ドライルームあるある5選
最初は20分でギブアップ。体中の水分を全部持っていかれ、苦しくて苦しくて仕方がない
ドライルームあるある一つ目は、体中の水分をすべて持っていかれてしまうこと。
私が初めてドライルームへ入ったのは学部4年次の6月でしたが、最初は室内の乾燥度合いに全く対応できず、わずか20分で完走に耐えきれず外へ出てしまったほどですから。
目は完熟トマトの如く充血し、皮膚は茹ですぎた鶏むね肉の如くパッサパサになりました。
これから蓄電池材料の研究をするにはココへ入り浸らねばならいため、
自分は果たして研究をやっていけるのだろうか…?
と先行きが不安で仕方ありませんでした。
ただ乾燥しているだけならひょっとしたらまだ耐えられたかもしれません。
ドライルーム内での活動を一層過酷にしているのは、人間から発せられる水分量を極力抑えるため、室内で不織布の二重マスク着用が義務付けられているためでしょう。
ただでさえ水分をとられて苦しい状況なのに、マスク(それも2枚!!)によって新鮮な空気を吸い込む事さえままならない状況なのです。
悪知恵を働かせ(人目を盗んでマスクを外してやろうか)とさえ一瞬思ったほどでしたが、そんなことをしては露点が急上昇し警報が鳴ってしまいますので、大人しくマスクを二枚着け、脱水症状と酸素不足で倒れそうになりながらどうにか実験を進めていきました。
まさに『研究所内のデス・バレー』という表現が相応しい場所です。水分の存在を許容せず、初心者にも容赦なく襲い掛かってくるのです
徐々に水分を取られない体質に変わり、2~3時間ぶっ続けで作業できるようになる
ドライルームあるある2つ目は、体が徐々にドライルームへ慣れていく事。
脱水や酸欠に耐えながら作業を続けていると少しずつ目が乾きにくくなり、体から水分が失われにくくなる体質の変化がハッキリと感じとられるのです。
最大酸素摂取量向上の結果、マスク越しの呼吸も上手くできるようになりました。
また、勢いよく息を出し入れすると露点が一気に上がっちゃうため、呼気に水分をなるべく含まない呼吸法まで自ずと開発していました(電子書籍に書いたら売れるかな笑)。
私はドライルームの住人となり、今や室内で2~3時間連続の作業がこなせます。
おかげで実験の能率が著しく向上し、B4→M1→M2と年次を経るにつれ実験の進捗速度が指数関数的に高まっていきました。
なお、ドライルーム体質では汗をかけず、夏場に熱中症になりかねません。
そこで、私は週5~6日、朝にランニングして汗をかくことにより、毛穴を意図的に開くよう心掛けています。
ランニング後は体温が上がり、シャワーを浴びたとしても引き続き汗が噴き出てしまいます。
そうしたウェットな状態ではドライルームへ入れないので、冷水シャワーで下半身を2分程アイシングし、十分体温を下げてから研究所へ行くよう日々心掛けています。
冷や汗をかくと露点が一気に5 ℃上がる
ドライルームあるある3つ目は、冷や汗をかくわけにはいかない事。
というのも、汗をかけば室内の露点が一気に5 ℃近く上昇し、実験試料の状態に甚大なる悪影響を及ぼしてしまうためです。
私の実験セルがダメになるだけなら大して問題ではないのです。
しかし、ドライルームは他の研究チームも使用する研究所共用の施設のため、私の冷や汗によって他人の研究データにまで差し響いてしまう可能性があるのです。
私の場合、実験セルの作り方を誤った際、「あっ、やっちゃった💦」と冷や汗をかいてしまいがちです。
このような時は露点上昇前に迅速に室外へ駆け出して、冷や汗を拭き落ち着きを取り戻してから作業スペースに戻ることにしています。
私は少々そそっかしい性格のため、冷や汗をかくようなミスを頻繁にやらかしてしまいます。
年次を重ねるにつれ少しずつ動じなくはなっているが、未だアクシデントの根絶には至っていません…
リチウムってすごく柔らかい金属なんです。それを平滑に切断したり、電極間距離を数μmで対向させたりするのは本当に至難の業なのです
汗っかきの人が隣にいると電極のリチウムが黒ずんでいく…
ドライルームあるある4つ目は、汗っかきの人の傍で作業していると実験試料が変質してしまう事。
