博士課程で論文を五報出した先輩が、後輩にそっと教えた論文執筆の「勝ちパターン」

博士進学予定の後輩Aさん

先輩、ちょっと聞きたいことがあります
どうせ暇だと思うんですけど、一応お尋ねしておきますね。いま、お時間、大丈夫ですか?

かめ

いきなり超失礼だね笑
大丈夫だよ、どうしたの?

後輩のAさん

えっと… 先輩って、博士課程の二年間で論文を五報出したって聞いて…
私も博士に進むつもりなんですけど、正直どこから手をつければいいのか分からなくて。論文を増やすコツみたいなものって、ありませんか?

かめ

あるよ。しかも、思っているより地道で再現性のあるやつ
僕だって最初から順調だったわけじゃない。試行錯誤し続けた結果、徐々に勢いがついて、形になっただけ

後輩のAさん

えっ、そうなんですか
最初からバンバン論文を出していたのかと思っていました

かめ

全然だよ。D1のときなんか、同じ論文を四回連続でリジェクトされて、卒業できないかもって思っていたぐらいだし
でもね、あるときから明らかに出版ペースが伸びた。いま思えば、成果が出て当たり前だなって思うやり方をしていた。要は勝ちパターンに乗っていたんだね

後輩のAさん

その方法、すごく気になります
私でも実践できるんでしょうか?

かめ

できるよ。今日話すのは、
「目標の立て方」
「論文の全体像の描き方」
「実験の意識」
「書き始めるタイミング」
この4つ。どれも、研究初心者でも取り組めるものばかり

後輩のAさん

よかった、難しい特殊技じゃないんですね♪
じゃあ、最初の『目標の立て方』から聞いてもいいですか?

かめ

うん。ここが論文量産のスタートラインだからね
それじゃ、さっそく話していこうか

後輩のAさん

お願いします!

目次

目標を立てる

かめ

じゃあ、まずは 「目標を定める」 ところから話そうか。
論文を増やしたければ、ここがいちばんの起点になる。

後輩のAさん

目標って、どのくらい具体的に決めればいいんですか?
「博士のうちに頑張るぞ〜」みたいなふんわりしたやつじゃダメですよね

かめ

ふんわりはダメ…というより、前に進む燃料になりにくいんだよね
だから、まずはっきり決める。いつまでに、何報出すか

後輩のAさん

”何報”……!!
けっこう大胆に設定するんですね。

かめ

うん。大胆な方がいいよ
達成できるかどうかは二の次で、目指す方向が『在る』こと自体が大事なんだよ。ぼんやりした目標だと、博士課程で横道に逸れてしまうかもしれないからね

後輩のAさん

たしかに。私も気づいたら三日くらい文献の海で迷子になってます

かめ

研究あるあるだね
僕の場合は M2の終わりに明確に決めたんだ「博士課程の二年間で五報」って。当時の出版ペースは一年に一報くらいだったから、完全に倍速モード

後輩のAさん

結構攻めますね~
最後尾から末脚で差し切りを狙う競走馬みたい

かめ

でしょ? 
でも、人間って、もろいんだ。人の倍のペースで人と同じ期間だけ頑張ることはできない。博士課程はふつう三年間あるけれども、自分は三年間も倍族ペースを保てないと思った。だから早期修了を狙ったんだ。自分がギリ壊れず持つ期間を二年に設定したってわけ

後輩のAさん

要するに、理想は高く、期間は現実的に って感じですか?

かめ

そう、そう

後輩のAさん

なるほど。じゃあ私も、ちょっと背伸びした目標を立てたほうが、自分にスイッチが入るかもしれませんね

かめ

うん。論文って、勢いが付くまでが一番しんどいから、最初の目標がエンジンになるんだよ。一度動き出すと、自然と次の一報のイメージが湧いてくる

後輩のAさん

目標って、研究の地図みたいなものですね。目的地が見えてない旅より、見えてるほうが進みやすい、みたいな

かめ

いい喩えだね。まさにその通り
目的地が見えれば、歩く速度も迷いも変わってくる。論文出版の第一歩は、ほんの少し勇気を出して 「理想の数」を書いてみることなんだよ

後輩のAさん

うわぁ~、ちょっとワクワクしてきました
私もさっきの紙に書いてみようかな。「二年で十報」って

かめ

十報も書いたら、レジェンドになれるよ笑

後輩のAさん

レジェンドに、なります!

