10/1 (日) その1:札幌 (SPK)→東京 (TYO)
新千歳空港へ

いつもと同じく朝5時に起床。緊張のせいか、今日は少しだけ目覚めがシャキッとしているような気が。そういえば研究室にヘッドホンを置きっぱなしにしてきたんだっけ。ヘッドホンがないと色々な場面で困るだろうから、少々面倒でも歩いて取りに行かなくちゃいけないな、よし行こう。
早朝の札幌はヒンヤリとしている。もう10月だ。季節は秋。じきに雪が降り一面、銀世界に。これから渡航するオックスフォードはあんまり雪が降らないらしい。冬は札幌よりも温かいみたいだから今年は楽に冬を越せるんじゃないか?
研究室から取ってきたヘッドホンをスーツケースの開いているスペースに押し込んで収納。入るか入らないかギリギリだったが何とか詰め込むことができた。念のため計量。問題ない。19.5kgなら国内線でも持ち運べる。国際線は23kgまで無料だから余裕で計量をパスできそうだ♪
家の電気のブレーカーを落とし、凍結予防の水抜きを施す。家を空けている間も水道光熱費は基本料金だけ取られちゃうらしい。まぁ、いいや。月々3,000~4,000円程度なら留学費用の端数みたいなもの。いちいち気にしていたらキリがない。一コマも授業を受けていないにもかかわらず、北大の授業料を支払わねばならない理不尽さに比べたら格段にマシ。

六時半。家の扉を閉めた瞬間、胸の奥がわずかに疼いた。これから半年、この街には帰ってこられない。
札幌駅へ向かうバスの車窓から、朝陽が街の輪郭を金色に染めていく。いつも見慣れた通勤客の列、朝もやのかかった大通公園、遠くに霞む藻岩山。れも、今年はもう見納めだと思うと、目に焼きつけずにはいられなかった。

快速エアポートの車窓からは、牧草地と倉庫群が流れるように遠ざかる。鉄路のリズムに合わせて胸の鼓動も早まる。あぁ、北海道が好きだ。好きで、好きで、どうしようもない。それでも、行かねばならない。
新千歳空港に着くと、空はどこまでも青く澄み渡っていた。天の神さまが「行ってこい!」と送り出してくれているみたいだ。
冬のイギリスではこんな陽光を浴びることは少ないだろう。だから今のうちに、目一杯この陽射しを吸い込んでおく。頬を撫でる風さえも、匂いまで大切に記憶しておく。
バイバイ、北海道

午前九時三十分。ANAの羽田行きに乗り込み、機体が滑走路を走り出す。翼が浮き上がる瞬間、窓の外に広がる大地に小さく呟いた。
「バイバイ、北海道」
眼下に広がる緑と海と、遠くの雪を頂いた山々。北海道の大地に、私の六年分の青春が眠っている。

飛行機が苫小牧上空を抜け、太平洋へ出るころには、もう陸地の輪郭が霞んでいた。
――もう振り返るな。
心の中でそう呟き、拳を握りしめた。
武士道を胸に、いざ異国へ。たとえ打ちのめされようとも、この魂は決して折れない。
二十五歳の秋、私は侍の気概で空を渡った。

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