こんにちは!札幌と筑波で電池材料研究をしている北大化学系大学院生かめ (M2)です。2022年9月、M2の秋に日本学術振興会特別研究員DC1 (通称『学振DC1=がくしんディーシーワン』)の内定を掴み取りました。
所属研究室初の学振DC1内定者ということで歴史を作れて嬉しい思いはありました。しかし、内定する前は学振DCに関する情報をほとんど得られず、申請時にめちゃくちゃ苦労させられ大変な思いをいたしました。
そこでこの記事では、私みたいな情報弱者を一人でも多く助けるべく、学振DCに関する様々な情報をQ&A形式で書いていきます。学振DCに関する情報を少しでも多く集めたい方や、そもそも学振DCって何?知らないんだけど…という方でも理解できる内容なので、関心のある方は是非最後までご覧いただければと思います。
それでは早速始めましょう!
学振DCとは?
そもそも学振DCとは何ですか?
まず”学振”というのは”日本学術振興会”の略称です。学振が博士課程の学生(Doctor Course)を支援するプロジェクトなので、『学振DC』と呼ばれています!
では学振DC”1”っていうのは…?
学振DC1は、博士課程1年次~3年時の3年間を日本学術振興会に支援して頂けるものです
学振DC1があるならDC”2”もあるんですか?
はい、あります。学振DC2に関しては、内定を得た時期によって支援期間が
①博士2年次~3年次
②博士3年次~ポスドク1年目
この2パターンに分かれます
学振DC3はないんですか?
ありません。学振DCに関してはDC1とDC2の2パターンしかありません
ちなみに先ほどの②のケース(支援期間が博士3年次~ポスドク1年目の2年間の場合)で、ポスドクになったら学振DCの呼称も変わるんですか?
変わります。博士3年次までは学振DC、ポスドク1年目からは学振PD (Post Doctor)と呼び方が変わります。学振DCから学振PDになると給料も7割ぐらい上乗せされます。支給金額に関しては後の章にて詳しく解説していきますね^ ^
学振DCを得るメリット・デメリットは?支給額は?研究遂行経費って何?
学振DCを得るメリット
学振DCに内定したら何かいいことがあるんですか?
ありますよ^^
学振DCに内定すると、
①同世代で日本トップクラスの研究力を持っている証になる
②お給料を貰いながら博士課程で研究できる (就職した同級生を見て劣等感を味わわずに済む)
この2つのメリットを享受できます
まずは①について聞きたいのですが、学振DCに内定するのってそんなに凄いことなんですか?
凄いかどうかは主観が入るので断言することはできません。ただ、日本では博士進学する方が毎年15,000人近くいて[参考文献]、学振DC1の場合はそのうち700名、DC2でも1,000人しか内定を得られないということで、内定を得るためにはそれなりに厳しい競争を勝ち抜く必要があるのです
当然ながら博士進学者皆が学振DC申請資格を有しているわけではなく、学振DCの申請者数はDC1で4,000名弱、DC2でも5,000名程度、内定倍率は例年15~20%程度となっています。とはいえ、5人申請しても1人しか内定を得られないわけです。個人的には学振DCの内定を得るのは多少は凄いことだと感じますし、学振DC内定実績が研究遂行力の証にもなるかなと思っています
次に②についてなのですが、学振DCに内定するとどれぐらいお金がもらえますか?
月に20万円の研究奨励金、そして年間100万円程度の研究費を支援期間を通して支給して頂けます。学振PDの場合、月36.2万円の研究奨励金と年間150万円程度の研究費を頂けます[JSPSサイトより]
お金を貰いながら研究できるのって良いですね!
おっしゃる通りです。お金を貰えるおかげで金銭面の心配をせず研究へ邁進できますし、修士修了後に就職してお金を稼いでいる同期を見ても劣等感を感じずに済むのです
研究奨励金の20万円って、”手取り”で20万円なんですか?