かめ

いいね。書いた瞬間から、旅が始まるよ
じゃあ次は、その目標に向かって実験をどう組み立てるか。つまり論文の全体像をどう描くかについて話していくね

後輩のAさん

お願いします!
そこ、すごく知りたいです!

論文の全体像を描く

かめ

論文を増やしたいなら、実験の前に『論文の全体像』を描くことが重要なんだ

後輩のAさん

全体像、ですか?

かめ

うん
みんな「実験して、データが揃ってから論文を書く」と思ってるでしょ? 僕のやり方は逆でね。論文のシナリオを頭の中で描いてから、実験に取りかかるんだよ。

後輩のAさん

えっ、完成させちゃうんですか?
まだ何の結果も出ていないのに?

かめ

出てないからこそ、だよ。
たとえば仮説を A とするなら──
A が正しければ B が分かる→B が分かれば C が言える→C が成り立てば D が導ける→だから最終的に E という結論に到達できる
こんな感じで、頭の中で論文を一本まるっと組み立ててしまう仮説ベースで構わないから、論文の筋だけ作っておくんだ

後輩のAさん

なんか、脳内ですごろくしてるみたいですね

かめ

まさにそれ。
この“脳内すごろく”にはもう一つコツがある。仮説ってたいてい外れるでしょ? だから 分岐 を作っておくんだ

後輩のAさん

分岐?

かめ

たとえば──
A → B または B’
B → C または C’
B’ → C’’ または C’’’
こんな感じで、あらかじめ複数のルートを想定しておく。分岐は多ければ多いほどいい。そのぶんリスクヘッジが効くから

後輩のAさん

なるほど!
一本道だと、外れた瞬間に詰んじゃいますもんね

かめ

そうそう。仮説が外れたときに「はい終わり」じゃなくて、次のルート にすぐ切り替えられるようにするんだよ。そうしておけば、実験結果に翻弄されにくくなる

後輩のAさん

でも、頭の中だけで考えてたら、途中でぐちゃぐちゃになりそう

かめ

なるよ
僕も D1 の頃は思考が渋滞して、頭の中で玉突き事故が起きてた。だから最後は紙に書いたり、パソコンでメモして整理するのがいちばんいい。思考は外に出した途端、急に明晰になってくるからね

後輩のAさん

あーーーー、マジで分かります。書き出した瞬間に「あれ? これ矛盾してない?」みたいなの、よくありますもん

かめ

矛盾に気づくのも、方向性を定めるのも、思考プロセスの『見える化』によって初めて実現できる。実験の前に考える → 全体像を描く → 必要な実験だけを効率的に拾うって流れを徹底してやっておくだけで、出版ペースは驚くほど変わってくるよ。
もちろん、考えるのって、めちゃくちゃ面倒臭いけどね

後輩のAさん

全体像を描いてから実験したら、
無駄な実験が減って、論文に直結するデータだけを集められる、ということですよね

かめ

直結するデータ”だけ”とは限らない。使えないデータも出てくるだろうよ。それでも、仮説が外れたときに何日も立ち止まらずに済むし、結果的に不必要な実験を行うことも少なくなるんじゃないかな

後輩のAさん

論文数を増やしたいなら、手を動かす前に、頭を動かすこと、か

かめ

そう。じゃあ、次の章では「そのデータをどう集めるか」っていう話をするね

後輩のAさん

聞きたいです!
よろしくお願いします!

実験に対する姿勢

かめ

論文数を増やしたければ、実験するときの“意識”を変えることがめちゃくちゃ重要なんだ

後輩のAさん

意識?

かめ

うん。たとえば、何か実験してると、つい「とりあえずやってみよ〜」みたいなノリで、何も考えずに手を動かしがちでしょ?

後輩のAさん

あ、、、図星です。気づいたら、お試し実験コレクションみたいなのが、フォルダに100GBぐらい溜まってます

かめ

それも悪くないよ。そのデータがもとで、将来的なだいはっけんにつながるかのうせいはある。けれど、論文業績を増やしたいなら、視点を変える必要があるんだ
つまり、“すべての実験データは論文に使う前提で集める”という気持ちで手を動かすこと

後輩のAさん

全部、論文に使う前提で!?
でも、失敗データとか、ゴミみたいなの、普通にいっぱい出てきません?

