【研究室生活体験記】ラボ配属から博士課程早期修了まで駆け抜けた五年間のハイライト

北大と国研で研究していた化学系大学院生かめです。博士課程を一年短縮して早期修了しました。

今日は、これまで八年間通ってきた北海道大学の卒業式。門出の日に研究室生活の総括を行います。右も左も分からぬ配属当初を起点とし、学振DC1内定、トップジャーナルアクセプト、博士進学、オックスフォード留学、挫折そして一年短縮修了まで駆け抜けた軌跡をご覧ください。

それでは早速始めましょう!

苦しみつつも英語論文出版でフィニッシュしたB4時代

話が違う

B2の12月、行きたい研究室が見つかりました。面白そうな研究テーマが見つかったのです。指導教員候補の先生も魅力的。ここへ行ったら面白い日々を過ごせるに違いないと直感しました。研究室配属は成績順に決まります。第一志望の研究室へ行くべく、学部の勉強へ真剣に取り組んでGPAを稼ぎ出しました。無事に第一志望の研究室への配属が決定。配属直前、先生とお話しして、やりたかった研究テーマをあてがってもらえることになりました。

配属が決まって先生の元へ。なんと、事前の約束とは違うテーマを渡されました。そう、私の行う研究テーマがいつの間にか変わっていたのです。私の希望するテーマは、同じ先生のもとに配属される同期に渡されました。まぁ、先生がテーマを取り違えたのはうっかりミスでしょう。当時は若干の吃音気味。声が出にくい体質だったせいで訂正しようにもできません。渡されたテーマを渋々受領。全く気乗りしない、最悪のスタートとなりました。

自分の想いは言葉にしなければ伝わりません。吃音だと文字通り『お話にならない』。絶対に吃音を直すと心に決めました。毎朝30分、本の音読を行い、発声能力の改善を図ったのです。また、「自分が貰うはずだったテーマをやることになった同期には負けないぞ」と誓いました。実験量でも、論文出版数でも、学会講演受賞数でも負けたくない。全てにおいて圧倒的な差をつけてみせる。

物事はそう単純には運びません。渡された研究テーマが絶望的に合いませんでした。超高精度の顕微鏡を用いた、手先の器用さが求められるテーマ。不器用で短気な自分との相性が絶望的に悪かったのです。3か月間、ほとんど毎日取り組みました。やればやるほど泥沼にハマっていって、しまいにはストレスで蕁麻疹が出るまでに。先生にお願いしてテーマを変えてもらいました。今度こそは希望のテーマが欲しい。しかし、渡されたのはまたもや別のテーマだった。

研究室を辞めようかと思いました。どうして同期より高GPAの自分がやりたい研究をやらせてもらえない? なぜ自分が不本意な思いをしなければならないの? 先生へいくら説明を求めても「まぁまぁ」となだめにかかられる。自分がワガママを言っているかのように扱われねばならぬのはなぜ? 頭がモヤモヤして何にも取り掛かる気が起こりません。

自分が悶着している間にも同期は実験を進めていきます。無邪気な顔で「いいデータが出たんだよね~♪」と言われ、あまりのやるせなさに一人で頭を抱えて落ち込みました。自分ができることといったら、貰ったテーマを進めて成果を出していくことだけ。泣く泣くテーマを受け入れました。新たなテーマで頑張っていこうと決めたのです。

今度のテーマに器用さは要りません。体力と”試行”力だけが求められる課題でした。脳筋の自分が一番得意な分野です。臥薪嘗胆。起死回生の一撃を放つべく地獄の底から再始動しました。

努力

周囲とついた半年分の差を埋めるべく、休日返上で努力を重ねました。

英語論文は一日10本読みました。翻訳ツールに頼ることなく、最初から最後まで読み通して自分の頭へ専門知識をインストールしたのです。目を使いすぎたのか、まぶたから膿が出てきました。だからといってやめるわけにもいきませんよね。目薬をさして目の調子を整え、作業を淡々と継続していきました。

アウトプット能力向上のため、趣味でやっていたブログ運営にも力を入れ始めました。研究では言語化能力が求められます。言葉にできなきければ何も始まりません。研究テーマ決めで苦い思いを味わった手前、論文執筆や研究に関する議論では辛い思いを味わいたくありませんでした。