いえ、額面で20万円です。どうやら昇給もしないようです。支援期間を通じて固定額の給与が支払われます。この20万円は給与所得となるため、源泉徴収で所得税や住民税が持って行かれてしまいます。それにプラスして国民健康保険料まで支払うと手取りは月16万円程度となり、そこから学費や生活費を捻出していくこととなります
”国民健康保険”ってことは、特別研究員さんはフリーランス扱いってことですよね。、、、アレ?なんでフリーランスなのに雑所得ではなく給与所得扱いなんですか?特別研究員さんの雇用主は誰ですか…?
特別研究員と学振の雇用関係はありません。だから本来は給与所得ではなく雑所得扱いになるはずですが、財務省(当時は大蔵省)が大昔によく分からない前例を作っちゃったせいで【雇用関係がないのに給与所得】という意味不明な事態となっています
何で雇用関係を結んでくれないんですかね…?
特別研究員と学振が雇用関係を結んだ場合、健康保険法に則り、特別研究員が支払うべき保険料の半分を学振が払わねばなりません。学振側が「そんなの払いたくないよぉ」と支出を渋った結果、今の形に落ち着いてしまったのではないかと存じます (註:真実は闇の中であります…)
月16万円でやっていくのはなかなか苦しそうですね…
そんな人のために【研究遂行経費】なる特別措置が設けられています!
研究遂行経費とは
何ですか、そのケンキュースイコーケイヒって…?
『研究遂行経費』とは、月20万円の研究奨励金のうち、6万円分を非課税扱いにして研究費に廻すことができる制度です。コレを使うと課税対象所得が20万×12=240万円から(20万-6万)×12=168万円となるため、納税額や保険料を年間で10万円ほど減らせるんです
えっ、でも月14万円(20万-6万)で生きていくのって少し厳しくないですか…?ホラ、学費も支払わなくちゃなりませんし…
研究遂行経費を申請すれば見かけ上の所得額が抑えられる (20万円→14万円) ため、大学の授業料免除申請に通る確率をアップさせられます。年間最大53万円もの支出を抑えられる可能性があるのです
なるほど!学費を払わなくても良いとなると生活がだいぶ楽になりますね♪
もし研究遂行経費を満額使い切れなかった場合、余ったお金はのちのち”追徴課税”といって課税の対象になっちゃいます。しかし、研究遂行経費を10~20万円程度使えば追徴課税額が減り、申請した分の元を取ることができます。そのため、学振DCに内定した多くの方は研究遂行経費を申し込んでいるみたいです
学振DCを得るデメリット
なるほど。
ところで、学振DCに内定するデメリットは何ですか?
もし学振DC内定前に奨学金かフェローシップ内定を得ていたら…?
学振か学振以外を辞退しなくちゃなりません[関連記事]。ちなみにフェローシップとJASSOの奨学金の併給は公に認められています。もし博士在学中に借りたJASSOの第一種奨学金が全額返済免除となった場合、フェローシップ(月15万円の研究奨励金)と奨学金返済免除額(月12万円程度)を足し合わせると(月27万円)学振の額面給与額(20万円)を余裕で越えてきます…!!!
え~!それでしたら、フェローシップとJASSO奨学金を併給した方がいいじゃないですか!しかも奨学金には税金がかかりませんし、手取りも納税額も併給者の方が断然得しているように見えちゃいます
奨学金を借りた人のうち、全額返済免除となるのは2割程度の人間だけ。残りの人は半額返済免除(全体の25%程度)か免除にならないかのどちらかとなり、学振の額面給与額と変わらないか(月21万円)それよりも低い水準(月15万円)で暮らすことになるのです
絶対に奨学金返済免除を勝ち取れる自信があるなら学振DCを蹴っても良いでしょう。しかし、(あんまり自信ないなぁ…)という方や(博士課程に入ってまで借金したくないなぁ…)という方は素直に学振DCを選んでおくのが無難かなと存じます
内定GETに実績は関係するの?
学振DCの内定を得るために研究実績は関係するのですか?