かめ

出るよ。山ほど出る
大事なのは 「使うつもりで実験する」 っていう姿勢なんだよ。精度を上げる努力とか、条件を見直す習慣とか、そういう意識が研究の質を底上げしていくんだ

後輩のAさん

なるほど。「どうせ使わないし」みたいな気持ちで実験してたらダメなんですね

かめ

うん。実験する時の気持ちって、実験の成功率にもろに響くんだよ
僕自身、B4〜M1の頃は成功率が20〜30%くらいだったんだ。毎日 ハズレガチャ を引いてるみたいで、嫌になったこともある。実験に失敗したあと、研究所の屋上で夕日を見て、「もう研究なんかやめちゃおうかな」って思っていた

後輩のAさん

そんな時代が…

かめ

そこから手順を徹底的に見直して、失敗の原因を潰し続けたら、成功確率が70〜80%まで上がった
成功率が上がると、どうなると思う?

後輩のAさん

論文が、早く書ける…?

かめ

正解
成功率が高いってことは、本質的に“時間が増える”ってことなんだよ。失敗データの処理も減るし、迷走期間も短くなるし、何より精神状態が良いよね

後輩のAさん

たしかに。実験が失敗続きだと、自分の存在ごと薄くなっていく気がしますもんね。「あ~、私っていま何をやっているんだろう」って消えたくなりますもん

かめ

その気持ち、めっちゃ分かる。だからこそ、
論文に使うつもりでデータを取る
→ 成功率が上がる
→ 出版が早くなる

この流れをいち早く作って、研究生活を楽にしてほしい

後輩のAさん

じゃあ、私も明日から、データを全部論文に乗せるつもりで実験してみます。ちょっと緊張するけど

かめ

最初はみんな緊張するよ。でも意識ひとつで研究は劇的に変わる。よく覚えておいてね

後輩のAさん

はいっ!

かめ

よし、じゃあ最後は──
「データがある程度揃ったら、とにかく書き始める」
という、これまた大事な話をしていこうか

後輩のAさん

書き始める。。。
うっ、急に耳が痛い話が来そう

かめ

大丈夫、優しく話すから安心して笑

後輩のAさん

お願いします!
覚悟して聞きます!

論文執筆のタイミング

かめ

“データがある程度そろったら、すぐ論文を書き始める”
これが意外と、多くの人がつまずくポイントなんだよ

後輩のAさん

すぐ、ですか?
「もうちょっとデータが増えてから…」って、つい思っちゃうんですけど

かめ

みんなそう言うんだよね
でもね、知ってた? 論文って 書き始めないと一生書き終わらない んだよ

後輩のAさん

身も蓋もない真理!!!

かめ

ほんとにそう。みんな知っているはずなのにね
研究者って、実験はすぐやるのに、文章は後回しにするクセが強い。僕も昔、
「あと二つデータが増えたら書こう」
「いや、三つあった方が、論文の見栄えが…」
って延々先延ばしして、気づいたら二ヶ月経ってた

後輩のAさん

うわぁ、その気持ち、めちゃくちゃ分かります。私も似たような遺跡を発掘したことあります

かめ

遺跡って笑
Aさんも書き始めてみると分かると思うけど、自分が本当に何を追加で実験すべきかは、論文を書いてみるまで見えてこないんだよ

後輩のAさん

あ、たしかに、「実際に文章にしてみると、不足に気づく」みたいなの、よくあります。雑誌会でも同じです。論文を読んでいるときは分かっているつもりだったのに、スライドにまとめてみようとすると、(あれっ、これ何だったっけ?)って慌てて調べ出す、みたいな

かめ

そうそう
必要な追加データってのは、書いてる最中に初めて輪郭が出てくることが多い。そして、すぐ取れるデータなら、さっと実験して追加すればいい

後輩のAさん

問題は、すぐには取れないデータ、ですよね?
実験に時間が掛かったり、データの解釈をまとめるのが難しかったり

かめ

そこが判断の分かれ目だね
論文完成に欠かせないピースなら、もちろん時間をかけてでも取りに行く。ただし、時間がかかりすぎて論文を出せないのは最悪だから、別のアプローチで論を組み立てる方向に軌道修正すべき場合もある

後輩のAさん

なるほど。データを「取らない勇気」もアリなんですね?

