週刊オックスフォード§11 触るモノを全て壊していくチャイナ人ポスドクに爆笑。気晴らしにサッカー観戦へ

目次
  • 【71日目・リア幸-70】12/11 (月):どうしても放浪に行きたい!
  • 【72日目・リア幸-40】12/12 (火):出目金、出目金、出目金、出目金…
  • 【73日目・リア幸0】12/13 (水):アンタが触るモノ全部壊れていくやん笑
  • 【74日目・リア幸20】12/14 (木):寝たふり死んだふり聞こえないふり大々々々々作戦
  • 【75日目・リア幸20】12/15 (金):続・寝たふり死んだふり聞こえないふり大々々々々作戦
  • 【76日目・リア幸40】12/16 (土):オックスフォード・ユナイテッド
  • 【77日目・リア幸50】12/17 (日):オックスフォードのラボで迎える最後の日曜

【73日目・リア幸0】12/13 (水):アンタが触るモノ全部壊れていくやん笑

温かい寝床から引っ張り出されて実験棟まで歩いて向かった。ただでさえ寒くて体調が恒常的に悪いのに加え、こうむやみやたらにこき使われては身体がおかしくなっていく。まして、私がいくら頑張っても私の成果になるわけではない労働だ。他人に他人の実験の手伝いをさせられ時間と体力だけが失われる。労働力を大量消費させられた分、彼女が起こした全てのハプニングをネタとしてブログに書く権利があろう。断られたって書いてやる。それぐらいしなくちゃ釣り合いが取れない。

早速ネタを提供してくれた。彼女が勢い良く手を突っ込んだグローブボックス (GB)から”プチッ!”と嫌な音がした。どうやら破れてしまったようだ。3mm四方の小さい穴が2つ、グローブの根元にポカンと開いてしまった。もっと慎重に手を入れなさいよ笑。いったいどうしてそんなにズボッと手を突っ込んでしまうのかなぁ。

水分を含んだ大気がアルゴンの封入されたGBに次々と侵入。箱の中に設置された酸素センサーや水分検知器のけたたましい警報音が鳴る。彼女はたちまち大慌て。『何が起こったの?!』「アンタがやらかしたんだよ笑」『何を?』「分かんない?」『…うん』「グローブに穴を空けたんだよっ!」『えっ…あっ!!』ようやく過失に気付いたらしい。彼女はグローブに手を突っ込んだまま『ガムテープを取ってきて!』と私へ指示。「アンタがやれよ笑」「分かったよ…」と重たい腰を上げて渋々道具箱からテープを取り出す。彼女がグローブから手を抜いた瞬間、他にも破れたらしき箇所から”ヒュ~~!”とGB内に空気の入る音が。最早ニヤケが止まらない笑。事故がどんどん拡大していく。「で、どうするんだい?」『(破れた所を)テープで貼るしかないわね』「分かった」と応じて応急処置。吾輩の獅子奮迅の猫パンチでGBの更なる故障を食い止めた。

GBの中は希ガス・アルゴンのガスでパンパンに満たされている。アルゴンは、リチウムやナトリウムなど、大気に触れたら激しく反応する物質と触れても反応を起こさない。よって、GBは酸素や水分に触れさせたくない物質を扱う際に用いる。そんな物質の詰まった箱の中に大気が入ったらもうおしまいだ。GB内に安置されていた実験試料が軒並みダメになった。リチウムは酸化。サンプルは腐食。溶液の物性を測る装置も調子がおかしくなったらしい。おいおい、どうしてくれるんだよ。ポスドクのアンタはまだ良いとして、ラボへあと数週間しか居ない私まで実験できなくなっちゃったじゃん。

事故はドミノ倒しのように起こる。GB内の悲惨な環境を鑑みたのか、彼女はGB内で行っていた電気化学実験を一時中断することにしたようだ。『はぁ…』と大きなため息をつく。嘆きたいのは私の方だ。電気を止め、GBの中に仕込んだ実験セルを外に出す。実験セルの中を洗うためにセルを解体するのだが、彼女の入れた力があまりに強すぎ、プラスチック製のねじがぶっ壊れてしまった。二つに折れた。真っ二つに。モーゼが海を割った様子がまざまざと脳裏に描かれた。

『あっ…』と声にならない声が。おあいにく様。どうやら私に長らくとりついていた疫病神はアンタに乗り移ってしまったようだ。彼女が壊した実験セルのねじはラボ内に予備が無い。特注で作ってもらったねじだからまたどこかへ特注で頼まねばならない。また、私自身もそのセルを使って実験を行う予定だった。したがって、彼女と私のこれから数か月分の実験が一切進まないことに。いや~、、、ド派手にやらかしてくれましたねぇ笑。呪われてるわ。お祓いに行った方がえぇで。”放浪に行こう”と決めておいて大正解。留学期間の残り数か月を無為に過ごす羽目に陥る所だった。

とどめの一撃は彼女のスマホ。絶望で手の力が抜けてしまったのか、ラボから居室に戻るアスファルトの路面へスマホを落としてしまわれた。iPhone13の画面はバリバリ。辛うじて動作こそするものの使うに耐えない状態である。たった一日だけで彼女のほとんど全てが粉々に壊れた。流石に哀れだ。「大丈夫?」と声を掛けた。『うん…』と心細そうな返事。慰めてあげたい気持ちもやまやまだが、疫病神が私の側に戻ってきたら困るのでほどほどに距離を置くことにした。

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