試験2日目
起床~試験開始

試験二日目はアラームの爆音で目を覚ました。時計を見ると5時55分55秒。デジタル表示の5:55:55を見た瞬間、「郷でーす!」とスーパースターの物真似をかましていた。私のラッキーナンバーは5。前日の最悪な寝起きとは打って変わり、最高の気分でベッドから跳ね起きた。
前日やらかした失敗は取り消せない。しかし、勝負はまだ決していないのだ。たとえ0.1%、いや0.001%でも合格の可能性があるなら、そこに己のすべてを懸けたい。京大に対する四年間の想いを、このまま一方通行で終わらせないぞ。自分に失うものは何もない。試験終了と同時に果てるつもりで、死闘を繰り広げる覚悟を決めた。
布団を整えてシャワーを浴び、寝癖を直して服を着る。”絶対合格してやるんだ”と心の中で念じながら、下階の朝食ブッフェ会場へ向かった。
前日は周囲の受験生のオーラについ怯んでしまったが、今朝はそのオーラを突き破って強い気持ちを保っていられた。食べ物の味をまるで感じなかった昨日とは対照的に、野菜やお米が実においしく感じられる。同じメニューなのに昨日と今日でここまで味が変わるのだから、人間の味覚は精神状態に完全に支配されているらしい。今日は肩の力が抜けていい調子で、何かいいことがありそうな予感がした。
部屋に戻って荷物をまとめ、チェックアウトを済ませて京大へ。目の前にそびえ立つ京都駅を眺めながら、今日は笑って広島に帰れるといいな…とぼんやり考えていた。
試験会場の開場とほぼ同時刻に農学部棟へ到着し、階段を昇って教室へ。持参したシステム英単語と京大英語25か年をパラパラと流し読みし、口パクで英文を黙読して、脳と血の巡りを活性化させておいた。
3教科目はポイントゲッターの英語。英語には国語と同じぐらいの自信がある。ここでいい流れを作って、最後の理科に弾みをつけたかった。
3教科目:英語

問題冊子を開いた瞬間、度肝を抜かれた。
京大恒例の和文英訳が、なんと自由英作文に変わっていたのである。この年が自由英作文の導入初年度だった。おまけに自由英作のテーマがさっぱり分からない。積読についての意見を求められたのだが、そもそも”積読”って何なのかが分からない。人生で初めて聞いた言葉だ。何だよ、積読って。知らんがな。こりゃどうにもならん。
とはいえ、勝負を投げ出すわけにはいかないから、とりあえず回答できそうな英文和訳から順に進めていった。中三の頃からトレーニングを積み重ねてきたおかげか、英文和訳をかなりスピーディーに処理でき、事前に考えていた時間配分の8割ほどでフィニッシュ。度肝を抜かれた英作文に多めの時間を残すことができた。
私のおぼろげな記憶では、2016年の京大英語の英作文には以下の設問があった。
- 積読とは何か、外国人に分かりやすく説明する問題
- 積読に関する受験生の意見を問う問題
繰り返すが、積読なんて言葉は、聞いたことすらなかった。言葉の定義を聞かれてもこっちが聞きたいし、積読をどう思うかと問われても、こっちが教えてもらいたいぐらいだ。
正直、何も分からないのだけれども、白紙で出すのは回避したい。あーでもない、こーでもないと10分ほど迷ったのち、積読の意味を自分で勝手に定義してしまうことにした。めちゃくちゃな内容でも何か書いて出せば、採点官の先生に面白がられて、1点ぐらいは貰えるかもしれない。そんな淡い期待を抱いて答案用紙にびっしりと英文を書き、ペンを置いた。
手応えはそんなに悪くなかった。自由英作文の結果次第では、自己ベストの6割超えも期待できそうだった。
英語は200点中115点だった。
昼休み

昨日と同様、北部キャンパス内を散歩しながら食事を摂ろうと思っていたのだが、席を立とうとした次の瞬間、京大工学部を受けていた高校の知り合いからLINEで「時計台前で話しよう!」と連絡が入った。誰かと話せばいい気分転換になりそうだったので「いいよ!」と返信し、待ち合わせへ向かった。
クスノキの下で待っていると、彼がやって来た。試験の出来を聞いてみたところ、自分とだいたい同じ状況だった。国語と英語の手応えは上々で、数学では仲良く大撃沈。合否は理科次第だろうと意見が一致した。「お互い頑張ろうな!」とエールを送り合った。他にたわいもない話をしてから、それぞれの試験会場へ戻った。
最終科目の理科は長丁場で、180分間もある。3分で完成するペヤングカップ焼きそばを60杯も作れる計算になる。試験問題のボリュームもたっぷりで、180分間エンジン全開で駆け抜けなければ全問解き切ることさえ覚束ない。
カフェイン入りのエナジージェルを一本摂取して頭を覚醒状態にし、手持ちの問題集を流し読みして頭を理科モードへ最適化した。京大生になれるか否かは、理科の出来にかかっている。死力を尽くそう。倒れてもいい。絶対に勝つ。最後の最後まで、目の前の一点をかき集めろ。
最終科目:理科

理科では6割を目標に据えていた。物理・化学ともに6割で、200点中120点以上を取る算段だ。
私の胸算用では、二次試験で340点前後あれば受かる計算で、それまでの手応えはざっとこんな具合だった。
- 国語:5割前後?(50点)
- 数学:3割あるかな…(60点)
- 英語:5割〜6割の間??(115点)
理科で6割、つまり120点前後取れれば勝てると踏んでいた。合格が射程圏内に入ってきたと思うと、気分が高揚してくる。ミスさえ抑えれば手が届く。注意深く、かつ大胆に攻めよう。
物理に着手すると、心穏やかに問題を解き進めることができた。ところが、この年の物理はどうやら難しかったらしく、大問3つとも半分ぐらい解き進めたあたりで行き詰まってしまった。粘っていてもラチが明かないので気分転換として化学に取り掛かると、計算問題や構造決定をスイスイ解き進められ、どうにか8割ほど解答できた。
試験時間はまだ30分ほど残っている。一点でも多くかき集めるべく、物理に戻り、残りの問題に再挑戦した。
物理・化学の出来はそれぞれ3〜4割と7〜8割ぐらいの感触で、合計で6割に届くか届かないかのラインである。合否も五分五分かもしれない。ただ、前日までの絶望的な状況を思えば、よくぞここまで巻き返したなぁと、少しだけ自分を褒めてやりたくなった。
自分の合格を祈りつつ試験官に答案用紙を預け、試験会場を後にした。
理科は合計で120点前後の成績だった。(正確な数字を覚えていないので、アバウトな表現で失礼)
広島へ帰還

疲労困憊で出町柳から京都駅へ向かい、新幹線のチケットを購入して広島・博多方面のホームに立った。新幹線は受験生で非常に混雑していた。ケチって自由席券を買った私は出入り口付近で立ったまま新大阪まで移動するハメになった。節約は美徳だが、この日に限っては素直に指定席を取るべきだった。
ようやく椅子に座って一息つくと、解放感で頭がフワフワしてきた。気が抜けたせいか眠気が一気に襲ってきて、再び目が覚めた時には、広島の隣駅・東広島まで迫っていた。
あぁ、終わった。やれることはやったかな。神様、お願い。合格させて。もう一年なんて耐えられないから…
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