北大博士課程を早期修了した化学系大学院生かめ(D2)です。来年度から地元の民間企業で技術開発職に従事します。
博士課程を修了できるか否かは運に左右されます。研究テーマ運や指導教員との相性に恵まれ、良好な健康状態を保ててようやく修了できるのです。修士までは努力次第で全員が修了できたでしょう。博士課程からは結果がシビアに求められる厳しい世界に変わるのです。博士課程を三年で出られる人は全体の7~8割。残り2割強は三年以内に成果を出せずに学位取得まで至りません。
三年で博士号を取れぬとなった人間に提示される選択肢は二つ。
- オーバードクターして学位取得を目指す
- 博士号取得を諦めて退学する
先日、オーバードクターに関する記事を記しました(記事リンクは巻末)。この記事では後者の、すなわち「博士号取得を諦めて退学する」選択肢について解説します。

それでは早速始めましょう!
単位取得満期退学とは
国立大学の博士課程を修了するには8単位の講義取得が必要です。D3後期に取得すべき単位が残っている人はほとんどいません。
単位『だけ』は修了要件を満たしています。学部ならこれだけで卒業できるでしょう。博士課程ではこれだけでは足りません。専攻内で定められた規定本数以上の学術論文を出版せねばならないのです。私の所属元専攻では、筆頭著者として国際誌で二報以上の出版が必要でした。二報記さなかったらいつまで経っても博士課程を修了できません。単位数だけを満たしていてもダメ。単位と論文を満たして初めて学位審査へ臨む権利を得られます。
単位取得満期退学とは、単位を取り切って標準年限まで在籍したものの、学位取得には至らず退学する行為のこと。単位だけは揃っている。肝心の論文数を揃えられかった。そのまま満期を迎えてしまって退学を選ぶ。学位を取れずに無念だったかと存じます。満期退学をお選びになった方の心中を察すると胸が締めつけられる思いです。
なぜ単位取得満期退学に至るか
単位取得満期退学に至る理由は、オーバードクターしても論文出版へと至る目処を立てられなかったから。その理由をさらに深掘りしてみると、以下3つの要素が浮かび上がってきました。
- 精神的に疲れたから
- 研究の方針を見失ってしまったから
- 指導教員と対立してにっちもさっちもいかなくなったから
それぞれについて解説していきます。
精神的に疲れたから
博士課程は消耗戦。思い通りに進まぬ研究に苦悶したり、論文リジェクトや後輩の代わりに怒られるなど理不尽な仕打ちを受けたりします。全てを耐え抜いて学位取得へと至るわけです。メンタルが相当強くなければやっていけないでしょう。自分自身、博士課程で顔の肉がゲッソリしました。ストレスでやせ細ってしまったのです。精神的に疲れて三年目の終わりを迎えたら「もう無理だ…」となるでしょう。これ以上頑張ったら精神が破綻すると考えて単位取得満期退学を選ぶのです。
研究の方針を見失ったから
研究していて袋小路に迷い込んだとき、窮地からの脱出法がなかなか見えてこない場面があります。何を試しても上手くいきません。かといって代替策があるわけでもない。どうしよう、どうしようと迷っているうち、時間がどんどん過ぎ去っていきます。焦燥感が募り、まともに物事を考えられなくなって、あっという間に時間切れでゲームオーバーに。
このまま研究生活を続けたとしても活路を見出せるとは限りません。四年目の終わりになっても未だ研究をまとめ上げられていない可能性があります。ならばいっそのこと、研究を辞めて他の道へ進んだ方が得策じゃないか、と。単位取得満期退学して研究以外の領域で頑張る方も居られるのです。
指導教員と対立してにっちもさっちもいかなくなったから
研究室生活で最も避けるべきは、自らの指導教員と仲違いすること。先輩や後輩と仲が悪くなっても何とかなります。直属ではない先生から嫌われても何とか耐えられるでしょう。しかし、指導教員との不仲はどうにもなりません。研究方針を相談できぬばかりか、学術論文を投稿できず、博士論文審査にも多大なる悪影響が及ぶのです。
先生は学生の首根っこを掴んでいる状態。絶対に対立してはいけません。もしも対立してしまった場合、間違いなく三年では修了できません。四年でも五年でも無理。何年かけても博士号取得に至らないでしょう。こういう時は研究室を変えるのが得策。単位取得満期退学後、自身の研究成果を他の研究室から発表して学位取得を目指しましょう。
最後に
単位取得満期退学とは、修了に必要な単位を全て修得し、標準年限終了まで研究に励んだ学生が選ぶ一つの進路。一見すると挫折のように思えるかもしれません。しかし、実態はより複雑な様相を呈しているのです。
博士課程の修了には、運の要素が大きく関わってきます。研究テーマとの相性も重要な要素となるでしょう。指導教員との関係性も見逃せません。私自身、早期修了できたのも、これらの運に恵まれたからなのです。博士課程の学生の多くは、様々な困難に直面するものです。精神的な消耗は避けられないでしょう。研究の行き詰まりも珍しくありません。時には指導教官との関係悪化さえ起こり得るのです。
博士課程の標準年限内で学位を取得できる学生は、全体の7〜8割程度となっています。残りの学生には二つの選択肢が提示されるでしょう。オーバードクターとして在籍を継続するか、単位取得満期退学を選ぶかというわけです。限界を見極めて新たな道を選ぶ判断は、むしろ賢明な選択かもしれません。単位取得満期退学者の多くは、研究室での経験を活かして新たな道を歩んでいきます。論理的思考力は確実に身についているはずです。問題解決能力も磨かれることでしょう。研究職以外の分野でも、十分な活躍が期待できます。
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