北大博士課程を早期修了した化学系大学院生かめです。
博士課程を修了するには三つの条件があります。一つ目が業績要件を満たすこと。二つ目が博士論文を提出すること。そして三つ目が、当記事でご説明する学位審査会を乗り越えること。博士課程では何よりも「結果」が求められます。学士と修士は努力賞。博士号は努力を前提として、研究で成果を出して学術・学位論文としてまとめ上げる総合力が必要なのです。
博士課程では3つの学位審査会があります。中間審査会、予備審査会、そして公聴会(最終審査会とも呼ばれる)です。各審査会の内容は似て非なるもの。それぞれの審査の特徴を理解して臨めば過度な緊張から解き放たれるでしょう。
この記事では、博士課程で行われる各学位審査会の違いについて説明します。理解しやすいよう比較一覧表を作りました。D進予定の方や博士課程在籍中の方にピッタリな内容なので、ぜひ最後までご覧ください。
かめそれでは早速始めましょう!
学位審査会比較一覧表
学位審査会の一覧表を作成しました。以下に示します↓
| 中間 | 予備 | 公聴会 | |
| 開催時期 | D2夏 | 修了3か月前 | 修了2か月前 |
| 役割 | 現状確認 | 耐久度確認 | 最終確認 |
| 発表/質疑時間 | 20分/10分 | 40分/∞ | 40分/20分 |
| 雰囲気 | なごやか | えげつない | おごそか |
| 落ちる可能性 | ほぼ無し | アリ | ほぼ無し |
| 落ちたらどうなるか | どうもならない | +半年 | 最初からやり直し |
| 乗り越えた感想 | 特になし | 疲れた… | スッキリしない |
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それでは次に、各審査会の特徴について、表記した七項目から比較していきましょう。
開催時期


博士課程の標準年限は三年間。中間審査会は課程のちょうど真ん中にあたるD2夏に行われます。自分の場合は9月中旬に行われました。専攻内の同期の中間審査は10月末に行われたようです。中には8月に行われる方がいらっしゃるかもしれません。スケジュールは人によってバラバラですね。
予備審査会の開催時期は、修了予定時期の3か月ほど前。修了する時期に応じて開催時期が変わってきます。大半の方はD3の3月に修了するでしょう。この場合、予備審査会が行われるのはD3の12月ごろ。自分の場合はD2・3月の修了を目論んでいました。私の予備審査会が行われたのはD2の12月でした。
予備審査会と同様、公聴会のスケジュールも修了予定時期に左右されます。修了を希望する時期の2か月ほど前に行われることが多いです。大学や専攻によっては修了1か月前に行われるケースもあるそう。どんだけギリギリやねんって話。引っ越しと発表会の準備を同時並行で進めるのは大変だろうと思います。
審査会の役割


中間審査会の役割は「現状確認」。博士候補生の現在地を複数人の審査員でチェックします。研究でつまづいていないか。研究方針に大きな誤りはないか。論文を出版できているか。三年以内に修了できそうか、など。指導教員とのディスカッションだけでは浮き彫りにならなかった課題が見つかるかも。中間審査会は学生にとって有益です。いただいたアドバイスは全て有効活用したいもの。
予備審査会の役割は「耐久度確認」。博士候補生に大きな負荷を与えることで、研究やメンタルのレベルを試験されます。予備審査会では副査の先生から鋭い質問が飛んでくるでしょう。ストライクゾーンの内角高めに火の玉ストレートがバシバシ突き刺さってくる。予備審査会まで進めた時点で博士論文提出要件は充足済み。予備審査では、研究者として必要なタフさがあるかどうかをじっくりと試されていくのです。
公聴会の役割は「最終確認」。博士候補生が学位に相応しいか否かを専攻内の教員陣総出で見定めにかかります。プレゼン能力は十分かどうか。自分の研究を自分の言葉で説明できるか。専門外からの質問にも対処できるか。分からない質問が飛んできたとき、自分の土俵へ引きずり込んで相手を説得する狡猾さを有するかどうか。公聴会を乗り越えればすべてが終わります。これで我々は○○博士です。
審査時間・雰囲気


