北大と国研で研究している化学系大学院生かめ (D2)です。B4の3月に国際ジャーナルへ筆頭著者として論文を出版したことがあります。
近年のAI技術の発達により、日本人が英語論文執筆の際に乗り越える言語の壁が著しく下がりました。ちゃんとした日本語原稿さえ書ければ、ChatGPTやClaude AIへ文章を入力するだけで簡単に英語論文が出来上がります。英文を簡単に作れるようになった影響か、修士学生が英語論文を書いて出版するケースが増加傾向に。私の所属する研究室でも過去二年間、修士学生がそれぞれ少なくとも一報は出版して修了しています。しかし、学部生の論文執筆者数は依然として僅か。自分の属する研究室では、設立以来、私のほかにB4で論文を出版した学生は一人もいないそうです。
この記事では、自身の体験を踏まえ、学部生が論文を国際雑誌にて出版できるのは凄いことなのか否かについて解説します。
- 論文執筆意欲のある学部生さん
- 意識の高い学部生を指導する立場にある院生さん&教員様
こうした方々にピッタリな内容なので、ぜひ最後までご覧いただければ幸いです。
それでは早速始めましょう!
学生が凄いんじゃない。学部生の論文出版をサポートした先輩や指導教員が凄い
私がこの記事を書こうと思ったのは、何も自身の論文執筆力を自慢したかったからではありません。むしろその逆。「自分は凄くない。先輩や指導教員が凄いんだよ」と訴えたかったがため。
B4時代を思い返してみたとき、今と比べて本当に何も知りませんでした。研究のことも、論文の書き方も、英語力も論理的思考力も何もかもが穴だらけ。決して勉強不足だったわけではありません。毎日最低3時間は論文や専門書を読んで知識を吸収してきました。勉強不足というよりは経験不足。研究室で過ごす時間がまだ少なかったが故に絶望的なほど経験値が低かったのです。乗り越えてきた試練の数が先輩方と比べても遥かに少ない。経験に裏付けられた知識もさほどなく、右も左も分からない状態。乏しいながらも有する専門知識を総動員して研究を遂行。やっとの思いで原稿を作り上げ、ハリボテさながらの不出来な英文を指導教員に直していただいて投稿しました。
論文がアクセプトされた当初、アクセプトを『自分ひとりの力で成し遂げた偉業』と錯覚していました。D2になり、B4のころを振り返って見ると、【先輩や先生との三人四脚で成し遂げた共同作業】だったのだなと感じたのです。専門知識の皆無な私が査読に耐えうるデータを集められたのは指導教員のおかげ。自分が考えた実験方針案を適宜軌道修正してくださったから何とか形になりました。論文の書き方で困らずに済んだのは当時M2の先輩のおかげ。先輩も同時期に論文を書き進めており、LINEで「どうやって書いているんですか?」と尋ねさせてもらって幾らかヒントを得ました。
学術論文出版に必要なデータを学部生のうちに集められる私のような学生は稀有。B4までに出版できた学生さんには、論文を出せた学部生よりも「学部生を支えた先輩や指導教員」の方が凄いのだということを忘れないでもらいたい。学部生なんてまだまだひよっこ。周囲のサポートなしでは簡単に袋小路へと迷い込んでしまいます。意欲と体力だけを頼りに進む暴れ馬のような学部生を先輩方は手なずけて下さりました。我々学部生が気付かぬうちに研究を軌道修正してくれたのです。もしも学士課程のうちに論文を出版できれば、周囲の方々へ「ありがとうございました」と言葉で感謝を伝えましょう。間違っても調子に乗らぬように。周囲の絶え間ない支援への有難みを決して忘れず、支えてくれた周りの方へ恩返しするためにこれからも論文をたくさん書いてください。
研究テーマ運が良ければ案外いける
私が学部生のうちに英語論文を出せたのはラッキーだったから。指導教員からもらった研究テーマが偶然にも結果がをまとめやすかったおかげ。使用していた実験装置自体に新規性があったのです。その装置を使って行った実験は何もかもが新しく、得られた実験データのほぼ全てを論文に使用できました。しかも、装置の扱いは比較的簡単。手先が不器用な私でさえわずか半日足らずで扱えるように。唯一難しいのは、実験セルの作り方とデータの解釈ぐらい。難しいとはいっても努力で乗り越えられる程度の難度。要するに、私の学部時代の研究は、体力と根性さえあれば可能だったのです。私以外の学生でもあの装置を使えばB4のうちに論文を出版できたはず。
研究テーマとの相性や巡り合わせさえ良ければ、私のように論文を学部生のうちに出版することは容易。学部生のうちに論文出版できるテーマに取り組みたければ、研究室見学の際、論文を出しやすいテーマをいただけるよう先生に掛け合ってみて下さい。
論文執筆は学生本人のやる気次第
実のところ、学部生の多くは英語論文になるか/ならないかギリギリの量のデータを保有しています。卒論を書けるだけのデータがあれば、もうあと少しで英語論文を書けるだけのデータが揃うはずなのです。英語論文は卒論と同じ要領で仕上げられます。卒論よりもあと少しだけ多くデータを取り、かつもう少しだけ議論のクオリティを高めればOK。学部生のうちに論文を出版したければ、「あとひと踏ん張りで英語論文を出せるだけのデータが揃うぞ」と自らを奮起させなければなりません。学部生は博士学生とは異なり、英語論文を出さなかったからといって学位を貰えなくなるわけではありません。外部から何の強制力も無い状態で自らを奮い立てて英文を書かねばならないのです。今のご時世、パワハラを懸念して『論文を書きなさい』と言ってくれる人もおらず、自らやる気をかき立てて実験や論文執筆を頑張る必要があります。
論文執筆は学生個人のやる気次第。やる気だけではどうにもならないけれども、やる気がなければ論文執筆のスタートラインにも立てません
【豆知識】学部生の間に論文を出せれば就活や学振DC1申請時にアピールできる
前述のように、AI技術発達の影響で英語論文を出す修士学生が急増中。十年後には修士課程で英語論文を出版するのが当たり前な世の中になっているかも。私のように学部生の内に論文を出版する学生も増えてくるでしょう。しかし、修士学生ほどは論文出版達成者が増加しないと考えます。学部生が論文を出すには「研究テーマ運」と「やる気」の両方が不可欠。この二つはなかなか揃いません。私にこの二つが揃ったのは奇跡としか言いようがありません。
逆に考えると、もしも学部時代に論文を出せたら他の学生との強烈な差別化を図れます。就活ではガクチカ [学生の間に力を入れて取り組んできたこと] に研究を使えるでしょう。学振DC1へ申請する時には自身の研究遂行力のアピール材料になるかもしれません。自分を大衆の中で目立たせるには何か突出した実績が必要。学部時代に英語論文を出版した実績は、今後、上述した場面以外でも様々なタイミングで貴方の存在感アップに貢献してくれるでしょう。
最後に
学部生が国際ジャーナルに論文を出版することは、確かに稀少な実績ではあります。ただし、それは学生個人の能力よりも、「周囲のサポート体制」と「研究テーマとの相性」と「自身のやる気」に大きく依存します。研究テーマ運に恵まれた方はもっと実験を頑張りましょう。やる気に満ち満ちている方は、論文出版に少しでも近づく研究のやり方を模索してみて下さい。B4までに論文出版した実績は、就職活動や学振DC1申請など、将来的なキャリアにおいて強力な差別化要因に。ただし、論文を出版できたとしても、それは指導教員や先輩方の献身的なサポートがあったおかげだということをくれぐれも忘れずに。
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