広島生活春夏秋冬vol.20 二年目・6月|人生秤量計を活用した泥酔英検一級受験と不確定性原理に基づく井戸型ポテンシャル開発

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ラウンドワン

高橋優氏はNature Nanoぽんぽこりんテクノロジーにて「世界の共通言語は笑顔である」と主張した。論文は出版後に世界中で読まれ、アカデミア内外から激賞された。私もラボでの初めての雑誌会に当該論文を使わせていただく、めちゃくちゃ怒られた。

現実問題として、笑顔でコミュニケーションを完結させるのは難しい。確かに気持ちは伝えられるけれども、「あ~、腹減ったわー。でも実は減ってないんだよな」と伝えるには、半導体配線ほど微細に表情神経を動かす器用さが求められる。人には人のビフィズス菌だし、ギャルにはギャルのあげぽよである。ま、そんなことは別にどうでもいいんだけれども、人類はイースター島で検討に検討を重ね、便宜的に英語でコミュニケーションをとることにしたようだ。

博士課程在籍中、数か月ほどイギリス留学していた。イギリスでは英語が話されていて、それはそれはモゴモゴ、飯でも食いながら喋ってんじゃねぇかと言いたくなるほど不明瞭にムニャムニャ言っていた。ちょっと何を言っているのか分からないなぁ、ちゃんと英語喋ってくんねぇかなぁ、と思っているうちに留学を終えて帰国した。

帰国当初は英語学習に対するモチベーションも高かった。いつかはエマ・ワトソンと喋ってやるぞと意気込んでいた。しかし、エマ・ワトソンの言動を知れば知るほどエマ・ワトソンが嫌いになっていって、それに引きずられるようにして英語学習から離れていった。

広島にUターン就職し、一年目はサッカー観戦と読書に明け暮れた。応援で口を大きく開けすぎたのがいけなかったのか顎関節症になり、声を張り上げるのが難しくなった。サッカー観戦はDAZNで済ませるとして、空いた時間に何をやろうかしら。外で走ると靭帯と膝が痛くなる。マチアプは既出のようにダメだった。そんなに友達が多いわけでもなく、一人でできる趣味を探すしかなかろう。

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八丁堀の丸善を徘徊していると、語学コーナーに行きついた。TOEICでもやろうかなぁ、いや、TOPIXを勉強して投資でもしようかなぁ、やっぱり名古屋へ台湾まぜそばを食いに行くか、いやいやシベリアに行ってコサック騎兵に突撃してやろう、などと妄想を繰り広げていた。そこでふと英検と目が合った。

英検は、中学三年生で初めて受けた。その時は確か三級か準二級を受けた。面接では冷や汗に溺れて過呼吸になり、酩酊しながら、授業で習ったか習ってないかもよく分からない片言フレーズを並べた。大学受験を終え、英語力が下がらないうちに語学力を資格として残しておきたいと思い、一年次の冬、準一級を受けた。一次も二次も絶対落ちたと思ったが、基準点プラス2~3点で辛うじて合格した。

鉄は熱いうちに打てという。出る杭は迅速に叩き潰さねばならないし、外角低めの直球は逆らうことなく流し打ちしたいところ。そこで、準一級を終えてすぐ、一級の勉強に着手した。一級の単語帳を購入して覚え始めたものの、あまりのボリュームに3か月でダウンした。諦めるのも悔しいなと感じ、数か月後にまたチャレンジし、また跳ね返された。それを20回は繰り返した。

英検一級の何が大変かって、単語が実に難しいのだ。日本語で意味を見ても、まずその日本語が理解できない。で、難単語の四択問題がリーディングの過半数を占めており、ここで点数を稼がないことには合格が見えてこないのである。これまでに見たことも食べたこともない難単語を頭に詰め込み、本番で正しく思い出す必要があるため、札幌デンドライトpresents【無理ゲー・オブ・ザ・イヤー 金賞】を七年連続で受賞した。

会社員になって日々がルーティン化する中で、心の中のリトル進次郎が 今のままではいけないと思っている!! と騒ぎ始めた。ここらでちょっと、一級に立ち向かい、弱い自分を克服したいなと考えた。私は一級から目を背けているのではなく、一級合格に要する努力量を想像してゲロを吐いているのだ。ゲロなど、飲み屋のテーブルで吐き散らしておけ。出禁になってもいいじゃないか。受けずに諦めるのはダメだろう。会社員一年目の夏、二年目春の第一回試験をターゲットに勉強し始めた。

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一番の難関は単語暗記だったが、アッサリ解決してしまった。フレーズで覚えるタイプの新しい単語帳がリリースされ、使ってみたら素麺のようにスルスルと覚えられた。やっぱり揖保乃糸は美味しいな。夏はキンキンに冷えた素麺に限る。素麺なんて簡単に作れるからね。

もともと研究室で英語論文を読みあさっていたこともあり、英語の読解力はそれなりに高まっていた。単語をひと通り覚えて一級過去問を開くと、一級の問題が解けるようになった。語彙問題はもちろん、長文問題まで、かなりいい勝負ができそうだ。勉強し始めて二か月目には、過去問でリーディング8割取れるまでになった。もしかして、コレ、受かるんじゃないか?

