修士課程から博士課程へ進学する学生の数をもっと増やす3つの方法

こんにちは。札幌と筑波で蓄電池材料研究をしている北大工学系大学院生のかめ (D1)です。修士課程修了後、娑婆へ出ず直接博士進学いたしました。

前回の記事では『日本で博士課程進学者が減っている理由』をテーマに文章を記しました[前回の記事]。この記事ではその続編として、『どうすれば博士進学者がもっと増えるか』といくつか策を練ってみます。

かめ

それでは早速始めましょう!

以下では化学系や機械系、情報系など”理系”の大学院博士課程について書きます。文系専攻の事情については良く分からないので書きません。

目次

修士課程から博士課程へ進学する学生の数をもっと増やす3つの方法

修士から博士への直接進学者数を増やすため、以下の3つの試みを提案します⇩

  1. 【生活の保障】D進希望者を選抜したのち、国がD進者を国家公務員として雇って月額30万円の給料 (学費タダ)を支払う
  2. 【将来の保障】博士課程修了後のキャリアパスを産官学一体で拡充させる
  3. 【名誉の保障】博士課程修了時に博士バッジを支給する

以下で一つずつ解説します。

【生活の保障】D進希望者選抜ののち、国がD進者に月額30万円の給料を支払う

修士課程の学生の大半が就職に流れる決定的要因は”D進後の生活の保障がないから”です。生きて行けるかどうか定かじゃないのにD進するなど自殺行為。企業へ行けば給与や家賃・食事補助などによって容易に生活を営めます。しかし、D進しても学振DCフェローシップ等に採択されなければJASSOからの借金等で生きていくしかありません。学士課程から借金をしていれば博士修了時、その累計額は数百万円 (人によっては一千万円以上)にも及びます。やっと娑婆に出た…と思ったのもつかの間、何十年にも及ぶ長い返済生活が待ち受けているのです。

もし”D進者を増やそう”と国が真剣に考えるなら、D進者全員の生活をしっかり保障すべきだと思います。生活費相当額の支給はもちろん、企業の福利厚生に相当する額も幾らか支給すべきです。合計すれば月額30万円程度の支給になるのではないでしょうか?D進者は日本の学術を前進させるため日々邁進するのですから、政府にはD進者を『国家公務員』として是非雇っていただかねばなりません。論文を出した年度はボーナスも支給してください。額は論文一報につき、インパクトファクター×1万円で如何でしょう?(Natureなら50万円…!) 博士課程を含め、日本のアカデミアには”成果報酬”という概念がほとんどない。だったらこの際、導入しましょう。ボーナスが論文執筆者の指導教員にも行き渡るのならば先生方も文句は言わないはず。大学の学費はもちろん無料。お金を払って役所で働いている公務員などいないことから当然ですね。

上記の内容が全部叶えば博士課程在学中はパラダイス。今までお金を理由にD進をためらっていた優秀層が (D進もいいかも…)と思い始める。出願者の数はうなぎのぼり。ひょっとすると海外からも受験者が殺到するかもしれません。しかし、D進希望者をすべて受け入れていてはD進者の質が低下します。それがひいては日本の学術界の凋落を招く遠因になるのです。おそらく博士課程入学試験の倍率がどの専攻も1倍を超えるはず。D進の入り口の段階でしっかりと選抜し、研究遂行力を有している人材のみを受け入れるよう細心の注意を払わねばならない。安全保障の観点から、Chinaなど特定諸国からの留学生の受け入れについてはもっと慎重になりましょう。日本の宝は日本人。外国人留学生ではありませんから。

【将来の保障】博士課程修了後のキャリアパスを産官学一体で拡充させる

D進を躊躇する方の多くが「修了後の進路が不安だ」と述べています。最近は依然と比較すれば企業へ入りやすくなっているものの、修士修了後の就職と比較すると博士修了後の就職はやや難しい。企業人事部の方の一部は依然として”博士人材は扱いにくい”と考えていらっしゃる。”専門性の高い人材を会社のカラーに染めるのが難しいから”と、博士採用枠すらないメーカーも情報誌で頻繁に見かけます。また、アカデミアや国研に職を求めようとしても、任期のない定年職を得るのは相当困難です。任期付きだと将来設計のハードルが高く、パートナーを得たり子供を作ったりできないまま結婚適齢期を終えてしまう。

