基礎研究で培った知識を車載用蓄電池の開発に活かせます。私の知見が業務に活かされ、仕事の成果が製品として形になり、やがて世界中の人々の暮らしを支えていく。それは、私が求めていた理想的な仕事でした。おまけに、そのようなやりがいのある仕事を生まれ故郷でさせてもらえるときた。地元への帰還とキャリアの転換。この二つの夢を叶えるべく博士課程早期修了を決意したのです。

まとめ

早期修了を目指すべきか否か。その判断は自分の「やりたいこと」を本質的に見定める所からスタートします。

大学院の外に強く惹かれる目標があるなら、早期修了は有効な選択肢となるでしょう。一方で、研究そのものに没頭できているなら、その時間を大切にすべきです。早期修了は決して「損得」だけで判断すべきものではありません。それは、自分の人生をどう生きたいかという本質的な問いに向き合うことでもあるのです。私は地元での開発職を選びました。今のところ、その決断に後悔はありません。

皆さんには、それぞれの道があるはずです。自分の心へ正直に向き合い、納得のいくまで考えて最良の選択をしてください。

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