こんにちは!札幌と筑波で蓄電池材料研究を行う北大工学系大学院生のかめ (M2)です。
M2の2月中旬現在、筆頭論文3報 (うち英語2報)と共著論文1報の計4報の論文を書いてきました。
この記事では、論文を学術雑誌に投稿してからアクセプトされるまでの一連の流れについて、実体験を踏まえながら投稿者目線で解説していきます。
- これから論文投稿に挑戦する学生さん
- 論文掲載歴はあるものの、どのようなプロセスを経てアクセプトされたのかイマイチピンとこなかった方
こうした方々にピッタリな内容なので、ぜひ最後までご覧頂きたいと思っています。
それでは早速始めましょう!
流れの模式図
論文がアクセプト/リジェクトされるまでの流れをまとめた模式図を以下に示します⇩
各項目について一つずつ解説していきます。
論文がアクセプトされるまでの一連の流れ
第一ラウンド:編集者vs.著者チーム
学術雑誌に投稿された論文は全て、まず各雑誌の編集者の手元に行き届きます。
その編集者が論文をパラパラと読んで (おっ、この論文すごいやん)と思ったら査読に回す決断を下し、逆に (なんかイマイチやなぁ)とか (前にも同じような論文出てなかったか…?)など論文が掲載に値するものと思えなかった場合はその時点で不受理 (リジェクト)となるのです。
編集者によってリジェクトされることを業界用語で『エディターズキック』と呼ぶようです。
私が属する化学系コミュニティーの場合、エディターズキックされるか否かは投稿から1週間程度で判断されます。
なぜ投稿された論文を編集者が選り分けるかといいますと、投稿論文を全部査読に回していたら査読者の負担が甚大なものとなるからです。
世界各国から毎日のようにおびただしい量の論文が投稿される現代において、雑誌の編集者さんが価値ある論文を多少選別しておかなくては査読者が他の業務に手を回せなくなるのです (註:この査読業務が大学の先生たちを忙しくする要因の一つです)。
無事に編集者の壁を突破したら、いよいよ論文が査読者に送られ本格的な査読が行われます。
査読期間は1~2か月。投稿した論文のボリュームや雑誌の規定によって期間はまちまちとなっています。
第二ラウンド:査読者チームvs.著者チーム
第二ラウンドは査読者”チーム”との戦いです。
査読は通常2名以上で行われ、全ての査読者に「この論文を掲載していいよ」と納得させる必要があるのです。
査読者は投稿した論文と同じ (もしくは近い)領域を専門分野としているため、非常に専門的な観点から論文を何度もじっくりと読み込んできます。
したがって、たとえ編集者の目を誤魔化せたとしても、査読者の手にかかるとホンモノな論文かそうでないかは必ず見破られてしまいます。
1~2か月の査読期間が経過すると、雑誌の編集者チームから査読結果がメールで送られてきます。
そこには
- Reject:箸にも棒にもかからない
- Minor Revision:少しの修正で掲載OK
- Major Revision:かなり大きな修正が必要だけれども基本筋はアクセプト
など各査読者の印象が記されており、”リジェクト”と書かれてあったらこの時点で投稿した雑誌への掲載は叶わぬ夢と化すのです。
なお仮にリジェクトとなってしまっても、投稿した論文がACS (アメリカ化学会)やRSC (英国王立化学会)のような大きな学会に属する雑誌の場合、「投稿雑誌より1~2グレード低い雑誌へ掲載しませんか?」と編集者からお誘いが来る場合があります (註:これを業界用語で『トランスファー (Transfer)』の誘いと言います)。
私の場合、Cell系列のインパクトファクター(IF)42の雑誌にリジェクトとなった際は同系列のIF9の雑誌へのトランスファーのお誘いが来て、RSCのIF38の雑誌にリジェクトとなった際は同系列のIF4と7の2雑誌へ掲載しないか?と打診されました。
一方で、”なんちゃらリビジョン”と書かれてあれば、修正の出来次第で論文が掲載される可能性があります。