D進者を増やしたければ在学中の生活を保障するだけでOK。でもそれだけだとD進者が博士修了後、路頭に迷う羽目に陥るでしょう。ポスドク一万人計画の二の舞を防ぐため、博士修了後のキャリアパスをもっと拡充する必要があります。D進者の受け入れ場所を産官学が三位一体となって設けていただきたいのです。

”産” (民間企業)について

企業の方には博士号ホルダーを雇うメリットを何卒ご理解いただきたいです。博士号を持つ人間は研究能力や研究課題を打ち立てる力があります。”何を研究するか”から自分で考え、どのように研究するか、失敗したら次はどうするかと研究を能動的に進められるのです。博士課程在学中の専門と企業就職後の研究課題が100%マッチすることは少ないでしょう。しかし、博士号を懸け日々練磨した研究遂行力は実務でも必ず役立ちます。在学中の後輩指導経験は企業で管理職へ就いた時に活かされるはず。部下の指揮や鼓舞、それに進捗管理など実務に必須の力を多角的に養えているわけであります。

”官” (役所)について

国の科学技術政策は研究経験のある人間を主体に決定すべきだと考えます。一度でも研究したことのある方ならば『どの分野が花開くかなど予想できない』と肌でヒシヒシとお感じのはず。学術の世界にビジネスで言う”選択と集中”を持ち込もうとも決して成果は見込めません。ビジネスと研究は違いますから一緒くたに考えてはいけないのです[関連記事]。省庁が科学技術に巨額の予算を投じて下さっているのは有難いこと。しかし選択と集中はいけません。もう少し広く・満遍なく予算を投じなくちゃ将来の産業の芽が育ちません。中央省庁に博士号ホルダーが増えれば国の舵取りがさらにスムーズになります。労働環境を改善して頂ければ博士号ホルダーも省庁を進路の一つとして検討し始めましょう。

”学” (アカデミア, 特に大学)について

任期付き職を減らし、定年制職を増やして下さい。「任期アリの方が成果が出る」と仰る方がいるかもしれません。”最初から任期付きだと万年助教が量産されてしまう…!”といった考えについてはよく分かります。しかしソレは腰を据えて研究したい学者さんをますます遠ざける結果に終わるのです。たった数年しか雇ってもらえず、数年後にはクビになって新しい職を探さねばならない。こんな状況で果たしてどうすればロングスパンの基礎研究が根を下ろすというのでしょうか?任期付きだからといって特に高給なわけでもない。土日出勤も考慮すると貰い足りないほどであります。将来をまともに考える人がアカデミアを第一の選択肢として考えない問題。このままだとアカデミアへの人材供給が滞ってしまうでしょう。ならば低給でもいいから任期を廃し、教員の生活の安定をどうか保障して貰いたいです。アカデミアには【研究の自由度】という企業にはないメリットがあるので、生活さえ保障してくれたらアカデミア志望の学生も増えます。前述の論文執筆ボーナスがあれば、お金の欲しい先生方は怠けずシャカリキに頑張るに違いありません。5年間で一報も論文を出さない教員がいたら給与を減額してしまいましょう♪

【名誉の保障】博士課程修了時に博士バッジを支給する

D進希望者をさらに増やすには名誉心を刺激してあげましょう。”博士号を取るってすごいことなんだ”と日本国民が認知すれば「オレも/私もすごいって言われたいなぁ…」とD進を検討し始めるでしょう。日本で博士号の価値が知られていないのは、大学教育が始まって以来まださほど月日が経過していないから。大学第一号・東京大学が誕生してからまだ150年ほどしか経っておらず、1,000年前から大学が存在したヨーロッパとは歴史の長さが違うのです。

