北大博士課程を一年短縮修了した技術開発エンジニアかめです。
近年、JSTフェローシップをはじめとする金銭的バックアップの影響を受け、博士課程進学を考える学部生や修士学生が増えてきました。お金が無くて進学を諦めていた層がD進へ手が届くようになったのです。私自身もそのうちの一人。フェローシップに採用されたのがD進決断のラストピースとなりました。お金の心配をしなくて済んだおかげで安心してD進できた。お金は正義。お金があれば大抵のことはできますね。
修士課程に在籍する学生の九割は企業や役所へ就職します。博士課程へ行く学生は少数派。全体の一割も居ません。博士課程は特殊な場所。進学する前に様々な準備が必要です。M2冬から進学準備に着手しても間に合わないかも。M1前期から何かしらの準備を進めておくと良いでしょう。
ひと口に「準備」と申しましても(何を準備すればいいの?)と思いますよね。研究? お金? メンタルケア? 何の備えをすればいいの? この記事では、修士課程でやっておきたい博士課程進学準備を記しました。博士課程進学が決まっている方はもちろん、D進か就職かでお悩みの方にもピッタリな内容です。この記事を参考に、博士進学準備に取り掛かってください。

それでは早速始めましょう!
M1
M1の一年でやっておいていただきたいD進準備は以下三点↓
- 【通年】業績を集める
- 【夏】(必要があれば)就活する
- 【秋】博士課程進学を決断する
それぞれについて解説します。
【通年】業績を集める
博士進学を考える修士学生さんはM1から業績集めを意識してください。業績とは、研究を進める過程で得られる付帯物のこと。学術論文や学会発表歴、学会講演賞などを指します。本当は業績集めをB4の頃から始めてほしい所。意識するタイミングが早ければ早いほどのちのち有利になるでしょう。
業績集めが必要なのは、学振DC1に内定するためです。
学振DC1とは、日本学術振興会が新D1を月給20万円で三年間雇ってくれる制度。採用されればフェローシップよりも多額の給与をいただけます。さらに、学振DC1では、年額100万円の科研費まで支給されるのです。研究費は、研究関連の支出になら何だって使えます。研究試料を買ったり、学会出張交通費に充てたり、海外留学へ飛び立つ原資にもできたり。
学振DC1は倍率6倍以上の難関。採用されるには、高い完成度の研究計画書の作成が求められます。DC1申請書には自身の業績を記す欄が。業績が多ければ多いほど採用される確率が高まるでしょう。私自身、学振DC1に採用されました。内定時点で筆頭論文が2報、国際学会発表歴が2回、国内学会発表歴が5回、国内学会での講演賞をひとつ貰っていました。
学振DC1内定に必要な業績量の目安は申請区分によって異なります。論文を出版しやすい区分とそうでない区分との間では業績量を単純比較できません。以下では、私の所属する 化学系分野 に該当する説明を行います。
当サイト・札幌デンドライトでは、学振申請前に「三冠王」になろうと提案しています。三冠王とは、①査読付き国際学術誌への筆頭論文掲載、②国際学会での発表、③学会賞受賞の三業績を揃えた状態のこと。三冠王になれば高確率で内定するでしょう。私も三冠王。DC1に内定した別研究室の動機も三冠王。ネットで見かけた化学系学生の研究業績も三冠王。化学系や化学系に近い分野の学生は三冠王を目指してみてください。



論文出版が最優先。研究をまとめる過程で国内外の学会に何度か出て、なるべく質の高い講演を行い賞獲得を目指しましょう!
【夏】(必要があれば)就活する
博士課程進学を考えている人の多くは「修士就職」と「D進」の二択で迷っているはず。最初からD進一択の人などほとんどいません(居たら、その人は狂人です)。就職か、進学か。どちらを選ぶかで人生が激変しますね。スッキリするまで徹底的に考えてください。迷いに迷って選んだ道なら後で後悔しないで済みますから。
進路の分岐点で立ち往生している方に提案があります。就活、してみませんか? 就職するにせよ、しないにせよ、就活してみれば見える景色が変わってくるでしょう。就活にオススメの時期は夏。冬だとやや遅い。夏、他のM1に混じって就活してみるのを提案します。
私がどうして就活を推奨するか? 「博士課程になんか行くな」と遠回しに言っているのか?