かめ

うん。何でもかんでも“完璧に揃えてから書こう”とすると、博士課程が終わっちゃうよ
論文って、案外、削る工夫で美しくなることもあるからさ。論文にアレコレ盛り込みすぎるとテーマがぼやける。データが少ない方が、かえってアピールポイントが鮮明になり、主張がクリアになる

後輩のAさん

ああ〜
その考え方、ちょっと救われますっ

かめ

よかった(*≧∀≦*)
一番大事なのは、指導教員とこまめに相談すること。ひとりで黙々と書くと、論文の骨組みが根本から歪んでて、全編書き直しになることもある。実際、自分も一度やらかしたことがあってね…

後輩のAさん

えっ、先輩ってまさか…

かめ

あるよ。僕、D2の6月に、フルペーパーを、丸ごと書き直したことあるからね。D2の6月に、だよ。早期修了予定の半年前に笑

後輩のAさん

なんて無慈悲な

かめ

さすがに焦ったね。焦りすぎて、辛いはずなのに、涙も出なかった。泣いているヒマもなかったんだろうね
でも、あの一件で学んだよ。「早めに書く → 早めに相談する → 修正が軽く済む」これを徹底しておけば、論文完成までスムーズにこぎつけられたんだなって

後輩のAさん

なるほど。
書くって、難しいですね。実験とは別の意味で勢いが大事だし、イノシシみたいに突っ走っていったら先輩みたいになっちゃうし

かめ

悔しいけど、何も言い返せない(:_;)

後輩のAさん

冗談ですよっ!
先輩、そんなに落ち込まないで!

最後に

後輩のAさん

先輩、今日は本当にありがとうございました
今日、お話をして、研究に対して抱いていた霧みたいなものが、少し晴れました。あと、なんか、論文の話を聞いたはずなのに、研究そのものの見え方が変わった気がします

かめ

それは嬉しいな
実はね、論文を増やすコツって、単に効率化のテクニックじゃないんだよ

後輩のAさん

どういうことですか?

かめ

論文を増やすために必要なことって、突き詰めて考えると、自分の研究に向き合う姿勢を整えることなんだよ

後輩のAさん

姿勢?

かめ

うん
目標を立てるのもそう。全体像を描くのもそう。実験の精度を上げるのも、書き始めを早くするのも全部、研究にどう関わるかという「姿勢」が中心にある

後輩のAさん

確かに。今日の話って、やる気を絞り出す方法でもなく、裏技でもなかったですよね

かめ

でしょ? むしろ、自分の研究者としての軸を少しずつ育てていくための考え方なんだ。不思議なことに、軸がしっかりしてくるとね、不思議と成果が出始めるものなんだ

後輩のAさん

先輩の出版ペースが伸びた理由って、たぶんそこにあるんですね

かめ

たぶんね
論文数が増えるのはご褒美みたいなもので、本質はもっと静かなところにあるんじゃないかな
・毎日の研究を、どう丁寧に積むか
・迷ったとき、どんな観点で判断するか
こういったことの積み重ねが、いつの間にか形になって、論文という果実になるんだろうな

後輩のAさん

研究って、もっと混沌としてて運ゲーみたいな印象でした。考え方ひとつで、こんなにも景色が変わるんですね

かめ

景色は変わるよ
研究って、やればやるほど自分が映るんだ。だからこそ、しんどいし、だからこそ面白い

後輩のAさん

…なんか泣きそうです

かめ

泣かないで笑
でもね、今日Aさんが感じたことは、本当に大事だよ。博士課程に進むって決めた瞬間から、研究は誰かの課題じゃなくて、Aさん自身の物語になるんだから

後輩のAさん

物語、かぁ

かめ

そう。そして、論文は、研究者ストーリーの節目みたいなもの
数は大事。それ以上に、自分がどんな姿勢で研究に向かってきたかが大切だよ。研究に対する信念がAさんを強くしていってくれるんだから

後輩のAさん

よし…! なんだか、すごく前向きになってきました
私、自分の物語、ちゃんと書いていきたいです

かめ

その気持ちがあれば、論文は自然とついてくるよ
博士課程でもちゃんとやっていけると思う^ ^

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