日本も900年後には市民が博士号の価値を理解する国になる。しかし900年も待っていてはみんな死んでしまいます。かといって国が「”博士”ってスゴいんだよ~」と喧伝するのもどこかイヤらしく感じられる。そこで博士修了時、ドクターへ記念品としてバッジを支給するアイディアを提案します。弁護士や社労士を始め、日本で”士業”と呼ばれる方には胸バッジが与えられますね。たとえ司法試験の難易度は分からなくても、胸にバッジがつけてあれば”何だか凄そうだな…”と分かります。博士だって士業です。独占業務 (大学教員)だってある。だったらほとんど同じようなモノ。『あの人、博士だ!』と一目でわかる胸バッジがあれば博士号ホルダーの名誉心向上に必ずや一役買うでしょう。

当然ながら博士号ホルダーは尊敬されるに値する仕事を生涯し続けなくちゃいけません。在学中に受けた御恩を社会へ、後世へ還元する宿命があります。

最後に

修士課程から博士課程に進学する人の数をもっと増やす方法は以上になります。再掲すると、

  1. 【生活の保障】D進希望者を選抜したのち、国がD進者を国家公務員として雇って月額30万円の給料 (学費タダ)を支払う
  2. 【将来の保障】博士課程修了後のキャリアパスを産官学一体で拡充させる
  3. 【名誉の保障】博士課程修了時に博士バッジを支給する

このような形になります。

根本的な対策は少子化の改善です。人間の数を増やさなくては修士就職とのパイの奪い合いに終わってしまうからであります。とはいえ厚労省には少子化の改善意欲はなし。そこで(今の人口のままどうすればD進希望者が増えるかな)と考えこの記事を書き上げました。

以上です。

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コメント

コメント一覧 (4件)

  • 修士を取って製造業の研究所に就職しましたが
    日本の企業は先進的なことをやっている所が少ないので博士が要らないのかなと感じました
    (バイオや情報系だと違うのかもしれませんが…)

    「博士卒でも修士卒でもできることしかしないから博士は要らない」というのは経済的に合理的かと思います(今後もこんな姿勢で日本が良くなるとは到底思えませんが)

    • はぐれ研究員さん、コメントありがとうございます。

      ”修士卒で事足りるから博士卒を雇わない”と噂程度に聞いたことがあります。(まさかそんな話、あるわけないじゃないか…)と思っていましたが、本当にあるのですね。驚きました。
      先進的な事業を次々と打ち立てて行かねば、日本の企業は海外の企業にどんどん置いて行かれてしまいます。修士卒の方に「新事業打ち立ては無理」とまでは言いません。修士卒の方の力も企業には不可欠です。しかし、博士卒の人間は修士卒の方と同様、今後の日本企業に必要なパワーを備えている人材ではないかなぁと考えております。研究や論文執筆で『0から1』を経験済みなためです。
      私自身、博士修了後は企業で働こうと思っています。会社に入って活躍し、博士卒の価値や有用性を所属企業に再認識させたいです。

      • 返信ありがとうございます。

        私が居た企業研究所の中には0を1にできるような物凄い優秀な方がごく稀に居て, おっしゃるとおりでそういう方は大体博士号持ちでした。私の上司も博士号持ちで超絶優秀でしたが, ヘッドハンティングで引き抜かれて転職されていきました。

        以下は爺の老婆(?)心ということで聞き流して頂ければと思いますが, もし博士号取得後企業で働かれるのでしたら, 「この投資分野で世界一にならないと会社が傾く」というくらい必死さのある会社を選ばれるといいかもしれません。私は総合電機メーカーの材料研究所を選んで失敗しました。なぜなら「材料で世界一にならなくても他の分野があるし…」といった甘えがあるからです。前述の上司も材料専門メーカに転職し, 現在は楽しく仕事をしているそうです。

        • コメントへのご返信、ありがとうございます。会社選びのアドバイスまで下さりありがとうございました。
          ”必死さ”、大事ですよね。今のポジションで甘んじている企業ではなく、「伸びなきゃまずい!このままじゃ倒れる!」と血眼になっていそうな企業を見つけたいと思います。

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