研究実績が全てだ!とまでは言いません。しかし、実績の影響が完全にゼロかと言ったらそのようなこともないかと存じます
Aさん、ちょっと一つ考えてみてください。もしAさんが審査員だとしますね。手元に①大量の研究実績が記されている申請書と②全く実績が記されていない申請書があった場合、Aさんならどちらの評点を高く付けたくなりますか?
まぁ、申請書の内容にもよりますが、私だったら実績がいっぱいあった方が (この人は優秀なんだろうな)とバイアスが入ってしまいます。きっと①大量に実績を重ねて来られた人の方に高得点を付けたくなるでしょうね
世の中の大半の審査員さんも同様の考えをお持ちなので、学振DCの内定を得るには少しでも研究業績が多い方が有利です
最近は学振から審査員さんへ「研究業績だけで判断しないように!」とのお達しが届いています。なので昔より研究業績の重要性は多少下がってきてはいます。しかし、申請書の内容と審査員の専門分野が必ずしもマッチしているわけではありません。申請書を読んでも「なんじゃこりゃ、さっぱり分からん…」と審査員さんがチンプンカンプンになる場合が往々にしてあるわけです。こんな時に頼りになるのは申請者の実績しかないのです。実績の多い・少ないで差をつけるしか他に方法がないわけです
研究計画が面白い/面白くないとか論理的だ/非論理的だというのは割と主観が入ってしまうから評価が人それぞれでバラけてしまいます。でも学会受賞数や論文出版数は”数”だから、他の申請者と比較・評価する際に主観を入れようがないんですよね
そう。だから研究業績で優劣をつけるのは公正なやり方だと思います。最も、コレでは博士課程入学後から異分野の研究テーマへ挑む人に不利な採点基準となるでしょう。実績オンリーで評価するのではなく、”研究計画”や”研究遂行力の自己分析”などその他の項目と合わせた総合的な評価が必要になってくるわけです
それで結局のところ、研究業績は学振DC内定GETに関係するんですね?
大いに関係あるのに違いありませんけれども、実績だけが全てじゃないよと注記しておきたいと思います
申請書ってどうやって書くの?申請時期はいつ頃?
申請書の書き方
学振DCの申請書ってどんな書式なんですか?
結構カッチリとした書式です。各項目で書くべきことは厳密に指定されていますし、”○○である”や”○○だ”などとお堅い表現を用います
私、今までそんな申請書だなんて一度も書いた経験がありません。どうやって書いたらいいんですか…?
私も学振DC1申請まで申請書なんて書いたことありませんでした。他の申請者さんもだいたい似たような状況だと思いますので、申請書執筆歴の浅さについてはさほど大事に捉えなくて構いませんよ^^
あ~、よかった…
申請書を作るとき、参考にした資料はありますか?
申請書作成の際に参考にしたのが
①指導教員や共同研究者さんが過去に記した科研費の申請書
②東工大の大上(おおうえ)先生が作成した学振申請書作成スライド
この2つになります。①は”そもそも申請書とはどのようなものか”といったおおよそのイメージを掴むために読み、②は”学振DCの内定を掴みやすい書き方とはどのようなものか”を知るために使いました
①は指導教員にお願いしたら見せてもらえるから良いとして、②のスライドってどこで入手できるのですか?もしかして入手にお金がかかる感じですか…?
いえ、それが無料なんです!大上尊師のご厚意によってネット上で無料で閲覧できます[2023年度申請用スライドのリンクへGO!]
なんて有り難いんでしょう…!
本当にそうですね。大上尊師には感謝しなくてはなりません。私の場合、スライドを片面4ページ・両面刷りで全ページ印刷し、申請書作成期間中はずっと手元に置いて重要事項の確認に用いていました。申請書を作り終えた頃には印刷した紙がボロッボロになっていましたよ
学振DCの申請時期
そういえば、学振DCの申請期間っていつ頃なんですか?
