北大博士課程を早期修了した化学系大学院生かめ(D2)です。若者が味わう二大困難、『大学受験浪人』と『博士課程』を両方とも乗り越えてきました。
受験浪人を終え北大に入ったとき、「こんな辛い思いはもう二度と味わわずに済むだろう」と輝かしい未来を想像しました。学部、修士と順調に乗り越え、何かの間違いで博士課程へと進学。順風満帆だった自分の人生に突如、強い逆風が吹き荒れ始めたのです。辛いのは浪人で終わりじゃなかったのか? まだあるのか。いったいどんだけ幸薄い人生なんだよ。
博士課程は修士課程在籍中に想像していた10倍は大変でした。少しでも気を抜いたらノックダウンされかねないほどの大きな重圧と戦う毎日だった。
この記事では、受験浪人と博士課程を両方とも経験した私の独断と偏見で、浪人と博士課程はどちらが辛いか解説していきたいと思います。
- 博士課程進学 [D進]を検討中の方
- 浪人経験者がD進したらどう感じるか知りたい方
こうした方々にピッタリな内容なので、ぜひ最後までご覧いただければ幸いです。

それでは早速始めましょう!
辛さの質は同じぐらい。辛さの総量は博士課程の方が多い


受験浪人と博士課程を両方経験した感想としては、辛さの質は互角だなと感じました。浪人と博士課程とでは似ている点がたくさんあるからです。”未だ何者でもない”という未熟感。”失敗したら終わり”との切迫感。他の人はライフステージを進めているのに、自分だけが取り残される孤独感。”休んでいたらダメだ”と休養に対して抱く罪悪感。このように、博士課程では浪人中に抱いたネガティヴな心情を追体験させられました。辛かったですよ。博士課程は浪人生活とほぼ変わりません。三浪と一緒。違うのは、修了したら学位を貰えることぐらいでしょう。
辛さの量だけでいったら博士課程の方が上でしょう。
浪人生活は基本的に一年で終わります。それに対し、博士課程は特別な場合を除いて修了までに三年を要するのです。博士学生は浪人生活の三倍もの期間、浪人とほぼ同じレベルの辛さを味わい続けねばなりません。単純計算で浪人の三倍程度は苦しさを味わうでしょう。もうね、地獄。笑うしかないぐらい辛い。あまりのストレスに耐えかねて何度か吐いちゃったぐらい。
博士課程の何が辛さを増幅させるのか?
博士課程を辛くさせているのは浪人とは異質の辛さ。以下では博士課程独特の辛さを3つご紹介しましょう
自分の力が及ばぬ要素に命運を握られねばならない


博士課程を修了するには、以下2つの条件を満たさねばなりません⇩
- 講義の単位を規定以上取る
- 査読あり原著論文を規定本数以上出版する
①は簡単。ネコでも可能。大学院では課題レポートを忘れず出せばほぼ間違いなく単位を貰えます。履修登録さえ忘れなければ勝ったようなもの。私自身、単位の充足は何の苦労もせずクリアしました。
問題なのは②の論文出版。コイツがなかなかの曲者なのです。
論文を出すにあたってまず、論文掲載用のデータを集めます。いくらデータが欲しかろうとも、欲しいデータなどそう簡単には得られません。実験の仕方を工夫して精度を高めてようやく正確なデータが得られ始めます。予想していた傾向と真逆のデータが出てきたときは頭を抱えて考え込む。データを前に指導教員らと徹底的に議論。様々な人の意見を元に考察を深め、原稿を作っていく。完成版を雑誌投稿。査読はおよそ2か月かかります。2か月かけても必ずアクセプトされるとは限りません。何ヶ月も待った末にリジェクトされるケースもあるでしょう。アクセプトされるまで論文を修正し、投稿し続けるしかありません。一本の論文を書き始めてからアクセプトされるまでに年単位もの時間がかかるのです。
実験や査読の結果は自分の努力如何ではどうにもなりません。たとえどれほど懸命に実験したってゴミのようなデータしか得られぬ場合があります。頑張って書いた論文が何回も連続でリジェクトされ続けるのも珍しくない世界。博士課程では、自らの行く末を『運』に委ねねばならない場面が多々訪れます。もはや賭博者。ギャンブラーと変わりませんね。。確実性のない状況下に曝されることが多く、そのたびに精神が疲弊していく仕組み。
受験浪人ならば自身の努力と志望校の検討次第で合格確率アップを見込めます。博士課程は運の要素があまりに強すぎるがあまり、安牌を狙う方策を取れないのが非常に苦しい所。
『三年』という長さ


博士課程では不確実性の高い境遇を三年も耐え忍ばねばなりません。浪人と同様の辛さを味わいつつ、将来が運に支配される理不尽さをも甘受し続ける三年間。長いです。あまりに長すぎる。せめて一年半ぐらいで済むなら心を健康なまま保っていられるのに。二年は苦しい。三年は生き地獄。人によっては四年、さらにはもう一年…とオーバードクターに。四年も通ったらオリンピックが二つ終わっちゃいます。博士課程修了時には30歳を超えてしまう方もいらっしゃるかもしれません。
私自身、標準年限の三年すら耐えられそうにありませんでした。少しでも早く修了するために早期修了を目指したのです。博士学生にとって博士課程の【長さ】は大敵じゃないかと思います。
クォーターライフ・クライシス


20代半ばから30代前半にかけて経験する幸福度の低迷期を精神学用語で『クォーターライフ・クライシス [QLC]1』と呼ぶそうです。QLCになると、理想と現実のギャップに苦しんだり、アイデンティティーを見失ってどう生きるべきか分からなくなったりします。
SNSや情報技術が発達している現代だからこそ、昔なら知らなくても済んでいたであろう様々な情報が目や耳から飛び込んできます。不要な情報が眼に入ってきては自分と他者を比較して”どうして私は何もできないのだろう…”と落ち込むのです。博士課程では特に他人の動向が気になりがち。大学や国研のポジションを得るには他人との業績合戦で勝たねばならず、戦う相手にいまどれぐらいの業績があるか知っておく必要があるからです。自分が抜きん出た存在ならば問題ありません。平凡な存在に過ぎないならば、誰かと業績を比較するたび己の凡庸さに思い至るでしょう。辛さを加速させるのがQLC。「自分に研究なんて向いていないのかな…」と思い詰め、博士課程を乗り超える気力まで奪われます。
私自身、理想と現実の著しい格差に苦しめられ、深刻なQLCに陥った者の一人。周りのことや自分の理想なんて気にしたことがなかった受験浪人時代はまだ幸せでした。
【注意】浪人未経験の博士進学予定者は強い覚悟を持って進学して
博士課程がどれだけ過酷かお分かりいただけたかと存じます。浪人と同様の辛さを背負わされた上、博士課程独特の辛さが加わるとあっては並の神経だと潰れてしまうかもしれません。
浪人経験者なら大丈夫。浪人中に辛さを味わい、それを突破してきた経験があるからです。辛くなったら浪人時代を思い出しましょう。あれほどしんどい背水の陣を乗り越えてきたのです。博士生活も頑張れば耐えられます👍
浪人未経験者は要注意。修士課程までとは全く異質な辛さに煩悶することになるでしょう。強い覚悟を持ってD進して下さい。最後まで気を抜かぬように。抜いたら気絶してしまいますから。
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