社会人になってから気づいたことがあります。専門知識だけでは、まったく足りないのです。
私は大学院で電気化学を専攻し、博士号を取得しました。研究者としてそれなりに専門性を磨いてきたつもりです。ところが企業で研究開発に携わるようになると、専門知識だけでは乗り越えられない壁にぶつかりまくりました。会議ではマーケティングの話が飛んでくるし、経営戦略の議論にも駆り出される。白衣のまま会議室に放り込まれて、求められるのは化学の知識ではなく教養だったのです。
この記事では、文系・理系を問わず、大学生の間に身につけておきたい基礎教養について書いていきます。大学時代に教養をしっかり築いておけば、将来の選択肢は驚くほど広がるはずです。
かめそれでは早速始めましょう!
文学作品を読もう


大学生になったら本を読んでください。ビジネス書ではありません。古典的な文学作品を読んでください。こう書くと説教くさく聞こえるかもしれませんが、もう少しだけ付き合ってください。
文学作品を読む最大のメリットは、表現力が鍛えられることです。優れた作家の文章に繰り返し触れていると、自分の考えを相手に伝える力がじわじわと底上げされていきます。伝える力は、論文を書くときにも、上司にメールを打つときにも、恋人に謝罪文を送るときにも効いてくるでしょう。
おすすめを一冊挙げるなら、夏目漱石の『こころ』です。百年以上前の小説ですが、人間の孤独や葛藤の描き方が恐ろしいほど現代的で、読むたびに新しい発見があります。漱石のすごさは、登場人物の感情を直接書かないところ。何気ない会話やちょっとした仕草の中に心理を滑り込ませる。会話や仕草で心理を語る表現に触れておくと、自分の中のもやもやした感情を言葉にする力が育ちます。
海外文学なら、ドストエフスキーの『罪と罰』をおすすめします。人間の心の中にある善と悪について、容赦なく描かれていて、ページをめくる手が止まりません。ただし注意点がひとつだけ。ロシア文学あるあるですが、同じ人物に愛称やら父称やらが複数あるので、初見だと誰が誰だかわからなくなります。隣に筆記用具とメモ帳を用意してから読み始めてください。
文学で養われた感性は、様々な所で効果を発揮します。私自身、研究論文を書くときに漱石から学んだ”表現の引き算”が役に立ちました。複雑な実験結果をどう伝えるか悩んだとき、あえて書きすぎないことで読み手の理解が進むという経験をしたのです。また、人の心理への解像度が上がると、人間関係もスムーズになるでしょう。先輩が本当に言いたいことを読み取ったり、後輩が抱えている不安に気づけたりします。
理科の基礎を学び直そう


文系の方はここで逃げないでください。大丈夫です。微分積分の話はしません。
おすすめしたいのは、高校理科基礎の学び直しです。物理・化学・生物・地学と4つある基礎科目の入門書をパラパラとめくるだけで構いません。たったそれだけで、見える世界がかなり変わってきます。
なぜ理科の基礎が必要かというと、騙されにくくなるからです。
世の中には怪しい商品があふれています。飲むだけで痩せるサプリとか、身につけるだけで肩こりが治るネックレスとか、置くだけで空気が浄化される謎の石とか、それはそれは素晴らしいものが盛りだくさん。怪しい商品を目にしたとき、「ちょっと待てよと立ち止まれるか」どうかは、皆さんの科学リテラシーにかかっています。理科基礎レベルの知識があるだけで、効能のうさんくささを見抜けるようになるのです。
効果のないサプリに毎月3,000円払い続けたら、年間で36,000円。四年間なら14万円以上。理科基礎の参考書は四冊買っても数千円ですから、余裕で元が取れるのではないでしょうか。
もうひとつ大事なのが、理科基礎レベルの知識が最先端テクノロジーを理解するための土台になることです。
最近、SNSでは連日、AIや宇宙開発のニュースが流れています。皆さんが目にする最先端の技術も、根幹部分には高校理科があるのです。最低限基礎さえ分かっていれば、新技術が登場したとき、サッと本質をつかめるでしょう。逆に、基礎教養がなければ、バズワードに振り回されるだけ。時代の波に乗るためにも、沈まないようにするためにも、理科基礎レベルのサイエンスリテラシーは欠かせません。
日本神話に触れておこう


