19~22日:学生時代最後の学会は、全てが始まった場所「京都」
19日:移動日
前夜から今朝にかけて大雪が降った。たった一晩で一面が銀世界に。秋が冬将軍の暴力に負けて屈した瞬間だ。11月末ぐらいまでは粘ってくれるかと思っていたけれども、多勢に無勢、冬には敵わなかったらしい。来年春までアスファルトの路面を見られないのではなかろうか。北大構内でのランニングも今シーズンはもう無理かな。
下宿から歩いて札幌駅へ。快速エアポートで新千歳空港に向かう。皆が礼儀正しく並んで待っている横から二頭の白髪BBAがスッと割り込んできた。「抜かすな、小汚いクソババアが!」と喝破してやりたいのを堪える。コイツらと同じ土俵まで降りる必要はない。黙って見下すぐらいでちょうど良い。BBAどもに列を譲ると見せかけ、リオネル・メッシのようなキレのあるフェイントをかけてBBAどもを追い抜いた。私より先に乗ろうとするBBA二頭を肩と荷物でブロック。フィジカルで相手をグイッと押しのけた。驚嘆する相手の目を見つめてニヤッと笑って溜飲を下げる。最近の老人には品性がない。こんな奴らのために高い年金保険料を払わねばならぬのかと思うと眩暈がする。
新千歳空港には何十軒ものレストランが。海鮮や肉料理、ラーメンにチャイナ料理など、北海道内のどのフードコートよりも多彩なラインナップを誇る。全てのレストランを見て回るだけで優に一時間を超える。お店の料理がどれも美味しそう。ショーケースをたたき割り、中へ飾られているレプリカに前歯損失覚悟でガブッとかじりつきたくなる。検討に検討を重ね、検討を加速させた挙句、どのお店に入るか決められなかった。新千歳へ行くといつもこうなる。優柔不断な自分へこんなにも多くの選択肢を見せつけたらダメに決まっている。
新千歳で何度目かのはなまるうどん。牛肉おろしぶっかけ (冷・中)を注文。家から持ってきたゆで卵と柿をセットでむしゃむしゃと食べる。さすが、うどん屋さんのうどんは美味しい。いつもスーパーで買って食べている冷凍のうどんとはコシが段違い。できればもう少し安く食べられればよかった。うどん一杯で900円近くも払うのは少々気が引ける。
食後の腹ごなしに空港内を散歩。連絡通路を通って国際線ターミナルを目指す。
途中、ロイズのお菓子工場の前を通った。超高速でお菓子をパッケージに詰め込む機械をボーっと観察。自分も来年からはメーカーの工場で歯車として働くのか。個性よりも能力の発揮を求められ、時間と労力を捧げる代わりに給与を受け取るマシーンと化す。考えれば考えるほどに虚しくなってくる。個性を発揮する場の極致ともいえる博士課程の次が工場だなんて。別に働く行為自体が嫌なわけではない。歯車としてみなされるのが嫌なだけ。自分にしかない強みを徹底的に磨き上げるしかない。会社から「思う存分働いてくれ!」と頼られる存在になってひと暴れしてやろう。
そんな妄想を膨らませていたら国際線ターミナルに着いた。電光掲示板には、これからアジア諸国へ飛び立つ飛行機の便名が。自分が行ってみたいのは東南アジア。春休みにはマレーシアかインドネシアへ行ってみたい。残念ながら、千歳から東南アジアへの直行便は無さそうだ。羽田か成田かその他の基幹空港へ行かなきゃ希望地へのフライトは叶わないらしい。就職前の一か月ぐらいはちゃんと旅行したい。就職してからも連休を有給でサンドイッチして長期休暇を拵えて海外へ行きたい。
今回は京都での学会発表。千歳から搭乗するのは伊丹行きのANA。京都にも一か所ぐらい空港を造ればいいのに。京都市内に空港があれば府民の暮らしは相当便利になるはず。鴨川にかかっている橋を全て壊し、鴨川へ水上着陸するルートはどうだろうか。大丈夫、ハドソン川で前例はある。パイロットの皆さんに猛訓練を積んで頂ければ着陸はどうとでもなるだろう。あぁ、逆噴射のたびに川の水がそこら中へ飛び散ってしまうか。いや、そもそも鴨川空港からどう離陸するんだ?だいたい、川の幅が狭すぎる。着陸のたびに両翼が河岸に当たってボロボロになってしまう。
伊丹便は満席に近い予約状況。搭乗カウンター前の長蛇の列に並び、肩をすぼませて機内へ入ってプレミアムクラスの人間の脇を通る。幸いにも自分の隣は空席。おかげで両側のひじ置きを使って楽に寛がさせてもらえた。近くに座っていた赤ちゃんもおとなしかった。飛行機で飛ぶ夢を見ていたのだろうか、スースー寝息を立て、随分と気持ちよさそうに眠っていた。
プレミアムクラスの人たちを見てふと思った。あの座席と快活クラブとではどちらの方が快活だろうか、と。
