広島生活春夏秋冬vol.18 二年目・4月|会議の会議による会議のための会議に懐疑し、念願のマイカーとWith110円ネコパンチ

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不合理と不条理を楽しむこと

吾輩はぽにょである。理性はもうない。この一年間、どこで何をしていたかとんと見当がつかぬ。

広島生活一年目は散々だった。

会社はいきなり経営危機でボロボロだし、業務も予算カットで思い通りに進められない。論文購読料までカットされたときには鼻水が出た。

プライベートも酷かった。趣味のランニングでは右足首靭帯損傷で全力を出せなくなり、マラソン自己ベスト更新の夢が潰えた。Uターン就職の主目的だった乗馬は、再開したものの全然面白くなくて、3か月でやめてしまった。おまけにマッチングアプリでも相手を見つけられず。仕事で目を酷使したせいか、視力も急降下し、読書まで楽しめなくなった。

本来ならこの一年間は、北大博士課程D3だった。三年間ある博士課程を一年短縮して飛び級修了し、広島に帰ってきた。大学院を飛び級で出たのは、大学受験浪人で背負った一年のビハインドを取り戻すため。研究を突き詰める幸せをかなぐり捨ててでも一年の遅れを巻き返したかった。北大で過ごした八年間、浪人した事実がずっと心の重荷になっていた。何とかして解き放たれたい。一生苦しい思いなどごめんだ。そう思い、力づくで飛び級を成し遂げた。

うつ病と二度の喀血を乗り越え、学位と栄光を携えて故郷に帰ってきた。華々しい社会人デビュー、となるはずが、逆に華々しく散ってしまった。

何が楽しくて生きているのか分からない。会社員生活など何も面白くない。博士号を取って以来、人生に何の進展もない。年齢とほうれい線以外に何かを積み重ねられている感覚がない。顎関節症を患い、靭帯とメンタルと博士課程で培った自信が損なわれた。

広島にUターンしてきたのは、広島に恩返ししたかったから。人生の礎を築いてくれた我がふるさとに、いささかなりとも報いたいと願っていた。純粋度イレブンナインの前向きな動機で帰ってきたのに、苦しくて苦しくってたまらない。こんなことなら帰って来なければよかった。恩返しだなんて試みなければよかった。もっと自分本位で生きればよかった。初任給の高い会社に順張りすればよかった。

広島就職を選んだD1当時の自分を、太田川に突き落としてやりたい。

・・・・・・・

人間はいつまでも不幸ではいられない。浜辺の波が寄せては返すように、人生にも起伏というものがある。何をやってもうまくいく時はあるし、何をやっても失敗するシーンもある。人生を舵取りするのは自分だが、進んだ先でどうなるかは天に委ねるしかない。運命は、めぐり合わせと、神々の戯れによって紡がれていく

京大模試でA判定&冊子掲載するぐらい頑張っていても、毒親からの圧力で精神をやられ、志望校変更せざるを得なくなる。彼女のことが好きだったのに、遠距離恋愛の裏で浮気され、別れ際に「いろいろ頑張ってね」と捨て台詞を吐かれることもある。学振DC1に採用され、北大博士課程を飛び級して首席修了しても、入った企業で顔面麻痺になるほどストレスをためて打ちひしがれることもある。

努力なんかですべてが決まるのなら、もうとっくに人生を上がっている。電車に揺られてぽんぽこりんの弊社に通わずとも済んでいる。努力だけじゃどうにもならないから難しい。たとえ10頑張っても100の力で足元をすくわれる。100頑張っても500や1000の力で徹底的に叩き潰される。なんて不条理な世界なのだろうか。

努力が報われるとは限らない。報われる場所で、報われる方向に、報われるだけの努力をすれば夢が叶う。大学院まではそう信じてきたし、実際になかなかうまくいってきた。

しかし、社会に出た途端、信念は裏切られた。そもそも自分が立っている場所が正解なのかも分からない。頑張りたい気持ちとエネルギーはあれど、方向感覚を失ってしまったいま、何をしたらいいのか、どこに行けばいいのか、そもそも生きていていいのか分からなくなった。ただ漫然と次の日を迎えるほかない自分に、底知れぬ恐怖を覚えている。

・・・・・・・

真面目なのは良いことだと思ってきた。勉強を頑張り、研究に力を入れ、身体の鍛錬にも余念がない自分を誇りに思ってきた。だから、会社では仕事を頑張りたかった。働いて×5、恩返しさせてもらいたかった。仕事に限らず、読書で教養を磨き、何かの間違いでパートナーができたら一緒に幸せになりたかった。

大学から企業に移って、密かにルールが書き換えられたように思う。この世界では、生真面目な人間は割を食うらしい。つなぎなしの十割蕎麦みたいなもので、混じり気がないぶん折れやすい。

仕事の報酬は仕事である。壊れた装置は一向に修理されない。新規提案をしても、うやむやにされるか、「前例がない」とリジェクト。会議のための会議のための会議のための会議もある。甲子園強豪校のように三年連続三度目の組織改革で、毎年名刺を作り替える。これだけ論理的思考力が大事と言われている世の中で、論理的に整合の取れない現象が起こっている。超常現象とでも言うべきか、漫才でも見せられているのか。

古きよき伝統的日系企業で、神経をまともに保って過ごすのは難しい。冷静に考えるたびに”離れるべき”との結論に至る。残る理由が、本当に見当たらない。

それでも、D1の私はこの会社を選んだ。最高の居場所だった大学院を離れて、広島へ恩返しする道を選んだ。まだ恩は返しきれていないと思う。離れるなら恩を返してからだ。このまま広島を離れたら後悔する。あのとき残っておけばよかったなと歯ぎしりすることになる。それに、こんな中途半端なまま離れてしまったら、私に良くしてくれている先輩がたの気持ちをむげにしてしまう。あと二年…… いや、あと一年、このぽんぽこりんの弊社で、あがいてあがいてあがき切ってやる。

弊社を卒業するまでのあいだ、組織の不合理さを逆に楽しんでやりたい。自分とAIでやれば数分で終わることを、会議のための会議のための会議のための会議で連日何時間もかけて議論してやる。幸い、残業すればするほどたくさんお金を貰えるので、不合理を存分に楽しみながら、背伸びでもして組織生活を満喫したい。

努力が報われないのはもう嫌というほど分かった。この世界の理不尽さも十分理解した。これからは不条理を肴に楽しませてもらう。逆境を笑ってぶっ飛ばしてやる。こんなところで腐ってたまるか。また世の中の最前線に戻るため、広島でエネルギーを満充電する。

落ち込んでいる暇があったら笑っていたい。生きていたいとは思えないけれども、生きていてもいい理由をひとつかふたつは見つけたい。2027年3月31日、「広島に戻ってきて正解だった」と笑えるよう、精いっぱい頑張りたい。まずは明日、駅まで無事にたどり着くところから始める。

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