就活を行うメリットは、就職後の自分をイメージできるようになること。会社で働くとはどのような感じなのか。会社内の雰囲気はどのような感じか。そもそも、自分に会社員生活は合っているのか。会社へ実際に足を運んでみればサラリーマンライフを具体的にイメージできるでしょう。大学の中に居ては会社員生活を想像できません。どれだけ頭を使っても空想が拡がっていくだけ。実際に行かなきゃ分からないことが多くあります。会社の中に自分が入ったときに己の中へどんな化学反応が起こるか注視しましょう。
最近はオンラインでの企業イベントも増えてきました。会社説明会なんかはほとんどオンライン実施ですね。
就職とD進で迷っているなら、会社のある現地へ行ってください。現地で複数日のインターンシップに参加しましょう。会社の中で社員やインターン参加者とたくさん話してください。周りと話せば話すほど企業生活のイメージが具現化します。インターンへ参加した皆さんは「会社員生活」と「研究室生活」を天秤にかけられるようになりました。就職するか、進学するか。就活後なら納得のいく選択ができるのではないでしょうか。
【秋】博士課程進学を決断する
就職か、進学か。決断の時がやってきました。
急がず、焦らず、慎重に決めてください。修士就職を選んでもOKです。進学したからといって偉いわけではありません。就職するからって偉くないわけでもない。「進学」を選んだ皆さんの勇気に敬意を示します。ともに茨の道を切り拓いていきましょう。当サイトが後押しします。
業績集めと同様、D進の決断時期も早ければ早い方がいいです。皆さんが博士進学に向けて準備できる期間を長く取れるから。指導教員側にとってもメリットがあります。研究にはそれなりにまとまった額のお金が必要。配属学生が早くD進を決めてくれれば、学生に研究をさせてあげるための研究費を用意する時間を確保できるでしょう。
私が博士課程進学を決めたのはM1の9月。夏に少し就活をやってみました。就職と進学を天秤にかけてみて、企業生活よりも研究室生活に魅力を感じてD進に舵を切ったのです。9月下旬に指導教員の部屋で先生に「進学します」と宣言。先生は「分かった。頑張ろうね」と応じてくださりました。年末年始に地元へ帰省しました。その際、両親にもD進を宣言。「やりたいようにやりなさい」と進学を後押ししてもらった形です。
M2
M2の一年でやっておいていただきたいD進準備は以下四点↓
- 【通年】業績を集める
- 【春】学振DC1に申請する
- 【秋】(DC1に落ちたら)JSTフェローシップや各種奨学金へ申請する
- 【通年】未発表データを取れるだけ取りためておく
それぞれについて解説します。
【通年】業績を集める
M2になっても業績集めを意識し続けてください。修士課程に限らず、博士課程進学後もずっと意識しておきましょう。
M2以降も業績集めを進めるべき理由は2つ。
ひとつ目は、学振DC1不採用時に備えて。
学振採用レースは難関。目指したからといって採用されるとは限りません。DC1に落ちてもD進は可能です。後述するJSTフェローシップで最低限の収入を確保できるでしょう。しかし、どうせならフェローシップよりも学振DCに採用されたい所。フェローシップよりも学振の方がいくらか高給だからです。学振DC1に不採用となった次の年はDC2に申請できます。DC2にこそは採用されるよう業績を集めておきましょう。
ふたつ目は、博士修了後の未来を見据えて。
博士課程修了後の進路は様々あります。大学で助教になる人もいれば、国内外の研究所で働く方もいらっしゃる。運と業績が良ければ正規職を得られるでしょう。大半のアカデミア志望者は数年間の任期制ポジションを転々とする生活に。終身雇用のポジションを得るには業績量が欠かせません。公募で応募してきた者のうち最も業績が秀でた者だけが正規職を得られるのです。修士のうちから業績を集めておけば周りよりも早く任期制生活を終えられます。不安定な期間をなるべく短くしたい方は業績集めを余念なく行いましょう。



博士修了後に企業へ就職する際も業績はあるに越したことはありません。業績量は研究力や真面目さのアピール材料として使えます
【春】学振DC1に申請する
博士進学者最大のイベントが学振DC1申請。当イベントに向けてこれまで準備を重ねていただきました。今こそ、その成果を発揮するとき。倍率6倍の狭き門を業績パワーでこじ開けてください。学振DC1の採用者数は年間700人。採用はすなわち、同学年の中でトップ層になった証。採用されれば研究者としての箔もつくでしょう。研究ポジションの公募や企業就活でも有利に働きます。