中間審査が一番短く、予備審査会と公聴会が同じぐらいの長さです。以下では、自身の所属元専攻を例にお話しします。
中間審査の発表時間は20分、質疑応答が約10分でした。雰囲気はなごやかそのもの。笑いの絶えない時間でした。喩えるならば、春の日差しを浴びながら公園の芝生へ寝そべり、目をつむって30分ぐらいひなたぼっこしてきたような感じ。緊張はせず、冷や汗すらかかず、気が付いたらもう終わっていました。
予備審査会の発表時間は40分、予定質疑応答時間は20分でした。雰囲気は相当ピリピリしていた。何だかえげつなかったですね笑。指導教員と私の間に伝達ミスがありました。その影響で、ある審査員さんをカンカンに怒らせてしまい、質疑応答が大炎上して60分も行われたのです。最初から最後までずっと立ちっぱなし。緊張と貧血とでぶっ倒れるかと思いました。
公聴会の発表時間は40分、予定質疑応答時間は20分でした。雰囲気はおごそか。目の前に教員陣がずらりと並ぶ景色はなかなかの壮観。ド緊張してもおかしくなかったのに、不思議と緊張はしなかったですね。中間審査よりも落ち着いて話せました。炎上もゼロ。予定質疑時間を5分超過するだけの短時間決着となりました。
落ちるケース


中間審査会で落ちるケースはまずありません。中間審査はあくまでも現状確認の場。学生を落とす必要がないのです。業績蓄積ペースは人それぞれ。中間審査の時点で必要業績量の半分にも満たぬ博士候補生は大勢います。業績があれば「頑張っているね👍」と言われるでしょう。業績が少なくても「これから頑張ろうね👍」でおしまいです。
選抜が行われるのは中間審査と予備審査の間。予備審査会へ挑める人間は、博士論文提出要件を満たした博士候補生のみ。業績量の足りている学生に限って予備審査会へと進めるのです。業績不足の方は予備審査会へ挑む資格すら与えてもらえません。予備審査会進出へのGOサインを出すか否かを決めるのは指導教員。先生の首を縦に振らせるには十分な業績が求められるでしょう。
予備審査は落ちうる審査会。ネット上では予備審査会に落ちた例を複数観測できます。いくら業績量が足りていてもダメ。プレゼン能力や質疑応対力が欠けていれば、審査員を満足させられず、不合格判定を下されるでしょう。予備審査会に落ちたらどうなるか。博士課程がもう半年、ないし一年延びて、苦しみが長続きすることに。
海外の博士課程は公聴会で落ちうるみたい。日本の博士課程では、公聴会まで進んだ学生を落とすケースはほとんどありません。しかし、ごくごく稀に落ちてしまう方が。公聴会で不合格になったら地獄が待ち受けています。なんと、博士論文提出要件にカウントした業績がリセットされるのです。「最初からやり直し」ということ。慈悲の欠片もありません。予備審査会で厳しめにチェックが行われるのは、学生にこうした悲劇を経験させないようにするため。
乗り越えた感想


中間審査会はイージーでした。落ちることはないと知って臨んだ学位審査。緊張もしないし、達成感もないし、特に感想はありません。
予備審査会を終えた瞬間に思ったのは「疲れた。もう嫌だ…」というもの。一時間、みっちり爆詰めされて、心身ともに疲労困憊になりました。予備審査だけはもう二度とやりたくありません。一億円あげるからと言われても再登板したくない。学生をネチネチ詰める審査員側ならやってみたいかも笑。厳しめの質問に動転して額から汗を流す学生をいじめるのはさぞ楽しいでしょう。
公聴会の部屋を出た瞬間、何だかモヤモヤとしてスッキリしません。とてつもない解放感に包まれるかと思っていました。ありとあらゆるプレッシャーから解き放たれたのだから、奇声を上げて走り回るぐらいの奇行に至ってもおかしくはないだろう、と。不思議と喜ぶ気持ちになれなかったのです。本当に終わり?まだ次があるんじゃないの?自分が博士?自分が、Ph.D…..?博士課程を終えた実感は、大学院修了式にてようやく湧き上がってきました。工学院長から学位記を貰った瞬間、長年の苦労が報われた嬉しさで感極まって泣きそうになったのです。
最後に
博士課程の学位審査会は研究者への登竜門。中間審査会では研究の現状確認と方針決定を、予備審査会では研究者としての耐久度を、そして最後の公聴会では博士号に相応しい人物であるかの最終判断が下されるのです。
各大学・専攻で学位審査会の形式や厳しさは異なるようです。ですが、研究成果の論理的説明力や的確な応答力など、研究者としての資質は必ず問われています。とりわけ、予備審査会での厳しい質疑応答は絶対に避けられません。私の経験から、審査会を乗り越えられる準備は日々の研究活動で行えると確信しました。研究室でのディスカッション、学会発表、論文執筆の全てが力になるでしょう。
この記事が、博士課程進学希望者の道標となれば幸いです。研究者への第一歩を踏み出す皆さんを、心より応援申し上げます。






















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