ここまで来れば何としてでもアクセプトされたいでしょうから、”どうすれば上手く直せるかなぁ…”と必死に考えて論文を修正していきます。
ココでアクセプトのため大切になるのが、頑なに査読者の意向に逆らおうとせず、なるべく素直に修正案を受け入れて査読者のご機嫌を取ることです。
大抵の場合、査読者は査読料をいただかず無償で時間を割いて査読をやってくれているので、無下に査読者のコメントを切り捨てると(なんだよコイツ、こっちはボランティアで査読やってあげてんのにさ!)と腹を立てられリジェクトとされる確率が高くなっちゃいます。
査読者が論文の論旨を読み違えているのでない限り、査読者の言うことには従っておくのが吉と出ます。
もし査読者が読み違えをしているのであれば我々執筆者チームの論文の書き方が悪かったことになるし、この場合も論文をより分かりやすく書き直すことで査読者に対する謙虚な姿勢を終始キープし続けてください。
往々にして、査読者とのやり取りは一度で終わらないものです。
査読者チームとコメント-修正のラリーを繰り返し、査読者全員が折れて納得したら査読プロセスは終了となります。
もし査読者からのクリティカルな指摘に著者チームが対応できなかった場合、ラリーの末に無残にもリジェクトとなってしまう場合があります。
悲しいですが仕方がない。急所を解決できなかった著者チーム側に落ち度があるというものです。
リジェクトとなったらまた別の雑誌を探して投稿作業を行うのですが、ココでも編集者の壁から再度突破し直さねばなりません。
加えて、我々の論文をリジェクトした同じ研究者へ再び査読が回される場合も考えられ、リジェクトされてから完全に無修正で論文を投稿するとまたリジェクトとなる可能性があります。
したがって、一度リジェクトを食らったら、次はリジェクトを食らわないよう論文を書き直す手間が必要となります。
この手間を省くと永遠にアクセプトされないので、面倒なのは重々承知ですが丁寧に書き直して頂きたいです。
第三ラウンド:別の査読者チームvs.著者チーム (*超一流ジャーナルのみ)
査読者チーム全員を納得させたのち、エキストラステージとして査読者チーム第二陣との対決が待ち構えている時があります。
一般的なジャーナルなら第一陣を突破すればアクセプトとなるものの、Nature, Cell, Scienceやその姉妹紙など超一流雑誌へ投稿した場合は特別ステージが控えています。
エキストラステージでもルールは同じ。全ての査読者を納得させることが勝利への必須要件です。
もしエキストラステージで”リジェクト相当”とコメントされた場合、編集者内での協議の末にココまで来てリジェクトとなる可能性があります。
NatureやScienceの論文に価値があるのは、こうした幾重にも立ちはだかる壁を突破してきたからなんです。
死屍累々を乗り越えて掲載された論文からは強者のオーラをひしひしと感じられます。
最終ラウンド:アクセプト後の図表修正→掲載!
めでたくアクセプトされたとしても、まだ気を緩められません。図表を雑誌所定の様式に整える大切な作業が残されているのです。
査読中はまだアクセプトされるか否かが確定していなかったため様式はテキトーでも良かったのですが、アクセプトされ掲載が決定したなら図表をキチンとしなくてはなりません。
この最終ラウンドの厄介な点は、与えられる修正対応期間が”2~3日”と非常に短い所です。
(えっ、こんな短い期間で直さなくちゃいけないの?!)とビックリするぐらい短いですから、アクセプトされた余韻に浸る間もなく作業しなくてはなりません。
全速力で修正を行い、完全版を編集者チームに送ります。
コレでようやくアクセプト。論文は数日中にネット上で公開され、多くの人にダウンロードして見ていただけます。
最後に
論文を投稿してからアクセプトされるまでの一連の流れはコレで以上となります。
皆さんが今後論文投稿へ挑戦する際の参考になれば幸いです^^
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