快活クラブのお部屋は個室。シートベルト着用の義務はない。足を余裕で伸ばせるスペースもある。おまけに好きなドリンクを飲み放題。プレミアムクラスの座席は快活クラブの個室幅よりも断然狭い。着席中は飛行機の揺れに備えて常時シートベルトを着けなければならない。飲み物だけは飲み放題といえども、他のプレミアムクラスメンバーの前で何遍も注文するのは気が引ける。あれっ、ひょっとしたらプレミアムクラスよりも快活クラブの方が快活なのではないか。高いお金を払ってプレミアムクラスのシートへ嬉しそうに座っている人が可笑しく見えてくる。いっそのこと、快活クラブのビルごと飛ばしてしまうのが良い。飛行機の最終形態は快活ジェット笑。シャワー付きのロングフライトなら、案外、ビジネスマンから人気が出ると思うのだけれども。自分が海外を飛び回る三菱商事の社員なら喜んで利用させてもらう。空の上で洗濯までできればもう何も言うことはない。
快活クラブの妄想をしているうちに着いた。伊丹は千歳よりも幾らか広い。羽田や関空よりは狭いけれども、元国際空港空港の面影を感じさせる堂々とした作りには威厳すら感じる。
伊丹からはまずホテルへ移動する。ホテルは京都ではなく大津にて予約。行楽シーズンの京都は宿泊費が高すぎる。何の変哲もないビジネスホテルでさえ一泊二万円以上も取る。おそらくインバウンド客向けの値段なのだろう。貧乏な日本学術振興会特別研究員向けの値段も設定してくれなければ困る。その点、大津ならぼったくり価格で泊まらなくて良い。大津から京都まではJRで10分。電車の往復運賃をプラスで払っても大津の方が余裕で安く済む。
伊丹から蛍池までモノレールで移動。三分ほどの空中散歩を楽しみ、名残惜しく降りて阪急へ乗り換え。普通列車で大阪梅田を目指す。後に来る特急よりもこちらの方が早く梅田へ着く。車内には目の前にジョニー・デップ似の外国人が。奥さんと思われる方はエマ・ワトソン似。一瞬、本当に本人らかと思った。ジョニーの方が急に鼻をほじり出し、鼻くそを食べ始めたので人違いだったと分かった。あんなに堂々と鼻くそを食べる大人を初めて見た。子供なら分かる。私も昔はよく食べていた。大人の鼻くそ摂取はなかなか衝撃的。学会発表の前に関西の洗礼を受けた。
阪急梅田駅からJR大阪駅へ。阪急百貨店に見とれて写真を撮った所、ついつい方向感覚を失って行き先が分からなくなった。5分ほど彷徨って大阪駅へのルートを発見。梅田駅はいつ行っても道に迷う。聞くところによると、梅田の地下街はもっとえげつないらしい。方向音痴の自分が入ったらもう二度と地上へ上がってこられなくなりそう。探検はお預けだ。梅田に詳しい地元民を引き連れて行かなきゃ。
ちょうど目の前に来た快速で大津を目指す。大阪から大津までは50分と少々。茶紫色なシートが『JR西日本!』という感じ。実は、広島エリアを走る電車のシートも同じ色合いだ。来年からは家と会社の間を電車で行き来する。平日は茶紫色のシートを嫌でも毎日見るだろう。札幌暮らしの今はまだ、このシートを見るだけで心が落ち着いてくる。来年、会社勤めを始めて以降、茶紫色を見るだけで会社の記憶が蘇ってきてサザエさん症候群を誘発するのではないかと懸念している (多分大丈夫だろうけれども)。
細い路地を抜けてホテルに着いた。今回は東横イン琵琶湖大津へ四泊お世話になる。到着時刻は午後三時。札幌の下宿を出てから7時間で到着。遠かったなぁ。ようやくたどり着いた。流石に関西は銀世界ではない。アスファルトの露出した道路を歩けて何だか安心した。
チェックインは無人カウンターで行うらしい。個人情報を人差し指でポチポチ入力。職業欄には”公務員”と記した。何を隠そう、私は日本学術振興会特別研究員DC1。今回の学会出張は日本学術振興会特別研究員DC1としての公務。公務員を自称するのもあながち間違いではない。間違っているのかな。いや、間違ってはいない。我が入力情報を見たフロントのお兄さんが一瞬ニヤっとするのを見逃さなかった。「コイツ、ホンマに公務員か笑?」と今にも吹き出しそうな顔を浮かべている。おい、吾輩をバカにしたら公務執行妨害だぞ。こっちは国家公務員だ。偉いだろう? …うん、全然偉くない。
部屋への入室は16時から可能らしい。入室OKまでまだ一時間近くある。少し観光でもしておこうかな。フロントへ荷物を預けて散策に出る。
行き先は近江神宮に決めた。近江神宮は滋賀県随一のパワースポット。何でもかるたの発祥地らしい。映画「ちはやふる」の舞台にもなったそうだ。マジでどうでも良いが、私はかつて、映画のちはやふるに出演した松岡茉優さんの大ファンだった。最近ガッキーへハマる前までは まゆまゆさん に長らくハマっていた。
