北大と国研で研究している化学系大学院生かめ (D2) です。B4からD2までの五年間で筆頭論文を六報出版しました。
論文は書き上げるだけでも大変。どれだけ短い学術論文でも、作り上げるのに一か月程度は論文へかかりっきりに。投稿後の査読プロセスも同様にハード。雑誌編集者や専門家の目により内容が徹底的に精査され、内容の量や質が掲載に値するものでなければ容赦なくリジェクトされます。学術論文の価値は査読によって担保されるのです。学術論文を出版したければ査読に挑戦するしかありません。
この記事では、論文の査読コメントが返ってきたときの対処で気を付けるべきポイントを4つ解説します。学術論文を出版したい学生さんへピッタリな内容なので、ぜひ最後までご覧いただければ幸いです。
それでは早速始めましょう!
相手はボランティアで査読してくれている。なるべく低姿勢で対応しよう
まずは相手の立場を慮りましょう。
査読は科学者によるボランティア活動。大半の場合、雑誌会社は査読者へ謝礼金を一円も支払いません。査読は研究者らの善意で成り立っている営為。自分の記した論文を他の研究者に査読してもらう代わりに、他の研究者が書いた論文を自分が査読して掲載可否の判断を下します。指導教員曰く、『まだ世に出ていない研究成果を見せてもらえるから査読は楽しいよ♪』とのこと。査読にプライスレスな価値を見出していらっしゃるのでしょうか、”査読料をくれ”と愚痴を吐いているのを一度も聞いたことがありません。
研究者は毎日多忙。論文を記したり、自分の研究プロジェクトを回したり、研究費の申請をしたりと大忙し。そのうえ査読までやらねばなりません。査読者には査読期限が設けられています。納期に間に合うよう論文を読み、何がしかのコメントをする必要が。無償で、かつ多忙な研究者さんに時間を割いて論文内容を審査してもらう以上、査読コメントにはなるべく低姿勢で返信すべき。「査読してくれてありがとう」との愛を込め、批判を真摯に受け止めつつ、指摘された改善点をブラッシュアップして返信してください。間違っても高飛車で返信してはダメ。査読者の心象を損ね、アクセプトされるはずだった論文でもリジェクトになってしまうでしょう。
ピント外れなコメントに嚙みつきたくなってもグッと堪えて下さい。相手が誤解を抱いた原因は、コチラ側の作成した原稿にあるかもしれません
査読コメントを大別すると三種類に分けられます。
- もっと詳しく議論しろ系コメント
- ○○がよく分からない系コメント
- ○○が奇妙だ系コメント
以下ではそれぞれへの対処法について詳述します。
もっと詳しく議論しろ系コメント:アクセプトの前兆。議論を深掘りして考察の文量を増そう
もっと詳しく議論しろ系のコメントは、実験解析データに対する考察が不十分だったときに送られるコメント。決してネガティヴなものではありません。むしろ逆に、超ポジティヴなもの。アクセプトの前兆と言っても間違いではないでしょう。レビューへ真摯に対応すればほぼ確実にアクセプトされます。「議論が不十分だった…」と落ち込まぬように。ディスカッションパートのボリュームを膨らませられさえすれば難なくアクセプトされるのですから。
査読者がその箇所についてもっと議論すべきだと考えたのは、査読者自身がそのポイントについてより詳細に知りたいと思ったから。レビュアーがその箇所に何らかの価値を感じており、原稿を作成した我々にその価値を表出させて欲しいと願っているのです。レビュアー自身は提案と質問しかできません。論文へ手を加えたいと思っても、内容を書き換えられるのは我々論文作成チームのみ。査読とは、査読者と我々とによる共同論文改良作業。査読者が送ってくるコメントは、論文の価値を増幅させてくれる宝物のようなヒントばかり。査読者の意図を汲み、指摘された箇所について深掘りしましょう。深掘りすればするほど価値が増し、他のグループから引用される可能性も高まってくることでしょう。
○○がよく分からない系コメント:どんな論文も説明不足では分からない。言葉を補って分かりやすく説明する
