博士課程あるある12選【北大博士が語るリアルな日常】

目次

⑨本当に嬉しいのは、修了の目途がついたとき

学位授与式が嬉しいのは当然です。でも、博士課程を経験した人に「一番ほっとした瞬間はいつか?」と聞くと、たいてい同じ答えが返ってきます。修了できるだけの業績を積み上げて、ああ、これで出られるなと確信が持てたときです。

先の見えない地獄から、先が見える茨の道へ。相変わらず厳しい道のりではあるのですが、ゴール地点が見えているだけで心の持ちようがまるで違います。それまでは常にどこかピリピリしていた空気がふっとゆるんで、肩の力がすっと抜けて、表情も口調も自然と明るくなるんですよね。研究室のメンバーから見ても、修了の目途がついた博士学生は、明らかに雰囲気が変わるそうです。

修了が見えてきた瞬間の博士学生は十中八九、上機嫌。修士以下の学生のみなさんは、「先輩、何かおごってくださいよ」とおねだりしてみてください。たぶん、気前よく応じてくれるはずです。

⑩業績を挙げてもまだ終わりではない

必要な本数の論文を出版してやっと終わりだ……と安堵するのは早計。規定以上の業績は、あくまで学位審査会にエントリーするための入場券にすぎません。博士課程の真のクライマックスは、学位審査会にあります。

学位審査会では、審査員の先生方の前で何十分にもおよぶ発表を行います。その後、矢のように鋭い質問を浴びせられますが、倒れることなく、的確に打ち返さなければなりません。自分が博士号にふさわしい人間であることを全員に証明するのです。

学位審査会で問われるのは、研究の内容だけではなく、研究者としての素養そのものです。いや、人間としての強さと言った方が的確でしょうか。どれぐらいの覚悟を持って研究に挑んできたのかを全方位から徹底的に試されます。

最終審査の公聴会では、発表時間こそ決まっているものの、質疑応答は審査員全員が納得するまで延々と続きます。想定外の角度から質問が飛んできて、ナイアガラの滝のような冷や汗をかきながら応答することに。応答を繰り返していくうち、何分経ったのか分からなくなり、時間の感覚がなくなっていくでしょう。

脅すわけではないのですが、もし発表の出来が悪ければ、博士課程をやり直しになる可能性があります。海外だと容赦なくクビ(退学)になるそうです。業績を揃えたあとに待っている最終関門が、実は最も恐ろしい試練なのです。

⑪学位授与式は、やっぱり嬉しい

修了できるかどうかも分からないまま手探りで道を切り拓いてきて、ようやくたどり着いた学位授与式。

学位記を受け取ったとき、これまでの苦労が走馬灯のようによみがえってきて、万感の思いがこみ上げてきます。うまくいかなかった実験も、何度もリジェクトされた末に通った論文も、異郷の地でひとり途方に暮れた夜も、全部が全部、この瞬間のためにあったのだと思えるのです。頑張ってきてよかったなと、心の底から感じられます。

私の場合は、工学院長から学位記を受け取り、自分の席に座った途端、涙がこぼれ出ました。泣くつもりなんてまったくなかったのに、勝手に涙が出てきて自分でも驚きました。博士課程がよっぽど辛かったんでしょうね。いや、よっぽど嬉しかったのでしょうね。本当に嬉しかった。

今は地元で会社員として働いていますが、学位記は本棚の上に、いつでも視界に入るよう飾ってあります。仕事でくじけそうになったときも、あの激動の日々を乗り越えてきたことを思い返すと、どんな試練も乗り越えていけそうな気がするのです。博士課程に比べたら、サラリーマン生活なんて全然大したことはありません。

⑫振り返ってみれば、全部いい思い出

博士課程では辛いことが山のようにあります。お金を払ってこんなに苦しい思いをしているなんて、冷静に考えたら正気の沙汰ではありません。自分でも「君はドMなのか?」とセルフつっこみを入れていました。

しかし、博士課程に進んだのは正解だったと確信しています。なんせ、修士までは見えなかった研究の奥深さに触れることができたし、修了したときには言葉にできないほどの感動を味わうことができました。あの2年間がなければ出会えなかった人もたくさんいます。見えなかった景色もたくさんある。流さなくてよかった涙は何リットルもあるけれども、あの時味わった苦しみが、今の自分に虹をかけてくれています。

会社員として博士課程を振り返ると、あれは本当に素晴らしい時間だったなと思います。苦しいなかでもがいてよかった。おかげで一生ものの思い出ができました。

もう一度博士課程に行くかと聞かれたら、絶対に行くわけがありません。あんな大変な思いは二度とごめんです。なんという残酷なことをお尋ねになるのですか。ただ、魔が差せば、つい行ってしまうかもしれません。そう思わせるだけの底知れない魅力が、博士課程には秘められています。

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