広島生活春夏秋冬vol.21 二年目・7月|炭火焼鳥獲得戦線をめぐるイボ蒸留酒とマクドナルドおよびカーボベルデのキャリア形成効果

目次

ドナルド・マクドナルド

転職活動最終面接のため、東京に向かった。

広島と東京は800km離れている。中でも広島と静岡が長くて、とりわけ静岡は長すぎる。何回曲がるのかと思うほど曲がる。曲がりすぎて、ときどき引き返す日もある。熱海なんかはかなり危なくて、温泉に入りたくなっちゃった のぞみ が緊急停止してトンズラすることもなくもなくもない。

静岡があまりにひねくれているため、広島から東京までは泳いで行くのが最速だと言われている。瀬戸内海をラクラク突破し、紀伊半島はテキトーにジャンプして、名古屋あたりできしめんでも食って寝て、「もうここらへんでよか、疲れたわ」と東京港行きフェリーに乗ると楽である。名古屋港からは仙台経由で苫小牧にも行ける。

フェリー旅はね、マジで癒されますよ。電波がなくてデジタルデトックスできますから。本を持って行けば熟睡できるし、舞浜よりも素敵な夢を見られます。フェリーにはお風呂がついているので、せっかくだし、ゆっくり浸かりましょう。あ、ちゃんと服を着て出るんですよ。

冗談はさておき、広島から東京までの最適な移動経路は ほふく前進 だと言われている。千里の道も一歩から、一歩も一ほふくから。原点にして頂点の移動手段がほふく前進であり、英国議会が全会一致で Mind the gap!! と異議を唱えた。ほふく前進って、そんなに悪くないと思うけどな。新幹線より1/600も速いじゃないか。

ほふく前進の方が早いのは分かっている。頭ではそうと理解しているのだが、いかんせん身体が追いつかない。東京まで ほふく前進 で向かうには強い精神力が求められる。面接前に消耗しすぎるのも良くない。そもそもスーツが汚れてぐじゃぐじゃになる。耐えがたきを耐え、忍びがたきを忍び、検討に検討を重ねて新幹線で勘弁しておいた。

・・・・・・・

東京駅のホームに降り立ったら、資本主義のにおいが鼻腔を突いた。左鼻・丸の内方面からは三菱系の刺激臭が、右鼻の八重洲口からは大丸百貨店の芳香が漂ってきた。両者がない交ぜとなり、ホームはミディアムレアのビーフステーキみたいな香ばしさが醸し出されていた。これが東京か、凄まじい雰囲気だな。こういう所でシンジローが今日も名言を連発しているのか。

ホームで出口を求めて彷徨していたら、無性にマックが食べたくなった。あ、マックはマックでもマック赤坂じゃない方のマックで、食べたり飲んだりできる方のマックである。じゃない方のマックを最後に食べたのは、十年前の高校三年生のとき。マックのMはドMのMじゃないかと思って以来、あえて近付かぬようにしてきた。新渡戸稲造の武士道を読み、もうちょっと逞しくならねばと思ったのだ。マックみたいに軟弱なドM男になるまいとマックを遠ざけてきた。

十年間に及ぶ鍛錬の結果、マックは性格に無関係であると分かった

確かにマックには大変遺憾である。ピクルスが入っていないバーガーもあるらしく、あれこそが日本の生命線じゃないかと腹が立ってくる。毎年毎年あんだけ美味そうなものを出されたら、ついついお店に吸い寄せられる。ビラ広告も、また良くできているんだよなコレが。マックなんか家の近くに建てないでくれって。札幌時代はアパートから ほふく前進で20分のところにマックがあり、何度も入りそうになった。

しかし、マックを食べようが食べまいが、強いヤツは強く、弱いヤツは弱い。むしろ強いヤツはますます室伏広治化し、弱いヤツはますます萎びたポテトみたいになる。マックは人生のバランスシートであり、リトマス試験紙でもあり、ファンデルワールス力であるともいえる。

無性にマックを食べたくなって、八重洲口のマックに飛び込んだ。期間限定でガーリックバーガーが売られており、ニンニク食って元気でも出すかと脊髄反射的に選んだ。東京駅2Fの屋外の立ち食いスペースまで持って行った。

バーガーを口まで持って行きかけたとき、本当に食べていいのだろうかと思った。これを食べたら、マックを食べる前の私には戻れなくなる。家でイワシ缶が待っているぞ。美味しい有機玄米が冷蔵庫で呼んでいる。豆腐が、卵が、納豆が、ニッカウィスキーが広島で待っている。お前はもう、死んでいる。そうか、じゃあ食べるしかないか。

ひと口かじると、意識が飛びかけた。今まで感じたことのない、地球上のどの語彙を引っ張り出しても表現できない快感が走った。信じられなくて、もう一度食べた。二秒後、瞳孔がひらいてサイヤ人になった。麻薬でも入っているんじゃないかというほど美味しかった。なんだこれ、すげぇなと、食べ物の持つ無限の可能性を教えられた。現代競馬の結晶がディープインパクトなら、現代科学の結晶は ザク切りポテト&肉厚ビーフ コク旨ガーリックペッパー である。

美味しすぎて早く食べ進めたい自分と、じっくり味わいたい自分が綱引きした。勝負の結果、ここは流石に十年培った理性が勝ったらしく、ものの1分で平らげた。美味しかった、と口を拭ったら、強烈なニンニク臭がした。

そういえばあと2時間で最終面接だよな。大丈夫なのか、いや大丈夫ではない。トイレの洗面台で口をゆすいで、それでも足りずにウォシュレットを強で顔面受けした。ウォシュレットのおかげでそこそこマシになったが、Yシャツがびしゃびしゃになり、駅のテキトーな所で体ごと天日干しした。

・・・・・・・

東京駅からJRに揺られ、企業の最寄り駅に着いた。駅の周りは栄えているらしく、スーパーや本屋にパチンコ屋など、三大欲求を満たせそうな場所がひと通り揃っていた。企業からはタクシーで来るよう言われていたが、街の雰囲気を感じたくて、ほふく前進で向かった。

広島は川の中に街がある。面接を受ける企業の街は、平野の中に街があった。街全体が鏡面のようにフラットで、周囲を見渡せども山がない。関東の街はのっぺらぼうである。自然物が少なくて、つい方向感覚を失いそうになる。事実、本当に迷子になってしまって、駅から30分で着くはずの距離を1時間半かけて踏破した。

最終面接は至極順調だった。対策通りの典型的な質問がなされ、揚げたてのハッシュポテトみたいにサクサク処理していけた。結果は追って連絡しますと伝えられて控室に戻ったところ、3分後、マネージャーが本当に追ってきて「内定です」と伝えられた。そのまま会社のアピールタイムが始まり、事業やチームの仕事内容など詳細を教えていただいた。弊社でやりたかったけれどもできなかった仕事を、この会社では全部やれそうで、ワクワクした。

帰りも ほふく前進で帰ると言い張る私を、人事担当とマネージャーが「頼むからタクシーで、せめて歩いて帰ってくれ」と説得にかかった。ここで我を張るのも違うしなと観念して、会社手配のタクシーで駅まで1広末で帰った。

タクシーを降り、スマホケースからICカードを出そうとしたとき、会社からメールが届いて待遇を通知された。弊社より年収が200万も上がるらしい。200万ってすごいな、200万って何百万だよ。

1 2 3 4 5

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

カテゴリー

コメント

コメントする

CAPTCHA


目次