私の新しい研究テーマは、筑波の国立研究所(国研)にて実験を行います。北大でできる実験はゼロ。論文執筆用の全データを国研滞在期間中に集め切る必要があります。ゼミや講義などのスケジュールを鑑みると、連続滞在可能は最長でも1.5カ月です。同期らは北大の実験室で一年中研究を進められるでしょう。自分は国研滞在中、それも平日だけしか研究を進められません。おまけに、あてがわれた国研の装置は既にほぼ壊れていました。OSはWindows XP。修理や交換の予定はなし。先生は私にどこまで理不尽を強いるつもりなの? 発狂寸前にまでメンタルが乱れました。

ここで少し発想を変えてみましょう。この環境で成果を出せたら凄くないか、と。限られた期間内で、ほぼ壊れた装置を駆使して、周りに誰も頼れる人がいない状況下で成果を出せたら大偉業。自分の実力を周りの人全員へ証明できるでしょう。先生を驚かし、同期の鼻を明かし、圧倒的な力をつけて大学卒業へ至るに違いありません。そうとでも前向きに捉えねばやっていけません。だっておかしいもん。明らかに不公平すぎて。かたや24時間・365日、恵まれた環境でやりたい研究を好きなだけできる人がいる。もう一方では、平日だけ、筑波でだけ、ほぼ壊れた装置で興味のなかった研究に従事している..

札幌滞在中は研究の下準備。専門知識の拡充を始め、実験計画の構築や先行文献チェックを行いました。筑波滞在中は実験一本。使用可能な時間を全て実験に注ぎ込んでデータ集めに奔走しました。休日に東京へ遊びに行くこともなく。息抜きをしている暇があったら、一刻でも早くデータを解析しきって次の実験プランを立てたかったのです。自分の持てる時間の全てを研究に捧げました。絶対に成果を出してやる。絶対にデータを持って帰って英語論文を書く。

努力の結果、B4の3月には国際誌にて筆頭論文を出版できました。研究室史上初のことだそうです。先生も先輩方も驚いていました。直属の先輩は「マジかよ…」と絶句しておられた。自分だけは全く驚きません。死ぬ寸前まで追い込んだのだから、それなりの成果が出て当たり前。成果が出ない方がおかしいでしょう。論文を書けるだけの努力を重ねた。それで論文を書けたのは当然の帰結。AはAである。AはBではない。ごく単純な矛盾律でした。

自分がこれだけ研究を頑張ったのは、修士進学後からは私が当初希望したテーマをやらせてもらいたかったから。先生に研究力とバイタリティーを猛アピール。論文出版直後に先生へ直談判して「テーマを変えさせてください」とお願いしました。なんと! 1秒であっけなく断られました。「最初から君の希望通りのテーマを渡してあげた。なのになんでグチグチ文句を言うんだ」と。スティーブ・ジョブズばりの現実歪曲フィールド。何が本当なのか、自分でも分からなくなってきそうでした。

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コメント

コメント一覧 (2件)

  • 6年前に学位を取った者です。
    調べ物をしていて偶然このブログを見つけました。とても楽しく読ませていただいております。
    様々な災難に見舞われたり、在学中にコロナ禍もあったなか、これだけのモチベーションを保っていて、本当に尊敬いたします。

    私はかめさんのように優秀な学生ではなかったのですが、
    同じく、進学する人が周りにいない環境だったり、
    余裕がなくて彼女にフラれたり、
    ボスとそりが合わない時期があったり、
    研究が嫌いになったり、
    いいジャーナルに載ったら周りの評価が変わったり、
    色々なことを思い出しました 笑

    そして、就職のために引っ越しした春先は、とても楽しかったのを思い出します。

    かめさんの益々のご活躍をお祈り申し上げます。

    • コメントありがとうございます。記事をご覧いただけて嬉しく思いました。
      皆さん、博士課程へ行くと、何かしらハプニングに遭遇するのですね。何事もなく学位取得まで至った人を見たことがありません…笑

      ただいま、つかの間の解放感を味わっています。五年ぶりに何もやることがない状態になって精神が落ち着いております^ ^
      来週から会社員生活です。もう少し休ませてくれよとは思いますが、また気合を入れて頑張っていくしかありません。

      応援のお言葉をありがとうございました。
      今後も頑張ります。会社も、ブログ執筆も、その他の趣味も充実させます!

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