北大博士課程を一年短縮修了した技術開発エンジニアかめです。
学士課程から修士課程へ進学したとき、日々の生活が大きく変わりました。研究の進め方や実験方針の決め方など、同じ研究室で大学院進学したとは思えないほどの大きな変化があったのです。けれども、生活の変化は、修士課程から博士課程へ進学したときの方が大きかったかも。修士と博士とでは大違い。M2からD1へひと学年上がった途端、良い意味でも悪い意味でも「新生活」が始まります。私の場合、博士課程には馴染めませんでした。博士課程がもたらす独特な辛さへ耐えられずに早期修了を決断したのです。
この記事では、博士課程へ進学したら当たり前になる3つのことについて解説します。
- 博士課程へ進学する前に覚悟を固めておきたい方
- 博士課程独特の辛さとは何か知りたい方
こうした方々にピッタリな内容です。ぜひ最後までご覧ください。

それでは早速始めましょう!
論文を書きながら別の論文用実験を行う


博士課程の修了要件充足はハード。専攻ごとに定められた規定本数以上の論文を出版するまで永遠に修了できません。土下座も義理人情も通用しない世界。結果第一主義に基づき、博士候補生の力量が試されます。国際誌にて論文を掲載するのは大変。投稿したら半分ぐらいの確率でリジェクトされるでしょう。リジェクトされては別の雑誌へ投稿し、再度リジェクトされては別の雑誌へ投稿する繰り返し。学術雑誌の行脚を経て、ようやく一報の論文が出版されるのです。
一報の論文を書き始めてから出版するまでに最低半年はかかります。論文を二報出版したいなら一年、四報出版するなら少なくとも二年は必要です。正直、博士課程では時間に余裕がありません。一つの研究にじっくりと時間を費やせるのは修士課程まで。修士課程在籍中の方は、じっくり落ち着いて研究を進められる最後の期間をどうぞお楽しみください。
博士課程へ進学したらどうなるか。一つの論文 (A報) を書きながら別の論文 (B報) 用の実験を進めることが求められます。研究の同時並行が日常茶飯事になってくるのです。そうでもしないと三年では終わりません。A報のアクセプトを待ってからB報のデータ集めを始めるのでは遅すぎます。早期修了志望だった私は、A報の査読対応をしながらB報を記し、同時にC報用のデータ集めをしましたね。もうね、何が何だかよく分かりませんでした。トリプルタスクの処理に頭が爆発寸前でした。
博士課程ではマルチタスク能力が必要不可欠。修士課程在籍中の方は、ゼミや講義や実験をマルチタスク能力向上の機会として積極的にご活用ください。
後輩の面倒を見る(ホントは先生の仕事…)


早い人はM1やM2のうちから、遅い人はD1やD2になると後輩の面倒を見始めます。実験手順を後輩に教えたり、論文の読み方やスライドの作り方などをOJT形式でレクチャーしたりするのです。
我々の役割は、後輩が研究できるようサポートしてあげること。一日でも早く戦力になってもらえるよう熱心に教え込みます。後輩をある程度まで育てておけば、後輩が上級生になったとき、後輩がその後輩の面倒を見られるでしょう。その後輩がまた後輩の面倒を見、その後輩がまた後輩の面倒を見る。研究室の研究は、このようにして連綿と受け継がれていきます。一つの研究の開祖となることが多い博士学生は、自身が研究室から離れても研究が展開されるよう、責任を持って後輩のお世話をしてあげなければなりません。
後輩指導は教える側の勉強にもなります。実験や学問の基礎を確認する良い機会になるのです。後輩指導で培われた指導スキルは、就職後に部下をマネジメントするとき重宝するでしょう。後輩は分からないことを教えてもらえて嬉しい。博士学生も将来に役立つスキルを得られて嬉しい。まさにウィン-ウィンな関係なのです。
もっとも、博士学生が後輩学生の面倒を見るべき正当な理由はありません。後輩が一人で放置されていたら可哀想。「無力な後輩が自滅していくのを見て見ぬフリできぬ!」という各々の善意と正義感に基づいて後輩指導します。
本来、学生の指導をするのは教員のお仕事。だってそうでしょう。『指導』教員なのですから。『指導』教員が指導をしないなら『指導』教員ではありません。学生を指導する代わりに高いお給料をいただいていらっしゃる。博士学生に後輩の面倒を見させるなら、博士学生へ相応の指導料を渡すべきだと思いますよ。
学位取得関連の悪夢にうなされる


学士・修士課程は、ほとんどの人間が修了可能。修了要件の充足は難しくありません。人並みに研究室で研究しているだけで自ずと学位取得に至るでしょう。
博士課程修了は骨が折れます。正気を保って三年耐え抜き、修了要件の充足と学位審査突破を経て、晴れて博士号を得られるのです。
博士課程は必ずしも修了できるとは限りません。専攻ごとに定められた規定本数以上の論文を出版しなければ出られないのです。博士課程全体で標準年限以内に修了する方は6~7割。3割近い学生は、標準年限を越えてオーバードクターするか、学位取得を諦めて退学の道を選びます。最終的に修了できれば御の字。何年も費やした挙句、修了できず、歳だけ食ったおっちゃん/おばちゃんになる未来も否定しきられません。
博士課程へ進学すると、自分の論文出版数が常に気になります。「あと〇報で修了できるな」と修了要件を意識するからです。残り時間にまだゆとりのあるD1時代はまだ気楽。残り時間が少なくなってくるD2の真ん中あたりからメンタルがおかしくなってくる。この頃になると、自分が一年で何報出版できそうかが感覚的に分かってきます。残りの期間で何報書けそうかも胸算用が可能です。
自分は一年の短縮修了を目指していました。研究で切羽詰まってきたD2の6月あたりから毎日のように「今年度中に修了できないかも…」との悪夢にうなされ始めたのです。
私が書きかけている論文を持った指導教員が夢の中に出てくるんですよ。『ココは○○と書き直した方が良いんじゃないのか?』『いや、やっぱり全文書き直しかな^ ^』とぶつぶつ呟いてくる。7月には夢の中で『ひょっとしたら早期修了できないかもね♪』と笑顔で死刑宣告されました。寝汗がビチャビチャになって跳ね起きましたよ。すぐにシャワーを浴びて落ち着きを得ます。あぁ、よかった。夢だったのか。こんな悪夢を見ないで済むよう、一刻も早く博士課程を出ようと決意しました。
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