学振申請書は申請の三か月前までに作り始めましょう。研究計画書の構成や自己分析エピソード絞り出しにたっぷり時間をかけてください。
出来上がった申請書は様々な人に見てもらうのがオススメ。指導教員からは文章修正のアドバイスを受けましょう。先輩や同級生からは、自分の申請書の読みやすさを教えてもらいましょう。学振の申請書は、申請者の皆さんとは専門分野が異なる現役研究者が閲覧します。彼らの目にどう映るかが重要。専門分野の門外漢にでも伝わる内容で作成する心掛けが重要です。
学振申請書の提出時期は5月初旬。ゴールデンウィーク明けに提出することになるでしょう。M2時代だけはゴールデンウィーク満喫を諦めてください。連休よりも学振の方が大事ですから。学振DC1に通れば脳内が毎日ゴールデンウィーク状態。いま頑張ればこの先に楽しい思いができます。遊びたくなるのを少し堪えて申請書作成に励んでください。
【秋】(DC1に落ちたら)JSTフェローシップや各種奨学金へ申請する
学振DC1の結果発表はM2の9月下旬に行われます。ネットの学振マイページにアクセスして、ボタンをクリックすれば結果が出てきます。内定すれば万々歳。潤沢な研究資金と生活費を得て楽しい博士課程をお送りください。もし落ちても過度に落ち込まぬように。学振はDCは落ちる人の方が多い世界。落ちるのが普通。通れば儲けものぐらいに捉えておきましょう。
学振DC1に落ちたらすぐに取り掛かるべきことがあります。それは、先述したJSTフェローシップへの申請。進学後の生活費を得るべく直ちに申請しましょう。北大の場合、フェローシップに通れば、月18万円の給与と年額40万円の研究費をもらえます。必要最低限の資金はこれで確保できるはず。フェローシップを得つつ、学振DC2内定に向けて研究していってください。
個人や家庭の事情によってはフェローシップだけではお金が不足するかもしれません。不安な方は、博士進学後の金銭事情をシミュレーションしてみましょう。もしお金が不足しそうなら奨学金応募を視野に入れてください。企業奨学金、財団の奨学金、海外留学の奨学金など色々ありますから。企業奨学金は、博士修了後の入社を前提とした給付型のものが目立ちます。進路を早く決めておきたい方も奨学金受給をご検討ください。
【通年】未発表データを取れるだけ取りためておく
M2の一年を通してやっておきたいものがもう一つあります。それは、学会でも論文にも出していない未発表データを取りためておくことです。
博士課程進学後、皆さんは日々プレッシャーを感じながら研究していくでしょう。プレッシャーはプレッシャーでも「業績面」でのプレッシャー。
迫りくる修了年限までに博士論文提出要件をクリアすることが求められます。三年間で成果を ”必ず” 出し切らねばならない。出せなければオーバードクターしてしまうから。プレッシャーと闘いながらの研究は心身に大変なストレスがかかりがちに。実験するたびに胃が痛くなるかもしれません。私はストレスで胸に蕁麻疹が出来ました。
研究に対してストレスなく向き合えるのは今が最後と思っておきましょう。実験にせよ、シミュレーションにせよ、フィールドワークにせよ、「成果!成果!」と鼻息を荒くせず落ち着ける時期はM2が最後。データを気楽に集められるうちになるべく多くのデータを集めておいてください。博士進学後にデータ集めするよりも楽しく研究できますから。可能なら論文原稿まで作っておくといいかもしれません。博士進学直後から論文投稿して業績にしていけるのが理想的展開です。
私はM2時代に未発表データを大量収集しました。論文数でたとえれば三報分ほど。たまたま三報分集まったのではありません。最初から三報分集める魂胆でした。自分は切羽詰まったとき、焦って作業が手につかなくなる性分。博士課程で順調に成果が出なかったら悲劇的シナリオが訪れるでしょう。だったらM2のうちに集められるだけ集めておこう、と。博士課程で落ち着いて過ごせるように修士課程で頑張っておいたのです。おかげで博士時代は楽でした。新たに論文一報分の実験しか行わずに博士号を取れました。
最後に
修士課程でやっておきたい博士課程進学準備をご紹介しました。
修士課程を通じて業績集めを余念なく行っておきましょう。必要ならば就活を行う。秋ごろ博士進学を宣言し、学振申請準備へ取り掛かってください。未発表データの収集もお忘れなく。修士の間に頑張れば頑張るほど博士進学後の皆さんが助かります。
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