ホテルから歩いて京阪電鉄の駅へ。近江神宮までは京阪で五駅。途中、三井寺や大津京など、歴史マニアの血が騒ぐ駅が。こんなに由緒ある景勝地が密集しているだなんて凄い。気になる所へイチイチ降りていては目的地に辿り着かない。途中下車したい衝動をグッと堪えて近江神宮前駅まで乗った。
近江神宮まであと少しの所に”宇佐八幡宮”を示す石柱があった。「もしや宇佐八幡宮神託事件の宇佐八幡宮か?!」と興奮して寄り道を決意。本殿まではとんでもない傾斜だった。つづら折りになって延々と続く急勾配にはつい音を上げてしまいそうに。歴史的な事件の真相を知るにはこんな所で諦めるわけにはいかない。和気清麻呂の魂を身に宿せ。天皇になる野心に満ちた道鏡から皇統を守った清麻呂はこんな坂などヘッチャラだったはず…
坂を上り切って見えてきた本殿は、山川出版の教科書で見た宇佐八幡宮とは似ても似つかぬもの。スマホで神託事件について調べてみると、宇佐八幡宮は宇佐八幡宮でも”大分の”宇佐八幡宮が舞台だった。どうやらとんでもない勘違いをしでかしたらしい。道理で参拝客が一人もいなかったワケだ。だからといって本殿の前でUターンして引き返すのも神様へ失礼。賽銭を投げて誤解を謝罪。今度こそは大分の本家の方へ参拝すると決意して下山。
坂を下って近江神宮へ。鳥居は修繕中。少し残念な姿だった。境内はスカッとして清涼な雰囲気。伊勢神宮の外宮を歩いている最中みたいに胸がすいて良い気分になった。神社へ入る前と後とでは頭のシャキッとし具合がまるで異なる。神様って本当にいるのだろうな。どんな所でも神様が見ているから悪い行いをしてはいけない。
近江神宮はどことなく鹿島神宮に似ている。楼門といい、本殿の威厳といい、武骨な感じが漂っている。自分が好きなのはこういう感じの神社。優しさよりも厳しさでもって迎えて下さった方が”頑張らなきゃな”という気分になれる。近江神宮で祭られているのは天智天皇。中臣鎌足と一緒に蘇我氏を倒して大化の改新を成し遂げたお方。白村江の戦いでは負けてしまったけれども、この人の旗振りで九州の防備が強化されていなければ文永の役で元軍に負けていた可能性も。天智天皇のおかげで今の日本がある。命懸けで日本を守って下さった英霊へ感謝の念をささげた。
ホテルに戻ってチェックイン。13階のシングルベッドルームへと入室。自分の下宿よりも数段過ごしやすい。布団はフカフカ、Wi-Fiは爆速、お風呂は広々、おまけに冷蔵庫まである。ホテルの各部屋へ平然と冷蔵庫が置いてあるだなんて東横インは神。我らがかめ王国にはD2の8月まで冷蔵庫が無かったというのに笑。部屋からの景色も美しい。住宅街と路面電車が、それに奥の方へ遠慮しがちに琵琶湖が姿を見せている。こういう所に住んでいれば、自然と情緒が育まれて美的センスが上がるだろうな。大津に短歌の名手が多く生まれたのにも納得できる…
ついでに自分も何首か読んでみるか。ひょっとしたら令和の藤原定家に、いや、性別すら超越して小野小町になれるかもしれない。
北国の 朝は早くも 冬となり
秋の気配は 夢のごとくに
雲の上 贅沢うたう 客たちよ
快活クラブの 自由知らずや
旅の日の 終わりの刻は 静かにて
琵琶湖のみなもに 思いめぐらす
何だか品がないな。もうすこし古風な感じで仕上げてみるか。
一夜にて 冬の使いは 来りけり
秋の彩も かすみゆくなり
高き椅子 誇らしげなる 人みれば
地にて憩う 楽しさぞ知る
旅の日の 終わりを告ぐる 琵琶湖べに
水面は清く 心すむなり
自分の中には厳格なマイルールがある。【外食は一日に一度まで】。二度も外食すれば食費が膨らみすぎる。緊急事態をのぞき、外食回数に制限を設けて節約を心掛けている。今日は昼にはなまるうどんへ行った。夜は外食以外のモノを食べねばならない。ホテルの近くにスーパーを探したが、ちょうど良い距離の所にはなさそうだ。仕方がなくローソンで妥協。おにぎり、サラダチキン、それにお好み焼きを買った。
広島人として、「広島」お好み焼きと書いている点には少しカチンときた。何じゃ、「広島」って。お好み焼きに広島もクソもないじゃろが。お好み焼きは、麺のはいった「普通」のお好み焼きか、麺の入っとらん「関 西 風」お好み焼きの二種類しかないんじゃ。広島は余計じゃ。消しといとくれ。まぁ、広島”風”と書いとらんだけでもマシか。広島”風”と書かれたが最後、お好み焼きを店員の顔に塗りたくって鼻の穴へオタフクソースをぶち込んじゃるってんだ。
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