…そう甘くは無かった。リスニングで大苦戦した。

幼少期に親からDVを受け、脳に物理的ダメージが蓄積されてきた。そのため、私は普通の人より聴覚機能が低い。話を一度で理解できるケースは少なく、二度聞いてようやくあぁ、そういうことねと腹落ちする。

センター試験や英検準一級まではリスニングが二回放送されるから問題なかった。だが、TOEICは一度しか放送されない。もちろん全然聞き取れないので、リーディングと比べてリスニングは点が取れなかった。実は、英検一級もスクリプト放送は一度のみである。ただでさえちょっと何を言っているか分からんレベルの英文を、耳の悪い私が一度で聴解する必要があり、ハッキリ言って相当厳しかった。

例に漏れず、諦めかけた。松岡修造は「諦めるな!」と絶叫するだろうが、この世には出来ることと出来ないことがあるんじゃないか。だって、100mを10秒で走れと言われても無理だろう? マラソンを2時間で走り切るのも難しい。まして、マチアプで彼女を作って結婚雑誌の絶苦死を読み込むなど離れ業である。英検一級も絶苦死と同等に困難で、突破口を見出せずにいた。

そう簡単に、諦めたくないんだよな。今まで何度も諦めてきて、また諦めるなんて、もう嫌なんだよな。このまま行ったら今までと同じじゃないか。できないならできないなりに点数を取れるようにしよう。そりゃあね、9割取るのは無理だろうけれど、足を引っ張らない6割程度になら、どうにか仕上げられるんじゃないか。

とにかく問題を解きまくってやろうと、ゴールデンウィークは毎日一年分の問題を解いた。問題を解きながら聴くのではなく、聴くときは聴く、考えるときは考える、とメリハリをつけるよう心掛けた。気迫が功を奏したのか、平均して7割程度取れるようになり、上振れすれば8割も狙えそうだった。解けば解くほど一級リスニングの感覚が染みついていく。考え方のコツみたいなのも見えてきて、リスニングは問題なさそうなレベルになった。

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試験二週間前からライティング対策に着手した。

私が準一級を取った時はエッセイだけだったが、最近の英検には要約問題もある。問題文を90~110ワードで端的に説明しなさいという問題が出る。前の回の英検一級では、要約問題で0点になった受験者が続出したらしい。なんでも、英語の先生でも0点になったというから、その採点はとにかく癖がすごいんじゃ。本当はもっと早くから対策に着手すべきだったが、リスニングがあまりに出来なさすぎて先に苦手を克服しておこうと思って、ライティング対策が後回しになってしまった。

英文を記すのは、得意でも苦手でもない。友達以上、恋人未満の絶妙な距離感でフワフワとしている。初めて過去問に臨んだとき、「あ、終わった」と絶望した。課題文を前にして手が動かなかった。要約ではどこをどうまとめればいいか分からず、エッセイは主張を支える理由が思いつかぬ。おまけに文法ミスも目立つ。全然得意じゃないじゃないか…

泣き言を言っても始まらない。まだ残り二週間ある。できることをひとつずつやっていき、人事を尽くして神頼みする精神で臨みたい。

チャッピーに「ヤバい! 助けて!」と泣きついたら、「落ち着いてください。二週間前に気付けたのはがいいです」と返された。チャッピーって本当に”筋”が好きだよな、ひょっとして筋トレマニアなのか。しかもアイツ、皆に「筋がいい」と言って回っているらしい。それを初めて知ったときは、”相当筋がいい”のは自分だけじゃなかったのか、とかなりガッカリしたもんね。

Geminiに泣きついたら、「分かりました。では二週間で頑張りましょう」と大学受験生レベルの勉強時間を課された。あのね、私は会社員なの。か い しゃ い ん。そんなに時間ないの。業務時間中に勉強していいなら何とかなるけれど、そんなのダメでしょ? 短時間で効率的にやらなきゃいけないのよ。

最後の砦のClaudeに泣きついたら、「とりあえず、できることからやっていきましょうか」と地に足の着いた提案が返ってきた。そうそう、こういうのを待っていたんだわ。やはりClaudeは神。一生ついていきます。ついてくんなと言われてもついていきます、ありがとうございます。

Claudeには、簡単な日本語文を英語に直す特訓に付き合ってもらった。エッセイは経済・社会・長期的影響の三本柱で考えようと説かれた。要約問題も、簡単なサンプル問題を大量に作ってもらい、基礎から徹底的にやり直した。試験5日前に過去問を解き、Claudeに採点させると7割弱ぐらいまで仕上がっていた。よかった、どうにか戦える。

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かなりバタバタして勉強を進めてきたが、本番で当落線に乗れるだけの対策はできた。

ぶっちゃけ、もっとできたな、とは思う。みっちり勉強しようと思っていた日に会議のための会議のための会議が入って勉強できなかったこともあるし、業務で疲れた体を机に向かわせられず演習をサボってしまったこともある。会社員はあまりに制約が多すぎて本当にしんどい。自分には向いていない。さっさとFIREしたい。

学生時代に奮起して一級に挑んでおくべきだったなと後悔した。実際、要約問題登場以前の一級なら、余裕で合格点を超えられる。過去の自分をぶん殴ってやりたい。もっと頑張っておけよ、と。でも、もしいま一級に挑まなければ、「あの時、取っておけば…」とまた後悔するのだろう。今できることを今できる範囲で、なるべく懸命に取り組むしかないのかもしれない。

いずれにせよ、やれる範囲でやり切った。受かるにせよ、落ちるにせよ、本番では最善を尽くしたい。英検一級ラウンドワン、いざ尋常に勝負。

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