学振DC1もDC2も申請時期は共通していて、5月中旬から下旬に提出時期を迎えます。ゴールデンウィーク(GW)明け直後ではありますが、申請書作成年度はGWを返上して書類作成に追い立てられる日々になるでしょう
…つまり、学振DCの申請書に何か実績を書きたいと思ったら、GW明け直後までに実績を積んでおく必要があるってことですね
そういうことです。けれども、論文は査読中の場合でも”Under Revision”などと書けば実績にカウントできますし、申請書作成後に出る学会についても既に申し込みが完了していれば学会発表歴として記載できます
もし学振DC1へ申請しようと思ったら、M2の5月に申請するってことですよね?B4の4月に研究室へ入れば、配属から2年ですぐ申請。…全然時間がありませんね!
そうなんです。学振のことを考えると、もし少しでも博士課程進学に興味があればその旨を指導教員にお伝えし、学部生の頃から研究業績の積み上げを余念なく行っておかねばなりません。M1の前期からエンジンをかけ始めても1年では論文出版まで漕ぎつけられない場合があるため、学振DC1のことを考えれば早め早めに動き始めるのをオススメします
結局、学振DCの内定って運で決まるの?
ここまで学振DCについて色々教えてもらいましたけれども、結局、学振DCに受かるか受からないかって運で決まるものなんですか?「5人中1人しか受からない」と聞くとついつい(運要素が強いなぁ)と考えてしまいます…
もちろん運の要素もあるでしょう。いくら実績を積みまくって良い申請書を書いたとしても審査員のご機嫌如何で低評点を付けられる可能性がありますし、同じ申請カテゴリーに自分以上の実績強者が複数名現れると内定枠から溢れ出てしまいますから
てことはやはり、運要素が強いのですか…?
個人的には、運要素よりも努力でどうにかできる部分の方が大きいのではないかと考えます。
少しでも実績が多い方が有利と分かっているなら配属直後から実績作りを頑張れば良いんです。学会賞を受賞したければ、喉がかれるまで毎日プレゼン練習したりデザイン本を買ってスライドの作り方を勉強したりする努力も惜しまずやるべきだと思います
やれるだけやった。もうこれ以上頑張れない。”これ以上追い込んだら死ぬ”という所まで徹底的にやる。そこまでやって初めて「運」を云々できる次元に達するのです
なるほど…
サッカーでも似たようなことが言えます。PKを練習しもせずに「PKは運で決まる」と言っている選手を見たら、Aさんならなんて思います?
「せめてPK練習してから言わんかいっ!」って思っちゃいます笑。練習もせずにPKにチャレンジしたって成功するかどうか分かりませんから
けっこう辛辣ですね笑。学振DC申請書作成もそれと同じことが言えます。
申請書提出期限があらかじめ分かっていて、申請書が通りやすい条件もネット上でおおよそ分かっている。どうしても学振DCに内定したければ命懸けで研究業績を積み上げ、論理的で明瞭な文章を書く練習をブログでも立ち上げやってみればいい。そこまでやってようやく運に左右される領域へと達するのです
これまで馬術競技で国体優勝など8回の全国入賞を経験した私の感覚に依りますと、こうした勝負事ってだいたい努力9割:運1割で勝敗が決まるものなんです。結果を左右するのは9割の努力。それを100%やり切った上、努力するひたむきな姿勢や目標への一途な思いが勝利の女神を微笑ます運気を手繰り寄せられるのです
もしAさんが学振DC内定を狙っているようでしたら、自分の限界まで本気で研究に打ち込んでみるのを強くオススメしておきます。ただし、くれぐれも限界を超えて追い込まぬように。もし燃え尽きると今後の研究遂行が厳しくなって博士修了自体が危ぶまれますので、自分のキャパとよく相談して努力量を定めてみてください^^
はい、頑張ってみます!
最後に
学振DC1に関する様々な情報についてはコレで以上となります。
皆さんの学振関連の疑問解消に役立てたことを祈って記事を締めくくります。
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