突然ですが、皆さんは日本神話をちゃんと読んだことはありますか。国生みの物語とか、天照大御神の天岩戸隠れとか、名前だけは聞いたことがあるかもしれません。しかし、実際に中身を読んだ方は少ないのではないでしょうか。私も大学に入るまでは、古事記を読んだこともありませんでした。高校で習った記憶もなければ、家庭で話題になったこともありません。
古事記を読んでみて驚きました。神様たちが、あまりにも人間臭いのです。嫉妬するわ、怒るわ、拗ねるわ、逃げるわ。”神話”というから荘厳な話ばかりかと思いきや、人間味あふれるエピソードが満載です。
冗談はさておき、日本神話を学ぶ本当の意義は、日本人の価値観のルーツを知ることにあります。歴史学者トインビーの言葉を借りれば、神話とは、民族のアイデンティティの核です。私たち日本人は、自然との調和を大切にし、和を重んじる精神を保ってきました。我々が当たり前だと思っている価値観の原型は、実は何千年も昔、神話の中にもう描かれていたんですよ。
昨今、グローバル化が進んでいます。国境の壁が低くなり、外国との交流もますます盛んになりました。こういう時代だからこそ、自分たちの根っこを知っておくことが大切になります。
世界に出ると、「あなたの国はどんな国ですか」と問われます。こういうシーンで日本文化をちゃんと語れるかどうかは、大きな差になるでしょう。語学力は多少低くてもいい。表現がイマイチでも内容が伴っていることが重要なのです。どれだけペラペラ英語を話せても、内容が軽薄であれば、相手からの尊敬は勝ち取れません。
グローバル時代とは、アメリカを理想としたり、個性を失ったりすることではありません。むしろ、自分たちらしさをしっかり持った人や組織が強くなる時代のことです。「我々らしさって、何なのだろうか」と考える出発点として、日本神話はこれ以上ない教材になります。
日本の歴史を学ぼう


歴史を学ぶ意義について、よくある誤解を先に解いておきます。歴史は暗記科目ではありません。年号と人名を覚えるだけの勉強ほどもったいないことはないのです。
歴史は、人間がいつの時代も同じようなことで悩み、同じような失敗を繰り返していると教えてくれます。権力争いも、裏切りも、同じパターンに基づいて為されてきました。平安時代の宮中政治と現代の社内政治は、舞台装置が違うだけで、構造は酷似しています。
歴史はまた、社会変化の法則性も教えてくれます。技術革新がどう起こり、経済がどう動き、文化がどう栄え・衰えたのかを俯瞰するにつれ、過去の変化のパターンが自然と頭に入っていくでしょう。歴史を学べば、現代社会が今後どう動いていくかを読む力が高まります。
そして、歴史を学ぶ最大の魅力は、決断の追体験ができること。歴史を動かした大事変の当事者になりきって”自分ならどうするか”と思考を巡らせられるのです。教科書に載っている偉人たちも、何らかの決断を下した瞬間、私たちと同じように胃が痛かったはず。限られた情報しかない中で、どちらに進むべきか必死に考えたのでしょう。先人たちの判断と結末を追いかけるなかで、たくましい意思決定力が育まれていきます。
日本には二千年以上続く歴史があります。ひとつの国の歩みを通じて、人間と社会の普遍的真理に触れてみてください。
まとめ
大学生のうちに触れておいてほしい教養の柱は、以上の四つです。
もちろん他にも学ぶべきことはいくらでもあります。ただ、まずは四本柱から始めてみてください。文学・理科・神話・歴史の教養が積み重なると、物事を複眼的に捉える力が自然と身についていくでしょう。
大学時代は、専門外の知識をたっぷり吸収できるラストチャンス。会社員になると、まとまった学習時間を確保するのが本当に難しくなるんですよね。時間がある今のうちに幅広い知識に触れておけば、きっと将来の自分が助かります。




















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