私の場合は電極としてリチウムを用いているのですが、リチウムは水分にやられやすい材料のため、新鮮な銀色の電極面が酸化し黒ずむほどの悪影響を被ってしまうのです。
いくら頑張って出来の良い実験セルを作ったとしても、私がその場を離れている間に汗っかきの人が実験セルに近づいたが最後、そのセルから得られるデータは全てゴミも同然な精度となります。
- 電流を印加しても電極表面の酸化により抵抗が増大しすぎて電流が全く流れなかったり
- リチウムからブクブク気泡が出ていて実験する段階にも辿り着けなかったりする
など、リチウムは空気中の水分に大きく影響される、思春期の女の子の如く非常にデリケートな物質なのです。
他人に実験精度を左右されたくないため、私は室内に人のいない早朝やお昼の時間を狙って一気呵成に実験を進めます。
室内に人が多数いれば露点は-45 ℃前後となる一方、ドライルームに関して悟った私のみならば露点-60 ℃近くで作業が可能。
一人だけの環境下で作成した実験セルは再現性が非常に高く、学会発表や論文出版に使えそうなデータを次々と産生していけます。
研究所の皆さんが美味しそうな匂いのする昼飯を食べているのを尻目に作業スペースへ行くのは少々心苦しい一方で、”実験の進捗”という大学院生の大好物をぶら下げられてはそちらを追うしかないのであります。
私は玄米&ゆで卵という質素な昼食を摂っているため、カレーや定食など美食が食堂に並ぶお昼時は研究所生活内で最も苦しい時間帯となります。「だったら食堂のメニューを買えばいいじゃん」とお考えかもしれませんが、国研の食堂は値段が高く、その割にボリュームが少ないので、(美味しそうだ)と思う割に足が伸びないわけです
夏場は最高に涼しく、冬場は暖かくて作業しやすい
ドライルームあるある5つ目は、温度以上に涼しく感じられる所。
一説には湿度が10 %下がると体感温度が1 ℃下がると云われており、湿度が理論上0 %のドライルームは湿度50 %の室外より5 ℃近く (梅雨時なら湿度100 %なので10 ℃!!)涼しく感じられるのです。
最近の日本の夏は暑くてジメジメしている一方で、ドライルーム内はカラっとしていて過ごしやすいです👍
つなぎや二重マスクを装着せねばならないので正直そこまで涼しくはありませんが、少なくとも屋外より格段に爽快なため、お金持ちが避暑のため軽井沢へ行くのと同様、多忙を極める研究者は作業がてらドライルームへ行き暑さをやり過ごしている訳であります。
加えて、ドライルーム内は年中20℃程度に保たれているので、冬場は外より暖かく快適です。
かじかむほど寒い日でもドライルーム内では手が良く動き、実験セルの作成精度を夏場と同じレベルに保つことが可能です。
目と毛穴さえ閉じられるならば、暖房をかけて居室を暖めるよりドライルーム内の方が早く体を温められます。
つくばの冬は本当に冷え込み過酷ですから、私はこの方法を採って冬場をやり過ごしています。
最後に
ドライルームに関する解説とドライルームあるあるはコレで以上となります。
まとめると、
- ドライルームとは極低水分環境の作業スペースのこと。グローブボックスより自由が利く一方、露点はドライルームの方が高くなってしまう
- あるあるその1 : 最初は20分で限界を迎える。まさに『研究所内のデス・バレー』
- あるあるその2 : やがて体がドライルーム体質に変わる。汗をかく機能の維持のためにはランニングが最適
- あるあるその3 : 冷や汗をかくと一気に露点が5℃上がる。絶対に冷や汗をかけない戦いがそこにはある
- あるあるその4 : 汗っかきの人が隣にいると、実験試料が変質してしまう。早朝ならば作業に支障をきたさない
- あるあるその5 : 夏場は最高にカラッとしていて快適。冬場は20℃近い室温のおかげで緻密な作業も十分こなせる
このような形になります。
ドライルームにおける作業で最も気を付けて欲しいのは、ドライルーム体質になるまでは水分補給を積極的に行うことです。
ドライルームは人工的な空間であり、人間が適応するまでは少々時間を要してしまうため、気分が悪くなる前に休憩をとり、徐々に作業時間を延ばして頂きたいと思っています。
以上です。
コメント