学術論文を記していると、データや考察の説明がつい不足気味になってしまいがちに。論文を書き慣れていくにつれて自分の実験手法が常識だと錯覚してしまい、「まぁ、コレぐらいは説明しなくても伝わるでしょう」と勘違いしてしまいやすいのです。
自分の研究について一番よく知っているのは自分。指導教員も配属学生と同程度には内容に精通しているでしょう。けれども、我々の扱っている手法が必ずしも専門領域で一般に知られているものばかりではありません。専門分野が同じ研究者でも知らない手法が存在することもしばしば。研究内容が専門化していくにつれ、よりマイナーな手法を用いて研究するようになる傾向が。メジャーな手法なら説明してもらわなくても分かるけれども、馴染みのないテクニックを使われた研究についてはちょっと何を言っているか分かりません。まして、マイナーな手法の実験データなんか理解できるわけがない。いくら凄い成果を出して論文にまとめたとしても、説明が不足していれば凄さは正しく伝わらないし、査読者だってアクセプトサインを出すのを躊躇するかもしれません。
査読者に理解してもらえなかった部分は、言葉を補って分かりやすく説明しましょう。返信原稿の中で説明するのはもちろん、指摘された箇所の原稿内容までしっかりと説明を追加して分かりやすくしてください。論文執筆の目標は、学術分野の基礎的な教科書一冊分の知識さえあれば理解できる文章を記すこと。メジャーな手法の解説はほぼ無しで良いけれども、教科書に載っていないマイナーな手法を用いるならば解析手法や考察パートを詳述せねばなりません。自分の手法がメジャーなのか、それともマイナーなのかを認識するのが先決。マイナーな場合、上記のポイントに気を付け、原稿を丁寧にブラッシュアップしていきましょう。
○○が奇妙だ系コメント:真新しい結果に驚いている。論拠を示し、結果が正統であることを証明する
学術論文とは、人類の知的領域を少しでも拡大するために記される媒体。論文の中には、今まで誰も知らなかった新しい知見が散りばめられています。新しい発見がなければ論文になりません。というより、既知の事実を改めて論文にまとめる意味は全くないのです。たとえどれだけボリュームの少ない論文であろうとも、その中には今まで我々が報告するまで未知だった内容が含まれているはず。未知の発見が常識にそぐうものか、それともそぐわないものかによって査読者の反応が分かれます。
査読者や科学コミュニティの常識にそぐう発見なら素直に受け入れられるでしょう。常識に反する知見を報告すれば、驚かれるか、『そんなのあり得ないよ』と拒絶されるかの二択。査読者はジャーナルからの査読依頼に応じている以上、真新しい知見を目の当たりにしても『あり得ない!リジェクト!』とは済ませられない。結果を受け入れ、『どうしてこう言えるの? (ちょっと信じられないんだけど…)』と更なる説明を促すしかできないのです。我々原稿作成チームは、査読者が抱いた疑問を解消すべく、真新しい発見の正当性について言葉や追加データでもって説明していきましょう。結果の正当性を示すのは我々の担うべき、かつ我々だけにしかできない仕事。査読者をアクセプトに踏み切らせられるだけの安心材料を提供しましょう。説明に納得できれば査読者は心置きなくアクセプトサインを送られますから^ ^
アクセプトまであと少し。査読対応をやり抜こう!
そもそも、編集者や査読者にリジェクトされなかった時点で既に勝利は手中にあります。海外の学術雑誌の場合、NatureやScienceクラスだと95%の確率で、標準的な学術雑誌でも50%の確率でリジェクトされるのです。前向きな査読コメントが返ってきている時点で喜ぶべき。我々の記した論文が最初のスクリーニングを突破した証なのですから。査読対応が始まれば、アクセプトまであと少し。低姿勢を貫き通し、焦れず、思考作業を投げ出さずに最後までどうかやり抜いてください。
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